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15話目 トラブルは年中無休かよ

 さて、大体の欲しい食材は揃ったな。

 これだけあればしばらくは持つだろうし、作りたい物も概ね作れる。

 後は帰るだけだが、観光してみたいと思うのは好奇心からか。

 歩くだけでも外国の街を歩いている面白さがあった。

 活気に溢れた街並みは日本の祭りの様であったし、様々な種族と遭遇するのはハロウィンの仮装の様で目新しい。


「街を何も知らないんだよな」


 地図も無いので来た道を戻るしか無いのだが、それでも足取りはゆったりと見て回るものであった。

 知らない食材とも巡り会えた。

 スイカの亜種かと思えばじゃがいもに近い香りがして驚かされたし、唐辛子かと思ったら甘かった。

 料理に使うには少し試して見ないと使いにくいが、どんな味になるのか楽しみだ。

 俺は何だかんだで異世界を満喫している。

 最初は訳も分からず嫌だった召喚も今はそんなに嫌いじゃ…


「おいお前」

「はい?」


 なかったんだが、やっぱり嫌いになりそうだ。

 人相の非常に悪い男が三人俺に声を掛けて来た。トラブルよ、少しは休め。


「着いて来い」

「嫌です」

 

 不審者には着いて行くな。一般常識だ。


「俺たちが誰だか分かってんのか?」

「分からないので着いて行きたくないんですが」


 やれやれと頭を振っているがこっちの方がやれやれと言いたい。

 

「俺たちは商人ギルドの護衛だ。お前をスカウトしに来た」

「冒険者ギルドに入ったので」

「なら脱退しろ」

「入ったばかりなので」

「いいから来い」


 ぐいっ、と腕を引かれて歩かされる。

 有無言わせない行為に眉を潜め抵抗するも、どう引っ張っても振り(ほど)けなかった。


「はっ、ステータスも低いとはツいてるぜ」

「さっさと行くぞ。ボスがお待ちだ」


 トラブルは年中無休らしい。もっと休んでも構わないのに働き者だった。

 ズルズルと引き摺られる俺はあれよあれよと気が付けば要塞の様に立派な屋敷まで連れて来られてしまう。

 

「ほら、入りな」

「うげっ」


 無理矢理身体を押されて入ったそこは立派な屋敷には相応しい客間だった。

 しかし趣味は悪い。ザ・成金な調度品の数々は目が死んでしまう。

 きらびやかなのが悪いとは言わないが置き過ぎると、ただただ下品だ。強いて言うなら料理を盛り過ぎた皿か?


「でひひ、よく来たな」

「連れて来られただけなんですが」


 俺と相対しているのは趣味の悪い屋敷に相応しい腹の大きく出たガマ蛙の様な男だった。

 指には尋常じゃないだけの指輪を着けており、ネックレスも金ピカ。装飾品が泣いている。

 それにせっかくの品の良い椅子もガマ蛙に座られて悲鳴を上げて今のも壊れそうな程歪んでいた。


「でひ、早速だがお前は我ら商人ギルドに入ってもらう」

「それさっきも聞きましたがお断りします。俺は冒険者ギルドに入ったばかりなので」


 俺は不義理はしない。

 自分の身勝手で辞めるなど親戚たちの様で気分が悪い。金を毟るだけ毟って捨てた奴らと同じ真似はヘドが出る。

 そう考えると目の前にいる男も同じか。

 他人に自分の身勝手な都合を押し付けて利益を増やそうとする害虫の様な存在。


「でひひ、冒険者ギルドに入ったばかりなら分かるだろ?どっちの方が儲かるか。あんなみすぼらしい建物で満足している奴らに金を稼ぐ力はない」

「それで?冒険者ギルドからこっちに入って何がさせたいんだ?」


 敬語は止めた。

 親戚と同じ人種に俺は敬意を払えない。

 しかしそれが商人ギルドに入るものと思ったのかガマ蛙は笑う。


「でひひ、勿論お前には【アイテムボックス】のスキルを使って運搬をやらせる。そうなれば運搬力は倍になるからな」

「ちょっと待て。何で【アイテムボックス】のスキルが?」


 俺にそんなスキルは無い。

 しかし俺のその言い方を勘違いしたのかガマ蛙は品の無い笑い方で自慢げに話す。


「商人ギルトの情報網は甘く見ない事だな。お前がバカみたいに買い物をして【アイテムボックス】に収納しているのを多くの商人が見ている。だからお前のスキルは筒抜けなんだな」


 見事な勘違いだが『界の裏側』は確かに【アイテムボックス】と同じで収納する力がある。傍から見ればこれが科学の力でと考えるよりもスキルと考えた方がしっくりくるのか。


「それで拉致までしたと」

「スキルで【アイテムボックス】持ちの者は少ないんだな。商人ギルドに入れる事が出来れば僕ちんの評価は上がって利益もどっさり。良い事尽くめなんだな」


 下らない。

 無理矢理連れて来て、結局それは自分の儲けの為。

 もし商人ギルドに最初から来たとしても俺は入りはしなかっただろう。

 それだけの不快感がここにはあった。

 

