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14話目 第三目標は先送りになるようですよ?

 自分で言うのも何だが我ながら凄い事を書いたな。

 『国家転覆』大言壮語も甚だしいと知らない者たちは笑うだろうが、俺にはそれを出来ると確信する力が周りにはあると思っている。俺自身ではないけどな。

 

「いやー、その目標いいねー。いつやる?今から?」

「別に慌てなくても良いだろ?最悪戦争が始まってからやっても一緒だし」


 いつでも出来る。武内さんとノドカが戦っているのを見た時から誰にも負ける気はしなかった。

 もしも本当に戦争が起きたのならそれを止めに城に潜り込んで暗殺するなり、そもそも城ごと潰してしまえばいい。


「では、その第三目標はやる事が無くなったらやるとしようか。暇つぶしにな」

「暇つぶしで国一つ終わるのですね」


 ノドカが驚愕に目を見開くがそこまで驚く事じゃない。

 国は俺たちステータスがゼロの三人が要らないのならさっさと元の世界に返せば良いのに自分たちの方が強いと驕った結果、返す保険もなく俺たちを召喚したまま放置した。

 その結果で国が一つ無くなると知ったらどんな気分なのか聞いて見たいな。


「手伝ってもらうぞ?俺の奴隷でいるんだからな」

「もちろんです!」

「………(ふんすーふんすー)!」


 気合は十分。まあしばらく先だけどな。

 

「ならまずは第一目標で行くか?」

「そうだな。天華もそれで構わないな」

「もっちろん!自分で言い出した事だもんね。で、竜人種の里って何処?遠いなら素材を集めながらのんびり行っても良いけど?」


 確かにそれを知らなければ話にならない。

 皇さんは『界の裏側』から一枚の地図を取り出す。


「今いるのはこの奴隷の街、スタンネイルだからここからまず国を出る。問題は竜人種の里が分からないのだが。ノドカ分かるか?」

「申し訳ありません皇様。私は武にばかり傾倒しておりましたので地理には疎く、竜人種の里自体閉鎖的なので場所までは…」

「うーん、なら誰か知らないかなー?」

「レン…、力になれない……」

「それは仕方ないだろ」


 しかし困った。第一目標からして挫けてしまった。

 知っていそうな知り合いかー………あ。


「ダメ元でマイランさんに聞いて見るか」

「300才だっけ?それだけ生きてれば何か知ってるかもねー」


 取り出したギルドカードに文字を打ち込んで行く。


『竜人種の里に行きたいんですが場所を知りませんか?』


 その答えを待ってる間に夕飯の支度でもするか。


「今日は何が食べたい?」

「「任せる」」


 なら今日は時間もあるし煮込み料理と行くか。

 俺は席を立ってシステムキッチンを取り出す。

 入っている食材を確認していくが残りが心許ないな。


「旅の前に補充したいな」

「「じゃあそれが第一目標で」」

「切り替え早いな」


 でも実際食材が少ないと出来る料理なんて高が知れてる。

 行く先々で欲しい食材が手に入るとは思わないのでここで手に入れておかないと後々で面倒かも知れないしな。


「ならちょっと出かけて来る」

「主、お供します」


 ノドカが動こうとするが俺はそれを制した。


「ああ、良いよ別に。ちょっと買って戻って来るし『界の裏側』のお陰で荷物持ちは要らないしな」

「で、ですが主に何かあれば」

「街の中だし大丈夫だ。それに何も無い所に行くより武内さんと修行した方が有意義だろ?んじゃ、行って来る」


 正直に言おう。女の子ばかりに囲まれる生活が落ち着かない。

 口実が出来たから一人になっただけだが正直気恥ずかしかった。

 

