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エピローグ 結末とは味気ないもの

 商人であるガマ蛙は欲が深過ぎた。

 人間求めるものに際限なく、飲み込めるだけ飲んでしまうのは仕方のない事なのか。

 あれから俺たちは何もする事なく屋敷を出た。

 皇さんはガマ蛙に脅しとして「今度私たちに関わるのなら手足から順に潰される覚悟を持って来るが良い」と捨て台詞を残して行った。

 もうあのガマ蛙に俺たちを報復する気はないだろう。

 全身から力が抜け、粗相をしながら気絶した小心者に関われる度量はない。

 仮に報復に出ようにも竜人種さえ圧倒する者たちは物理的に何とかしてしまう。いつその牙が返って来るかも分からないのに私怨だけで手を出そうものなら商人としては失格としか言い様がなかった。


「いい匂いだねー」


 だから問題はないとするマイランさんの談だが、俺個人で言えば少し不安であった。

 人がそんなに割り切れる物ではない事を俺は知っている。

 蹴落とされた者が他者を蹴落とす事に躊躇が無くなる様に、転がされたから転がしてやったと高笑う奴らの醜さは肌で感じているが故に臆病になってしまう。


 ――ならば忘れさせておこう。


 そう言って皇さんは屋敷全体に何か粉を撒いていたが、脳に直接侵入して海馬を操作するナノマシンがうんちゃらと、………聞かなかった事にしよう。とにかく不安になるだけ無駄だと理解した。

 結果、事件は突如として商人ギルドが廃墟に変わったと周囲には伝わり、この事件の真相を知る者は一部だけとなった。

 

「いい香りだ。早く用意したまえ」


 ついでと言うには可笑しな話だが武内さんと戦ったタカトラさんだが、結局あのまま放置となった。

 武内さんとしては中々良い人材。こんな言い方をすればノドカが嫉妬するかも知れないが【麒麟招来】と呼ばれる貴重なスキルを使える竜人種。ノドカの様に鍛えればノドカよりも早く武内さんと肩を並べられるんじゃないかと思っていた。