「あっそ。じゃあ入る気ないんで帰ります」


 出口に向かって歩くが、そこには先の護衛が道を塞いでいた。


「でひひひ、帰す訳がないんだな。お前には商人ギルドと契約するまで地下に閉じ込めるんだな」

「これ犯罪だろ?」

「バレなければ違法じゃない。これも交渉なんだな」

「強引過ぎるわ」

「何とでも言え。おい、こいつを連れて行け」

「「はっ!」」

「なっ!?」


 何でそうなるんだよ。

 俺は屈強な護衛二人に囲まれてまたも無理矢理歩かされる。


「おい、後悔するぞ」

「でひひ、それは絶対にないんだな」


 何処からそんな自信が来るのか。

 商人ギルドの建物に入って早々、交渉の欠片も無くあっという間に地下牢へと送られる。

 商人ならもう少し交渉しようと言う気にはならないのだろうか。

 それさえしないから強引な儲けばかりに走って逆らう者は閉じ込めて言う事を聞かすのか。よくそれで商人ギルドなんて対面を保ってられるな。


「こいつは【アイテムボックス】持ちだからギルドカードを取り出したらすぐに回収しろよ。外と連絡を取れない様にな」

「分かってますよ」


 先の護衛に地下牢に入れられた俺には見張りが付いた。

 護衛の男よりは弱そうな細身の体型だがそれは締まっているだけで俺ではあっさり負けるだろう。

 まあ、連絡は既にしてるのだが。

 ギルドカードはぶっちゃけケータイと同じだ。

 ポケットの中でも文字を打とうと思えば打てる。ただうっかりパーティに一斉送信してしまったのでマイランさんにも届いてしまった可能性がある。

 そこはまあいっか。助けが来てから落ち着いて後で返せば良いし。

 皇さんなら俺の場所もどうにかして分かるだろうから直に助けに来てくれる筈。


「夕飯の支度でもしとくか」


 取り出したるはシステムキッチン。『界の裏側』便利だわやっぱ。


「おまっ、何してやがる!?」

「今から料理するだけだけど?」


 鉄格子の向こうで男が騒いでいるが気にしない。

 唖然とする男を無視して調理器具を用意する。

 煮込み料理は時間が掛かるから今やっておかないと夕飯に間に合わない。育ち盛りの皆にお粥を出したらブーイングされてしまう。


「牢屋に入れられて料理する奴初めて見たぞ…」

「奇遇だな。俺も牢屋で料理するのは初めてだ」


 檻の中は不衛生にも思えるがキチンと綺麗にされており、ネズミやらの疫病になりそうな類は無かった。


「何で牢屋がこんなに綺麗なんだ?」

「ボスが綺麗好きなんだよ。『僕ちんの住む場所に汚い所があったら嫌なんだな』つって毎日掃除させられんの」

「それは大変だな。後で味見するか?」

「毒入れないだろうな?」

「そんなの見てれば分かるだろうに」

「それもそうか」


 何故か俺は見張りと意気投合してしまった。

 まあお陰で俺は安心して食事の用意が出来るから有難い。

 牛肉のブロック肉を一塊取り出してまな板の上に置く。


「おいおいデカい肉じゃねぇか」

「今日は贅沢に行こうと思ってな」


 肉の筋を切ってから香辛料をまぶしてよく揉み込んで行く。


「あんたは何で商人ギルドに入ったんだ?見た目冒険者としてやって行けそうだが」

「そんなもん安全に儲ける為よ。冒険者やってるとモンスターと戦うのが主になっちまう。その点商人ギルドに入れば護衛をするだけで済んで上手く行けば一回もモンスターや盗賊に会わずに切り抜けられるしな。ようは安全志向だよ」

「なるほど。そんな考えもあるのか」


 でもそれは俺たちの今後を考えると遥かに向かない。

 商人ギルドに所属すれば下手をすればずっと同じ場所を往復させられる事になる。

 それでは旅をして竜人種の里を見つけたり、新しい素材や食材に巡り合う機会が減ってしまう。


「危険な事ばっかしてたら命が幾つあっても足りねぇ。そう考えるとお前も商人ギルドに入った方が得だぞ?」

「そう言われてもな。仲間と旅をする予定だし」

「気ままな旅か?止めとけよ。死んだら勿体ねぇ。ただでさえ貴重な【アイテムボックス】持ちなんだ。楽に稼ぐのを覚えた方が身の為だぜ?金も旅なんてしてたらあっという間に無くなるしな。あ、それ少しくれよ」


 赤ワインを取り出したのを目敏く見つけた男が催促して来た。


「これアルコール入ってるが構わないか?」

「バッカ、それが良いんじゃねぇかよ」


 俺は赤ワインをコップに移して男に渡す。

 見張りなんだよな?まあ、酔って脱出しやすくなったらこっちのものだけど。


「ほい」

「サンキュー」


 男は嬉々としてコップを受け取ると毒が入ってる可能性を微塵も考慮せずに一気に煽った。


「~~~っくぅ、効くね。良いワインじゃねぇかよ」

「毒の心配はしないのか」

「酒は薬だ。毒なんて入ってても中和されらぁ」

「凄い解釈だな」


 ドポドポと赤ワインを表面を軽く焼いた牛肉入りの鍋にぶち込んで行く。


「あーあ、勿体ない事をする」

「こう言う料理なんだよ」

「飯なんて食えれば一緒だろうが。大事なのは酒だよ酒」

「それは人生損してるぞ」


 美味い物を食えば明日の活力になる。

 飯を疎かにしたらやる気だって湧いて来ない。

 だから一回一回の料理に真剣になるし、自分の料理が上達すると嬉しくなってまた新しい事に挑戦したくなる。

 それに最近知ったが料理を食べて貰って美味しいと言われると気分が良い。

 何だか俺の事を認めてくれている様で小恥ずかしくもあるがやっぱり嬉しくもある。

 ステータスがゼロで役に立てないと思っていた手前、こうして自分の得意な事をして喜んで貰えるのなら俺は益々頑張れる。

 今からこの料理を美味しいと喜んでくれる四人の顔が目に浮かび、気分が上がって行く。

 

「出来たら少し食わせてやるよ」

「お、ホントか?」

「それまでここにいたらだけどな」


 多分その前に助けが来るだろうけどな。

 そんな俺の思いに答える様にこの建物が僅かに揺れた気がした。

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