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13話目 今後の方針と目標

 どうやらマイランさんは早速アドバイスした通りにクッキーを作ったようだ。

 その証拠としてマイランさんのキャラとは思えないメールがギルドカードから来ていた。


『早速作ったクッキーの出来上がりがとっ~ても良かったよ~♪またアドバイスを貰えると嬉しいな♡』


 誰だこれ?とてもギルマスを足蹴にしていた人の文章ではない。文章はギルドカードが人によって言語が異なるので自動で合った言語に変換されるらしい。万能だなギルドカード。

 取り合えず返信した。


「『そうですか。作る物によってはレシピを教えますよ』っと」

「普通に文通しちゃってるね」

「無視するのも何だしな」


 俺たちは借りた宿に戻りクレープを食した後、のんびりと過ごしていた。

 今後の方針や目標を何一つ決めていないので確認も込めて全員が集まっている。


「さて、私たちは今後どうするかの話し合いだが、端的に言ってしまえば現状はただのぶらり旅で目的が何一つ無い。諸君はやりたい事があるなら今の内に述べる事だ」


 皇さんが紅茶のカップを片手に音頭を取る。

 しかしやりたい事。そう言われてもまだ異世界に来て日が浅い。そんな中でやりたい事を述べろと申されても浮かばない。

 一応調味料や食材の類は面白いと思ったので世界を周ってかき集めたいと思うくらいか。


「はいはーい、竜人種のいる里に行って一番強い人と手合わせがしてみたいでーす」


 一番最初にやりたい事を述べたのは武内さんだった。

 『武の天災』としてそこは譲れないのだろう。

 ただノドカはどう思うのか。

 ノドカは竜人種の里と聞いて少し顔が青ざめていた。


「ノドカ大丈夫か?」

「問題ありません主。武内様が行かれるとあれば止める理由がありません」

「……ノドカ、顔が怖い」

「私たちはお前らが奴隷だからと物事を強制する気はない。さっさと話せ」


 強引な物言いの皇さんだが確かにその通りだ。

 元々奴隷を買った気はない。買った理由を述べるなら一重に俺が助けたかったから。

 つまりエゴだ。

 奴隷としてよりも雇用契約を結んだ気しかないのに無理強いをさせては気分が悪い。


「主、皆様………」


 ノドカは俺たちが奴隷として自分を扱う気がないと理解したのか観念する。


「面白くもない話でございますが」


 ノドカは語る自身の生い立ちを。


「私は生まれた時より呪われておりました。その為に私は里でいないものとして扱われてきました」


 呪いは初めから。何に対して怒れば良いのか。

 しかしそれは仕方のないものと受け止めているノドカに俺はただ話を聞く事しか出来なかった。


「ですが私も呪われたとしても竜人種。お祖父様の様に強くなりたいと憧れ、密かに鍛えていたのですが、それを目障りに思う輩が多々おりまして。その筆頭が私の両親でした」

「ふーん」

「それは…」


 奴隷になった経緯がうっすらと見えて来た。


「両親は躾と称して私に数多くの暴行を加え、ステータスの絶対性を知らしめましたが鍛えるのを止めない私に業を煮やして奴隷として売られました。それが今ここにいる理由です」


 それはあんまりだ。

 鍛えているだけ。強さを求める者を追い落とすのが実の親なんて。

 俺には両親との記憶はない。だが、これが親子の在り方だとは思わない。

 親子はもっと深い絆で結ばれているべきだ。慈しみ、親愛、尊く触れがたい愛情で満ちているものだ。

 こんな暴力と絶望しか与えないのが家族とは言えないし、言いたくない。

 

「それでノドカちゃんはどうしたいの?復讐する?里一つなら多分滅ぼせるんじゃないかなー」

「多分ではなく絶対だ。私がいるのだからな」

「へーんだ。ボクは国一つでも楽勝だもんねー」

「ほう、やるか?」

「俺の許可なくやったら今後料理せずに素材のまま出すが?」

「「………」」


 物騒な二人だ。有言実行出来る力があるだけにアリを踏み潰す感覚で喋ってくる。

 とにかく今はノドカの意志だ。ノドカが何を望むかでどう動くか方針が出来る。


「ノドカはどうしたい?」

「特には。結果として主の奴隷になれた事を私は誇りに思っていますので里の者をどうこうする気はありません」


 顔には憎悪の一つも宿していない。

 まだ会ったばかりの関係だが彼女が復讐に駆られて全てを台無しにする人じゃないと理解している。


「ですが私が側にいる事で主たちに危害が及ぶと考えるとそれがどうしようもなく怖いのです」


 青ざめた表情は自身の身ではなく、俺たちの身を案じてのもの。

 だが、それは間違っている。特に彼女からしたら危害を加えてくれるなど最高の状況だ。


「それはいいねー。ますます行きたくなったよ。バトルロワイヤル上等。里の竜人種全員が襲って来ないかなー」

「た、武内様それは…」


 鷹の如く獰猛に獲物を探す彼女には竜人種は脅威と値しないのだ。

 武内さんはノドカの心配も無用だとカラカラ笑う。


「ボクの本気になれる可能性が少しでもあるならボクは行くよ。ただし力に、最強に驕っている程度なら期待外れの意味も込めてノドカちゃんを蔑ろにした罰でも受けて貰おうかな」