 しかし現実とは想定よりも酷なものらしい。


 ――うーん、このオジサン既に完成しちゃってるから無駄なんだよねー。


 武内さんからすればタカトラさんはあれ以上期待は出来ないのだと。

 粘土細工と同じらしい。

 ノドカはまだまだ捏ね始めたばかりの粘土であり、手を加える余地のある未完の作品。しかしタカトラさんの場合は素焼きまで終えてしまった陶器だとか。

 見ている分には味があるが、これ以上手を加えるにしても色付けしか出来ないのでそれ以上の進化を見られない。形を変えようにも割れてしまうのでアレで完成形となる。

 まあ元の世界だとあの領域にも到達した人はいなかったから楽しくて良かったけどね、と笑っていたので別に良いのだろう。


「流石主の料理だ」

「……美味しそう」


 今回の事件で一つ驚かされたのはレンの才能だった。

 俺は現場を前後でしか見ていないので実際にやったのかは半信半疑だが、レンは要塞と思える商人ギルドの壁を砂に変えた。

 確かに最初に来た時はあった壁が全部全て砂に変わっていたので間違いではないのだろうが皇さんがやったと聞かされた方がまだ実感出来た。

 ノドカにも確認を取ったので誰も俺を謀っていないのは分かるがどうすれば砂になるのか。魔法?にしてはステータスで魔力ゼロで使えるのか。

 これは今後もレンの成長を見守るしかないのだろう。


「なるほど。ここでハーブを入れるのですね。中々面白い手法だと感服します師匠」


 一番の問題はこの人だろうか。

 マイランさん。着いて来ちゃったんだよなー。

 あの後、俺はマイランさんが冒険者ギルドに戻るものだと思っていた。

 しかしマイランさんは本気で秘書を辞めたと言う。あれは嘘じゃなかったのか。

 行き場の無いマイランさんは元の冒険者に戻るにあたって俺たちに同行、正確には俺に同行して自分の料理のクオリティを上げたいそうな。

 この問題に対して皇さんと武内さんは別に構わない、とあっさり了承。ノドカとレンに至っては俺の意志次第だと。つまりこの問題は俺にゆだねられた訳だ。

 料理の為だと言われれば俺しかないのだが、こうも女性ばかりが増えると落ち着かない。

 最初はギルドに戻っていただいてレシピを教えるとしたのだが、勢いで辞めた手前、戻るのはかっこ悪いと駄々を捏ねられた。

 しかもレシピでは分からない匠の技はやはり近くにいてこそ盗めるもの、と豪語して結局押し切られてしまい、宿にまで着いて来て今に至る。


「まだもう少し掛かるから自由にしてろよ」

「えー、まだ出来ないのー?」

「さっさと作りたまえ。出来るだろう?」

「私は主の側に」

「……レンも」

「師匠の腕を盗む必要がありますので」


 女性が三人集まると姦しいと聞くが五人も集まればどうなのか。『なぶる』を超えたのは確かか。

 煮込み料理の仕上げは繊細に。

 味を染み込ませて煮るだけに濃くも薄くもなる奥深い料理は一手変えるだけで味に大きな影響が出る。

 だからお願いです。落ち着いて料理をさせて下さい。


「それでこの街を出たら竜人種の里で良かったよな?」


 今後の方針。

 目標ばかり決めて何から始めるとは考えていなかった。

 もっとも、第一目標である『竜人種の里の殲滅』と第二目標の『素材集め!~ボクのピッケルが轟き叫ぶ~』は並行して行えるので問題はない。

 ただ第三目標の『国家転覆』はプランを定めなければ達成は不可能。………いや、不可能ではないが面白い感じにかき混ぜたいので保留で良い筈。


「うーん、それなんだけどね」

「ん?」


 武内さんは言葉を濁しながら呟く。

 

「何か別に良いかなー、って」

「良いのかよ」


 鍋の中を眺めながら竜人種について思った事を武内さんは口にしていく。


「竜人種が最強の種だって言うのはなんとなーく理解出来たんだけどさ。本当にそうなのかなって思って。だって横のメイドさんだって強いし?ちょーっと組手したいと思うんだけど付き合ってくれないし?」

「私の専門はメイドですので」


 きっぱりと断るマイランさんの目も鍋に釘付けだった。俺の一挙手一投足を逃すまいと表情は真剣そのもの。武内さんの望みを叶えるのは当分先になりそうだ。


「そうなるとさ。エルフの里も行ってみようかなーってなるよね?だったら他の種族にもあってみたいし、人の中にももしかしたら『武』の頂きに届いている人がいるかも知れないし」

「だったら竜人種の里に行ってからでもいいんじゃないか?」


 俺は妥当な提案を促す。

 しかし武内さんの中では納得しないようだった。


「いやー、【麒麟招来】だっけ?あれ出来る人って僅かしかいないんでしょ?そうなると竜人種の里に行ってもダメかなって。結局私としては【麒麟招来】の上が欲しいんだし」

「その上ですか…」


 武内さんの欲張りさにノドカが愕然とする。

 竜人種でも一握りしか出来ない【麒麟招来】。それ以上の力を求められているのだからノドカの苦労は増すだろうな。せめて鍛練が辛過ぎるものでないといいが。

 

「だから保留。誰かここに行きたいって言うのがあればそっち優先で良いよー」


 しばらくはノドカちゃんで満足するし、と言い切って料理が完成するのを待った。

 

「ならば私も似たようなものだ」

「皇さんもか」


 皇さんの求めているのは素材。今のままでは作りたい物も作れないのではないだろうか。


「少しこれに興味が湧いた。お前の奴隷だが借りるぞ」

「手荒な真似はしないよな?」

「……っ」


 俺の中でのイメージは何故かレンが機関銃を腕に付けて暴れ回るイメージ。改造としか思えない所業をするのではないかと思えてしまう。


「安心したまえ。ただの教育だ。ある程度の目途が付く頃には素材の問題も解決している」

「ならいいが」


 多少不安も残るが非人道的真似はしないと言うなら信じよう。

 皇さんは無駄な嘘を言う人ではないと思っている。最悪、まあ、うん死ななければ良いよな。


「頑張れ」

「……頑張る」


 レンが震えて涙目なのは見なかった事にする。

 これもレンの為になるだろうと信じて待つのも大事だ。

 しかしそうなるとあれだよな。


「目標が全部曖昧になったよな。『国家転覆』も今やる気ないし」

「そうだねー」


 第一、第二、第三の目標全てがぶっちゃけやる気になったらやる程度。

 これがしたい、やりたいがないのだ。

 そう言えば第三目標はマイランさんには伝えていなかった。

 

「マイランさん」

「何でしょうか?」

「俺はこの国を潰そうと思ってるけど、それでも来るのか?」


 もしも否定するならそれまで。

 料理についてはレシピを教えるがそれ以上の関わりはない。申し訳ないけど冒険者ギルドに戻って秘書をしてもらう。

 しかしマイランさんは意外な事を口にした。


「もちろんです。どの道この国は遅かれ早かれ潰れますから(・・・・・・)

