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16話目 さあ返してもらおうか×4+1

「準備は良いな?」

「当然だよ」

「お任せ下さい」

「………(ふんすー)」


 私たちは今、商人ギルドの前にいた。

 場所に関しては言うまでもなく陸斗に付けたあの銀の腕輪。

 あれが発振器にもなっているので何処にいるかの確認は容易かった。

 まあ、ギルドカードにも似たオプションがあるらしいが他人の作った物より自分の物の方が信頼出来る。私にとってギルドカードはあくまでも身分証以上の役割は求めていない。


「さて、陸斗はいないと門前払いされてしまった訳だが」


 居るのは分かっているので来ていないと嘘を吐かれた所でどうでも良い。


「じゃあボクが門番を潰そうか?」


 それも良い案ではあるが今回はこいつに任せたい。


「いや、レンに任せようと思う」

「…レンが?」


 怯えた目で見るな。

 お前が相手をするのは門番では無いのだからな。


「皇様。レンには戦う力は…」

「安心したまえ。私が屈強な男の前にか弱き少女を立たせると思っているのかね?」

「思いますが」

「………君には帰ったら教育を施してやろう」


 間髪入れずに返されるとは思わなかったよ。

 陸斗以外にはあくまでも強気の姿勢を崩さない。私の力を欲しがり媚びへつらって来た者たちよりはマシか。

 門から移動した私たちは屋敷横の壁面前に立つ。

 ここは死角にもなっているので良いだろう。


「皇ちゃんも随分と回りくどい事するね」

「『天災』の開花には都合が良かっただけだ。私たちがいて中々にないシュチュエーションだろ?」

「それもそうだね」


 これから先、陸斗が拐われる可能性がどれ程あるか。

 間違いなくゼロだ。横にいる竜人種が絶体に一人にさせようとはしないだろう。

 拐われたと聞き、『主に無理矢理でも着いていけば…』と青い顔で後悔していた。今後は暴走にも似た護衛っぷりを見せてくれるだろう。


「それではレン。この壁に手をつきたまえ」

「…こう?」


 ぺたり、と両手をつけた壁は絶壁。

 登るにしても普通ならば無理だ。まあ、ノドカや天華のいる状況ではこの行為は無意味なのだがね。

 あくまでもレンの才能を自覚させるのに良い壁だったのでやる事にしたまでだ。

 堅牢。この二文字が相応しい硬く頑丈な壁はレンが押しても殴ってもびくともしない。

 そんな当たり前な事は理解している。


「授業の時間だ」


 まあ私にしては本当に親切な説明をしてやろう。


「物体の全て細かく小さな球体の集合体だ。それはこの壁も同様だ。さあ意識しろ」

「…うん」

「これ皇ちゃんの説明不足も凡人が理解出来なかった原因の一つじゃないかなー?」


 これでも随分と噛み砕いたのだが?

 レンは壁に手を当てたまま目を閉じて意識している。

 理解しているのかは知らないが、どのみち成功しなければ天華にこの壁を壊してもらうから問題あるまい。


「さあ、全ての球体を揺らせ」

「…ん」

「そんな無茶苦茶な」

「皇様、レンは何をしているのですか?」


 結果は見ていれば分かる。

 ズッ、ズズッ、と壁から音が鳴り始める。

 これは成功か?


「もっと揺らせ。そして崩せ」

「………っん」


 ザッザザッ、壁全体が大きく震えて地震が起きた様な有り様だが起きている事象は違う。

 地鳴りに似た地響きと建物全体にまで影響を及ぼしそうな振動にノドカと天華は驚きをあらわにする。


「うへー、やるねー」

「これをレンが……?」


 壁は所詮石でしかない。

 私の科学でも同じ事が出来るが、生憎機材が無いので素手でこの事象を起こせるレンは大変貴重な人材だ。

 そう思えば助手としては得難い才能なのではないだろうか。まあ、そこは今後のレンの頑張り次第だろう。


「ふは、やるじゃないか」

「………」


 出来上がったのは砂の山。瓦礫一つ残さないでごっそりと周囲を覆う壁を消し去った。

 しかしこれは酷いな。やらせておいて何だが足元まで砂まみれだ。ほとんどは建物へと押しやられているので構いはしないが入口となる扉も砂で埋もれ入りにくくなっている。まあ、適当に窓を壊せば良いだろう。