「気分転換くらいはしてもいいよな」


 俺が枯れた老人なら違うだろうが、それなりに欲があるだけに心の中でモワモワする。

 食事が美味いと言われるのは嬉しいがそれとは別に男が一人で女が四人もいるのはバランスが悪い。

 しかもその内二人が俺の奴隷となれば少しはそうした事も考えてしまう訳で。

 レンは保護対象だからそうした目で見るのは難しいがノドカはアウトだ。呪いが解けて身体がやたらとグラマラスになったから近付かれるとちょっと狼狽える。


「何が俺の奴隷でいるんだから、だよなぁ…」


 そもそもそんな気は無かった。

 だから奴隷証を解いて立場を対等にしたかったが、まさかあんなにも拒絶されるとは思わずそれが嬉しくもあり苦しくもある。

 街を歩く足取りが重いのはきっと気のせいだ。

 さっきは『国家転覆』で気分が乗ってしまったが今冷静になってみると途端に恥ずかしい。

 俺は今まで誰かに使われてばかりだった。

 だからいざ使う側になるとどう接して良いか分からない。だからここが異世界であっても街を一人で歩きたい気分であった。


「まあいいか。食材一通り買って帰ろう」


 お腹を空かせたペットか手間のかかる子供と思えば幾分かマシだ。そっちならバイトの経験もあるしな。

 今日は贅沢に牛肉の赤ワインを一本丸々使った煮込みだ。ホロホロに崩れる牛肉の柔らかさに驚かせてやろう。

 



 ・・・




 …びっくりした。レンはご主人様に捨てられるかと思った。

 プラプラと足と尻尾を揺らしながらレンはご主人様の帰りを待っている。

 ……だってレンは何も出来ないから。

 レンのステータスは全てゼロ。それだけじゃなくてレンには記憶もない。

 思い出そうとすると、?、ってなる。

 そんなレンはノドカみたいに強くも無い。


「どうしたレン?何かあったか?」

「…何でもない」


 こうしてレンを気に掛けてくれるノドカ。

 牢屋に入れられていた時もずっと助けてくれた。

 あの時はノドカも呪いで強くは無かった。

 なのに何度も庇ってくれた。

 一切れのパンと薄い水としか言えないスープに何度もお腹を鳴かせた時もノドカが育ち盛りだからとレンにパンを分けてくれた。

 別の奴隷に殴られそうになったのも庇ってくれた。

 気が付けばレンもノドカと一緒にご主人様に買われた。

 その時だってノドカが何かしたと思う。じゃないと私まで一緒に買われない。だってステータスがゼロの役立たずだから。

 

 レンたちを買ってくれたご主人様の印象は優しそう。

 大樹の様にも見えるし小木の様に儚くも見える。だから安心出来る。

 服を与えてくれて嬉しかった。こんな良い物に袖を通した事が無かったから。

 食事を与えてくれて嬉しかった。逆に死んだかと思った。美味しい。ご主人様の料理美味しくてお腹いっぱい食べられるから。

 そして名前を与えてくれて嬉しかった。名前らしい名前で呼ばれた事は無かったから。

 だからレンは頑張りたい。ご主人様の為に。

 でも何も出来ない。

 買い物も荷物持ちが要らない。ステータスがゼロだからそこまで重い物が持てないのもある。

 護衛も出来ない。ノドカみたいに強くないのもある。

 なら、レンは何が出来る?

 このままだと本当に奴隷で居られなくなるかも。もしかしたら売られるのかも。

 耐えられない。ご主人様以外の奴隷でいたくない。


「そう思い詰めるな。あれはお前が思っているよりお人好しだ」

「…皇様」


 最初はレンと同じで小さいのに怖いと思った。

 人を人して見ていない半眼は品定めをする商人の秤の様で怖かった。

 けど良い人。

 こうして奴隷を気にしてくれる人は良い人。


「私なら実験して使えないと分かれば捨てているがね」


 ………良い人?