「ふむ、つまり竜人種の里に行くのは決定だな」

「皇様!?」


 流れは止められない。

 それに俺もノドカを捨てたのが実の親と言うのが気に入らなかった。

 武内さんが罰を与えるのなら協力しよう。俺に出来る事は料理だけだがノドカを捨てた後悔だけは深くさせたい。

 これは俺が両親の顔を思い出せない腹いせか。それとも親戚筋から受けた非道な行いがノドカの受けた境遇と被るからか。

 自分の事なのに分からない憤りを感じるが、竜人種の里に向かうのは決定した。ならば後は向かうだけだ。


「では、第一目標『竜人種の里の殲滅』と」

「………(ふんすー)」


 何処からともなく、まあ『界の裏側』からだろうが出されたホワイトボードにおぞましい第一目標が記された。

 文字は読めなくとも物騒な事が書かれたホワイトボードにレンは何故か興奮気味に鼻を鳴らす。


「主は止めて頂けないのですか?」

「止めたくないな。ノドカを蔑ろにして、特に血のつながりを否定した奴らには相応の報いがあって当然だ」

「主…」


 ノドカは深々と頭を下げる。

 

「ありがとうございます。私は里の行方を見守るに務めます」

「そうか」


 それがノドカの意志なら尊重しよう。絶対に止めて欲しいと懇願されたのなら俺は我慢して武内さんを止めただろうが、止めないのなら心の何処かで叫びたい強い思いがある筈だ。

 だからこれはノドカのシコリを取る目的でもある。

 里の殲滅までさせる気はないが半壊までならやっても良いだろう。

 覚悟しろよ竜人種。これから行くのは『天災』だ。嵐よりも激しく雷よりも壮大に蹂躙してお前たちの所業を後悔させてやろう。


「さて今度は私の要望だが。些か素材が不足している。ぶっちゃけると鉄がない」

「この前ごっそり抜き取った森だけじゃダメなのー?」


 武内さんは空になったカップに紅茶を注ぐ。ついでとばかりに皇さんの方にも注いだ。


「ありがとう。………天華は勘違いしているようだが科学はそこまで万能ではない。材料が無ければ作れないし、木は鉄にはなれない。代用するにしても限界はあるのだよ。特に今の研究をするとなると機材がないのだ」

「ふーん、じゃあ第二目標は『素材集め!~ボクのピッケルが轟き叫ぶ~』だね」

「………(ふんすー)」


 そこはドリルじゃないんだな。

 第一目標の下に丸っこい字で第二目標が追加された。


「『界の裏側』に機材を入れて無かったのか」

「これは元々の用途はゴミ箱だ。大事な機材は向こうの世界に置いて来ている」

「どんな贅沢なゴミ箱だよ」


 どれだけ入るか知らないが、粗悪品で家一つ分なのだから皇さんが持ってる方なら東京ドーム何個分とかのスケールになるんだろうな。

 そんな代物をゴミ箱扱い。理屈として捉えるのは不可能だった。


「さて、私と天華の要望は言った。次はお前だ陸斗」

「俺かー…」


 目的なんて持てる程この世界に精通している訳でもない。

 現にノドカを捨てた両親に憤慨し、竜人種の里に行くとなったが、その里がとんな所で何処にあるのかをまるで知らない。

 それに食材や調味料の為に邁進するにしてもそれだけで良いのか?