「お前の才能は自覚出来たな」

「…レンがやったの?」


 半信半疑になるのも頷ける。

 この世界はステータスが絶対とされているのだ。間違ってもステータスがゼロで行える妙技ではない。

 しかしステータスには反映されない隠しパラメーターが存在するのは私たち自身が証明している。

 本来こうした隠しパラメーターは微々たる物なのだろうが、私たちは人の格が違う。

 恐らく人間の許容限界を超えた者、才覚に溢れ過ぎた者がステータスの恩恵を受け入れられないのだと推察しているがいやはや真実はどうなのやら。

 とにかく結果としてレンには私たちと同じ才覚があったのは確かだ。本人は茫然としてしまっているがね。


「これは錬金術・・・って所かな?科学者としての意見をどうぞ」

「ふん、まだこの程度なら序の口だろう。個人的には鉄やら暗黒物質やらを今後は作ってもらう予定だがね」

「なんて究極タッグ」


 そうすれば材料不足も解消されて有難い。

 レンは自分の両手を眺めた後、私に視線を移す。


「…レン、役に立てる?」

「それは今後の働き次第だ」

「……頑張る」


 その意気だ。

 さて、周りが騒がしくなって来たな。さっさと陸斗を探して親玉を潰すとしようじゃないか。


「お前らか!こんな事をして無事に帰れると思うなよ!」


 ふむ、門番たちもようやく私たちの存在を知覚したか。

 しかし遅い。対応能力からして要らない人材だな。


「天華」

「やってしまいなさいって?了ー解」

「「ぐぇっ!」」


 天華は二回、まるでノックをする動作で空気を叩くと遠くにいた門番が倒れた。


「ノドカちゃんもこれマスターしようねー」

「……【竜人解放】を使っても構わないですか?」


 えーダメだよー、と天華は騒ぐが相変わらずこいつも出鱈目だな。

 科学的に解析しようにも物事の理から逸脱していて理解が及ばない。

 他人を凡人だ、何だと言うがこう言う時は私も凡人になったようで不思議な気分だ。


「じゃあ、行こっかー」


 天華の音頭の下、窓ガラスを割って建物へと侵入する。

 中は調度品にまみれ、私が見て来た中でも趣味の悪さがダントツで酷かった。

 建物に全員が入ると天華が大きく息を吸った。ふむ、これはマズイな。


「おい、全員耳を塞げ」

「はい?」

「…うん」


 ノドカは戸惑い、レンは素直に応じてそれぞれ耳を塞ぐ。



「りーーくーーとーーーくーーーーーーーん!!!迎えに来------たーーーーーーーよーーーーーーーっっ!!!!!!」



 ああ、やかましい。

 一々声を出さなくとも発振器で場所が分かるのに天華は大声を出す。かくれんぼをしている子供かと私は言いたい。

 お陰で敵もぞろぞろと近寄って来た。まさか天華、これが目的じゃないだろうな。

 天華の顔を覗き見ればてへぺろ、っと舌を出してウインクをしていた。まあ好きにしたまえ。


「では私は奴を探す。好きに暴れろ」

「まっかせてー」

「私も皇様にお供します」

「…レンも」


 このニ人に関しては陸斗に尽くすと言っていたからな。私の方に来るのも当然か。

 天華が丁度良い陽動になる。楽が出来ると思えば大切な役割か。


「行くぞ」

「はっ!」

「…うん」


 私は世話の焼ける愚か者を助け出すべく地下へと向かうのだった。




 ・・・




 これは由々しき事態です。

 私のギルドカードに届いた一通のメール。開けばそれは師匠からのメッセージだった。

 