「それは『人形王』とやらの采配かね」

「そうですね」


 皇さんには思い当たりが、そう言えば『人形王』もこの国を潰そうとしていたか。

 今の今まですっかり忘れていたが『人形王』が襲って来るから呼ばれたんだっけ俺たちって。


「つまり私たちがそうしたとしても関与しないと?むしろ手伝うと解釈して構わないかね?」

「はい。それが師匠の望みであれば」


 また戦力が増えた。

 竜人種に勝てる人よりも強いエルフ。一体どれだけの強さなのか。

 

「気になるのであればステータスを開示しますが」

「良いのか?」

「はい。師匠の疑念を晴らす為であれば。ステータス」


 さて、どんな……?


 ―――――――――――――――――――――――


 名前:マイラン・レイリーン

 Lv:84

 職業:メイド

 体力:16215

 魔力:26490

 攻撃力:14621

 防御力:15213

 回避:17250


 スキル

 【大魔法師】【武鬼】【奉仕の道】【お掃除の匠】【弓要ラズ】【要塞殺し】【キリング・ペース】

 称号

 【死地を超える者】【災害を退けし伝説】【おてんば娘】【冗談が過ぎる】【ご奉仕願望】【惨殺者】【自由人】【メイ道とは茨の如し】【全てを灰にした者】【尽くしたがり】【永遠のスレンダー】【剣魔の達人】【極めたがり】【冒険者の果て】【】


 ―――――――――――――――――――――――


 え?バグってないか?それともこれが一般的なのか。やたらと高いステータスに目が丸くなる。これならクラスメートにも楽に勝てるだろうな。


「ああ、恥ずかしい。男性の方にこんなステータスを見られてしまうなんて」


 照れるマイランさんに遠慮してステータスを見るのを止める。


「物騒なステータスだからな」

「そっちじゃないと思うよ。ほら称号の覧」

「称号?」


 沢山あったのでざっくりしか見ていないが、どの称号も強力そうな称号だと思ったが。


「あっ…」


 改めて見るとあったよ。称号さんによる人の性癖暴露。【ご奉仕願望】に【尽くしたがり】は被ってないのか。

 ん?何かステータスの称号が一つ空白で点滅してるんだが?って、【見られるのも悪くない】が追加されたよ。怖いな称号。


「師匠になら悪くないと思ってしまいました」

「……………………そうか」


 それで俺はどう反応しろと? 

 もう無視しよう。料理も出来たしな。


「ほら皿を出せ。飯にするぞ」


 取り合えず飯が先だ。

 俺は皆が配給の列の様に並びながら皿を出してくるので肉を入れて付け合わせのポテトチップスを添えてスープをそれぞれの皿に入れて行く。

 全員に行き渡ったので自分の分をと思えば、そこはマイランさんがきっちり俺の分の皿も用意してくれていた。 


「これが師匠自ら作られた料理」

「それしか出来ないしな」


 目を輝かせて見て貰えると嬉しいものだ。

 この後、マイランさんは気絶はしなかったものの、官能的なお子様には見せられない微笑みを浮かべていたのは驚かされた。




「この国を潰すのであれば一度『人形王』の国を見るのも良いかもしれませんね」


 食事を終えてマイランさんは一つの提案を出してくれた。

 緑茶はないので紅茶をそれぞれに配った俺は聞き返す。


「なんでだ?」

「『人形王』の国、モルド帝国もこの国を潰そうとしてますので時期が合えば一緒にやるのも合理的ですし。それに師匠や皇さんにとっても食材や材料を買いそろえるのに丁度良いかと。この国には無い物も売ってますので」

「それは良いな」


 あっさりと方針は変わった。

 俺たちの目的なんてものはそんなものだ。


 ――彼らは『天災』。一つの分野において天才の域を超え、人の力では抗うのも不可避な化物たち。


 あくまでも運が良ければ理解者と巡り合える。そんな曖昧な希望から始まった旅なのだから仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。

 

 ――そんな彼らは明日も何処かで気まぐれに爪を立てる。


 モルド帝国には一体何があるのか楽しみだ。

 マイランさんは色々と知っている様なので食材や調味料も教えてもらおう。

 

 ――その爪痕の深さは災害の領域にまで達しながらも彼らはけして顧みない。


「なら明日はモルド帝国に向かうとするか」

 

 ――それが彼ら『天災』たちの生き方なのだから。


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