 やっぱり怖かった。


「皇ちゃん、それだと脅しだよ。もっと寛容でないと」

「天華は甘いな」


 武内様。本当に人か疑問に思う人。

 竜人種のノドカの呪いが解けて本気でやっても無傷でいる人。

 戦う事しか考えてない人だけど時折感じる値踏みする目は怖い。


「それにボクのカンだけどレンちゃんは皇ちゃん寄りでしょ?」

「ほう、分かるか?」

「なんとなくね」


 …レンの事を言ってるのは分かる。

 けどレンが皇様と近いのは分からない。

 レンには何も知識が無い。

 そんなレンが皇様と寄る理由が分からない。


「…レンは何も知らないよ?」

「これから知れば良い。それにせっかくだ。待っている間に一つ教えてやろう」


 皇様は『界の裏側』からレンの作った黒い塊の入ったボールを取り出す。


「これはと呼ばれる物質だ。あいつの教えがこう反映されるのだから実に面白い」

「皇様、これをレンが作られたので?」

「ああそうだ。ノドカ同様あいつには変な人材に会う奇縁があるらしい」


 炭?レンが作っていたのはクレープの生地。

 ご主人様の言う通り空気を抜く(・・・・・)様に混ぜただけ。

 やっぱりよく分からない。


「物質変換。その才は奇才だな。これが魔法とも取れるしそうでないとも取れるな」

「レンちゃんの名前を考えた人はそれも見越してたのかもね」

「……レンの名はご主人様がくれた」


 レンの名を付けたのがご主人様と聞いた二人は再び笑う。


「ふは、何だあいつは?まさか自分の作った料理に名前を付ける感覚で言ったんじゃあるまいな」

「そうだとしたら凄いねー。全部の事柄を料理に持ってったら無敵じゃないの陸斗くんって」


 よく分からない。けどご主人様が褒められてるとレンも嬉しくなる。

 早くご主人様帰って来ないかな。

 

「レン。私は呪いが解けて主の役に立てる」

「……うん」


 だからノドカが羨ましかった。

 空を駆ける姿に感動した。

 武内様と行われる戦いにレンは力が欲しいと思った。ご主人様の為に。


「でもそれは主が私の呪いを解いたからだ。呪いが主によって解かれなくても私は側に居ただろう。だからレンも出来る事を、その、だな…」

「…うん。レン頑張る」


 ふんすー。気合いは十分。

 言葉を濁したノドカだけど言いたい事は伝わった。

 レンにしか出来ない事があるのかも。そう思えば気合いが入った。


「そうか」


 安堵したノドカの顔を見て思う。そんなにレンは思い詰めていたのかと。

 そう思うと申し訳なくなる。

 レンを守って来たのはノドカだったから。

 だから今度はレンがノドカを守れる様に頑張りたい。

 第一はご主人様だけどノドカも守れる力が欲しいな。


「…頑張る」


 まずは知識。

 肉体がステータスで無理なのは分かっているからまずは頭。

 ちょっと怖いけど頑張ると決めたから。

 レンは皇様の前に立つ。


「ふむ、何だね?」

「…知識下さい」


 レンの言いたい事など分かっているのだろう。

 黒い笑みを張り付けた皇様はとても怖いけどご主人様とノドカの為に頑張ると決めたからレンは逃げない。


「……ご主人様の役に立てるだけの知識を下さい」


 言った。それは奴隷の契約よりも危険な行為なのかも知れないけど守られてばかりなのは嫌だから。


「挫けたら脳から改造するが構わないかね?」

「…っ、やる!」


 皇様はレンに知識を与えてくれる。

 なら後は頑張るだけだ。


「うはー、皇ちゃんが意外な事言うねー。前の世界でも師事を受けて着いて来れない人ばかりで挫折したんじゃなかったっけ?」

「あっちでは非人道的行為をするのが後々面倒だったのと、天然で私に渡り合える科学者が欲しかったからやらなかっただけだ」


 ………………………レン早まったかも。

 

「皇様。レンの身に何かあれば…」

「それを望んだのはレンだ。止めるなら今の内だがね」

「……やる」


 でもやる。それがご主人様の役に立てる力になるなら。

 待っててご主人様。レンは強くなる。ご主人様の役に立てるだけ強くなる。

 

「レン…」

「…頑張る」


 ノドカも安心させたい。もうレンは守られてばかりじゃないんだよ、と。


「うむ、中々良い考えだ。まあ安心したまえ。私は無茶をする気はない。レンの才覚に合った方向に伸ばし、伸びしろが無いと判断してから脳を弄る」

「つまり見込みなし判定で別人にされちゃうと」

「天華。私はそこまで言ってないよ。ただ人工的『天災』はまだ作った事が無いのでどうなるか分からないがね」


 ………………………やっぱりレン早まったかも。

 人体実験をしてから試すので安心したまえ、と言われても困る。

 でも、レンはやる。ご主人様とノドカの為に!

 とここで一斉にノドカとレンのギルドカードから音が鳴り響く。皇様と武内様は『界の裏側』に絞まっている為か音はしなかった。

 取り出したギルドカードを見れば驚愕の文字が。


『助けて商人に捕まった』


 ご主人様からのお助けコールだ!!

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