 『助けて商人に掴まった』

 

 ピキッ、それは私の脳を抉るものだ。

 そうか商人か。つまりそうかあの蛙野郎か………。

 ギルドカードを操作して師匠の位置を特定。そして確定。

 場所は商人ギルド。あの鼻持ちならない蛙野郎のいる場所でした。

 

 「ん?どうしたマイラン。やけに怖い顔してるがよ」


 怖い顔?ええそれはなりますとも。

 あの商人とは名ばかりの強盗にどれだけの人員を奪われた事か。

 しかも今回の標的は師匠であると?許しがたい。

 もしも師匠を商人ギルドなんかに奪われたら、奪われたら………。


「料理の師事が受けられないじゃないですか!!」

「うおっ、いきなりどうした!?」


 商人ギルドと冒険者ギルドは掛け持ちが出来ない。

 そもそも商人ギルドは自分たちの利益を優先させる為に契約で無理矢理冒険者ギルドを解約させようとするので両方兼任出来る者がいないのです。

 もし、師匠が口八丁手八丁で騙されて契約などしてしまえば冒険者ギルドを解約。自動的にギルドカードも破棄となり、師匠と私を繋ぐ糸が切れてしまう。それは大変に遺憾だ。

 こうしてはいられない。


「早く、早く武器を用意しなければ」

「待て待てマイラン。本当にどうした?」

「邪魔をするならギルマスも敵と見なしますよ」


 商人ギルドはバカの様にデカイ壁に囲まれた要塞の如く煩わしい建物だ。

 まずは壁を粉砕しなければならない。丁度良く私は友人から頂いた品が倉庫に眠っていた筈。あれを使えばあんな建物など瓦礫に変えるのは容易い。


「いや、人の話を聞けよ」

「うるさいですね。クッキーなら戸棚に入っているので好きに食べていなさい」

「誰がクッキーを要求したよ。そうじゃなくてだな。何をそんなに慌ててるんだ?お前が動いたら街が…」


 ええい、これは緊急事態なのです。大事の前の小事には構っていられません。

 倉庫へと駆け込む私の背中にギルマスが着いて来ますが、今は武器を厳選する時。得意の大剣とハンマー、どちらにするべきか。


「だから人の話を聞けよ。どうしてそんなに慌てている」

「師匠が商人ギルドに拐われたのです。助けなければ!」


 煩わしいギルマスに背中越しで今回の緊急事態を叫ぶ。

 しかしそんな私の肩に手を置いてギルマスは私を止めようとします。


「まあ待て。その確信が何処にある?ただ商人ギルドにいるだけかも知れないだろ?」

「そんな悠長な事を言っているから向こうに人を取られるのです!貴方にギルマスの自覚は無いのですか!」

「いやいやいや」


 何がいやいやいや、ですか。これは私の師匠のピンチなのです。もしかしたら言う事を聞かない師匠にあーんな事や、こーんな事をされてラメーーな感じになっているやも知れないのに!!


「だいたいこれから重要な会議だろ?秘書のお前がいなくて」


 ああ、まどろっこしい。


「では辞めます。お世話になりました」

「はぁあああーーーーっ!!?」


 武器は良し。

 ここは長年使い込んだ私の相棒である大剣の出番です。

 腕がなりますとも。待っていて下さい師匠。


「いや待て。お前がいなくなったら誰が資料や議題をまとめ、って本気で行きやがった…」


 おっと、辞表を置いていませんね。

 慌てて戻ると机に辞表を置いた。


「では、今度こそ失礼します」

「マジかよ。元Sランクが野に放たれるとか勘弁してくれ…」


 物事には優先順位がございますので。

最近になって書いたのを少し見返していますが書き間違えている所が多々あり、読みにくくてすみません。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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