 

「そう言えば俺は何もしてないんだよな」

「そんな事はありません」

「………レンたち、助けてくれた」


 それでも彼女たちを俺は奴隷として縛っている。

 やろうと思えば今からでも彼女たちの尊厳を無にする命令だって出せる呪いが左腕にはあるのだ。

 夜の相手をしろと言えば逆らうのを許さない奴隷の呪いを首に付けたままで彼女たちは果たして自由と言えるのか。


「奴隷の契約解除するか」


 そうしてこそ初めて彼女たちを助けられたと言えるだろう。

 しかし何故か彼女たちの表情は絶望一色で染め上げられていた。


「主は、私たちを捨てるのですか」

「…レンたち、ひっく…、要らない子?」

「待て待て待て!何でそうなるんだ!?」


 泣き出してしまうレンが頭を撫でて捨てないアピールをする。

 皇さんたちは訳知り顔でやっちゃったな、って顔を向けてくる。


「うわー、鬼畜だねー」

「お前はもっと深く考えて喋る事だ。それでは捨てられると思われても仕方ないぞ?」


 可笑しい。良かれと思って言ったのに。


「俺は単に彼女たちに自由になって貰いたいだけだぞ?俺に縛られたままだと人としての権利が無いだろうが」


 それの何がいけないんだろうか。

 戸惑う俺に対し、ノドカが俺の座るソファの横で膝を着く。

 

「主、私は自由を求めてはいません。今まではこの首に付けられた奴隷証をどれだけ不快に思ったか分かりません。ですが今はこれが主と繋がる絆としてここにあるのが何よりも嬉しく思うのです」


 己の首に触れるノドカの目は本気だった。

 本気でノドカは生涯を俺に尽くす気なのだ。

 俺からすれば偶然外れた知恵の輪の様なものであっても、ノドカからすれば解ける筈の無い氷河が蒸発して消えた奇跡の邂逅なのだ。

 目の当たりにした奇跡はまさしく神に出会ったのと同義。信仰や信者とは有り得ない奇跡、人知を超えた存在に対して深く敬意を表し、神の教えに従うもの。


 今のノドカはそんな状態とよく似ていた。

 ノドカからすれば奴隷証は神から与えられた聖痕にも等しいのかも知れない。

 気持ちが分かるだけに俺の中で迷いが生まれる。

 奴隷は間違っている。だと言うのに奴隷でなくなる事は彼女らの存在意義を曖昧にさせてしまい不安へと繋げてしまう。

 どうしたら……。


「ん?」


 くいっ、と腕を引っ張られる感覚にそちらを見ればレンが俺の服を掴んでいた。


「…レンは、ずっとご主人様と一緒にいたい。……だから捨てないで」


 レンには記憶がない。

 奴隷であるのが常識で奴隷としての知識しか持っていない。それはつまり奴隷であるのが当たり前である事。

 だから首の奴隷証が無くなれば奴隷でなくなる。その人の側にいてはいけないと言われる様なものなのか。

 そう考えると俺の配慮が足りなかった。

 彼女たちにとって俺の奴隷である事は俺の側に居て良い許可の証。

 それを剥奪はくだつするのは拷問にも似た仕打ちなのだ。

 であるならば俺に出来るのは待つ事だけだ。

 彼女たちが奴隷証そんなものに頼らなくても側に居て良いと分かるまで。


「分かった。奴隷の解放はしない」

「主…」

「……ご主人様」


 ただ少なからず奴隷を酷使している者もいるだろう。

 そう考えるとやっぱり面白くない。人は使い捨ての消耗品じゃないのだから。

 となると元凶を根から潰してしまうのもいいかも知れない。

 元凶。それはこの状況を許している国だ。

 クラスメートにも奴隷を与えている様であったし、是正する気がないと見える。

 しかも人を拉致しておきながら『人形王』なる者と戦えと強要し、自分は高見の見物。

 ぶっちゃけこの国ダメだろ?



「じゃあ、この国潰すか」



 勢いのままに出た考え。

 ノドカとレンは目を丸くし、皇さんと武内さんは最高だと大いに笑った。


「あっはははは!!何それ陸斗くん本気?いいね、いいよ、物凄くいい!!ボクはそれに賛成だ!!」

「ふははっ、ようやく目覚めたか陸斗?私もそれには賛成だ。元々この国には報復がてら潰す予定ではあったしな」


 結局俺が言い出さなくてもやるつもりだったらしい。

 なら、決定で良いか。


「主、本気ですか?」

「……(ふんすー)」

「ああ、本気だぞ?」


 俺は立ち上がってホワイトボートにデカデカと第三の目標を書き始める。


「どの道『人形王』って人もこの国に攻めてるみたいだしな。遅かれ早かれ戦争が起きる」

「そうだろうな。私個人で言えば戦争は賛成だ。文明とはいつだって争いと共に発展する」


 俺は戦争は嫌なんだがな。

 キュキュッ、とマジックで書いた目標。


「ならそれで一番早く多く死ぬのは酷使される奴隷だ」

「ボクは強い人と戦えれば良いけどね」


 武内さんらしい。人の生死を気にしない。

 グルグルと書いた目標を丸で囲む。


「それはあまりに不平等だろ?」


 書いた目標。それは……。


「『国家転覆』。平等に王族も貴族も滅茶苦茶にしてやろうか」

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