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閑話2 冒険者ギルドとお城のその後

 あのような事態は果たして今までどれだけあったか。

 冒険者ギルドの歴史を紐解いてもあれほどの人材と出会ったのは初と言って良いでしょう。

 私、マイラン・レイリーンは陸斗さんより頂いたクッキーの改善箇所を確認し、作成しながら思案します。

 

「なるほど。ここで一手間加えるのですか」


 冒険者ギルドとして数値上での逸材だったのはノドカさん。

 奴隷であるのが不思議でどう言った経緯から陸斗さんの奴隷になったのか皆目見当の付かない方でございます。

 レベルが低いにも関わらず中堅の冒険者どころか上級の冒険者を超えるステータスは竜人種の中でも上位と言って過言ではないでしょう。

 スキルである【竜人解放】も全ての竜人種が使えるのではなく一部の麒麟と呼ばれる種族が持っていたスキルでステータスを軒並み上げる効果があった筈。

 まったく末恐ろしいですね。敵に周れば勝てないまでも骨の幾つかは覚悟しなければなりません。


「温めたオーブンにセットして温度は、おや?最初は意外と高くないのですね」


 次に上げるとするなら実力の不気味さで武内さんでしょう。

 そもそも後の方々のステータスは全てゼロです。私の様に長い時を生きる者にとって実はステータスがゼロな方がかえって逸脱した者が多いと知っています。

 総合的に考えればステータスを持つ方が能力的には良いのですが、ある場面においては逆にステータスがゼロの方が突出して優れた場合がございます。最もそれに気付かず亡くなる者もいるので世間的に役立たずの風潮は拭えませんが。


 その点で言えば武内様は『武』に優れた方なのが一目瞭然。変態…、おっと、ギルマスの圧にも怯まず逆に返してしまうのではこうと断定せざるを得ません。

 下の方でのひと悶着も武内さんがB級の冒険者を天井まで殴り飛ばしたと聞き及んでいます。

 感覚から言ってノドカさんより武内さんの方が危険でしょう。普通は有り得ないのですが、それが有り得てしまうのがステータスゼロの恐ろしさです。

 

「ここで火力を最大にするのですね」


 そして皇さん。彼女も才能の片鱗を私たちに見せつけました。

 森の主をどこでもない空間から取り出しましたが、それは本来スキルである【アイテムボックス】でしか成し得ない力。

 現に【アイテムボックス】を道具として昇華出来ないかと躍起になっているのですが未だそれを実現出来た者はおりません。

 その為に【アイテムボックス】持ちの冒険者は大抵が商人ギルドへ奪われます。

 世界でも数の少ない【アイテムボックス】持ちは冒険者をやって命を落とすよりも物流を楽にした方が儲かりますし本人も楽です。ですが露骨な引き抜きをされますと思わずお前の首を引き抜いてやろうかと…、って少しは考えても良いですよね?

 

 少し脱線してしまいましたが皇さんはステータスがゼロ。スキルも当然空白。なのに【アイテムボックス】を使用出来る。

 あくまでも私の予測でありますが皇さんは【アイテムボックス】を何らかの手段で形にしたのだと思われます。

 そう考えればステータス外で『知』が尋常じゃなく高いのでしょう。エルフの研鑽し蓄積した知識を追い抜くだけの力は脅威以外何ものでもありません。

 

「後は冷めるのを待つだけと」


 オーブンから焼けたクッキーを取り出し、匂いで確認すると美味しいと確信出来る出来栄え。これは私が作った物の中でも最高傑作だと実感します。


「ふふ、楽しみですね」


 まだよく分からないのはレンさんですか。

 この方も奴隷なのですが才能がよく分かりません。

 特出すべき所を挙げるならば可愛いの一言に尽きてしまうのですが、こればかりはどうにもありません。何せ才能を知る事なく世の中から消えたステータスゼロもいるのですから。


「では紅茶を用意しましょう」


 そして最後に陸斗さんです。

 あのメンバーの中で唯一の男性ですが上手くやれている確信があります。

 料理で胃袋を支配してしまっているのですから彼女たちが暴走しそうになっても声一つ掛けるだけで止まるでしょう。

 何せこのクッキーの修正点を一口食べただけで数十点も書き記せる天才。

 事実その修正点に沿って作れば御覧の通り。

 私は料理が下手ではないと自信を持って言えます。そこらのお店で食べる料理の何倍も美味い料理を作る自信がございますが陸斗様には脱帽させられました。

 陸斗様は料理の点において私など足元にも及ばない程の高みにおられるのだと。

 今しがた淹れた紅茶も陸斗様に出した紅茶よりグレードは落ちる筈ですが、遜色ない香りを立たせてより深い味わいをもたらします。


「ふぅ、素晴らしい」


 これはけして私が淹れた紅茶に対する自画自賛ではありません。陸斗さんを称賛する言葉が漏れただけなのです。

 レシピを頂き作りましたが私のやり方ではまだ拙い筈。きっと陸斗さんがお作りになられればこの紅茶もクッキーも一段と違う味わいになるのでしょう。

 それに人間性も酷く虐めて差し上げたくなる、こう羞恥を煽りたくなるのは才能と呼べるでしょう。つい未使用の下着を使って遊んでしまいました。

 次会う時はどのようにするか楽しみです。


「なんだマイランここにいたのか」


 愉悦に浸っていると厨房に見覚えのある変態的アフロ、ギルマスが姿を現します。


「おや役立たず。起きたのですか」

「うるせぇ。目の前で森の主を討伐した証を見せられればこうなるってーの」


 このクッキー頂くぞ、とギルマスは作りたてのクッキーに手を伸ばす。


「お、なんじゃこりゃ!?滅茶苦茶うめぇじゃねぇか!!」

「私はギルマスから美味い以外に言葉を聞いた事がありませんが?」


 味音痴とは言いませんが陸斗様の様に的確な改善案がまるで出ません。きっと陸斗様が食べられたのであればまた数点の改善箇所を指摘されるでしょうに。


「今まで食ってたのが何だって出来だな?すげぇじゃねぇか」

「そうですね」


 取り合えず感謝の気持ちを送るとしましょう。

 私は自身のギルドカードを取り出して文章を入力して行きます。ギルドカードは声を送る方法と文字を送る方法の二種類ございますが個人的文字の方が好ましく思います。


「『早速作ったクッキーの出来上がりがとっ~ても良かったよ~♪またアドバイスを貰えると嬉しいな♡』こんなものですか」

「いや、もはや誰だそれ」

「文字は可愛く加工出来るので好きです」

「別人じゃねぇか」


 読めば同一人物だと分かるでしょうに。これだから変態は。

 私のメイ(ドう)は険しい。だからこそあの様な頂点に立たれる方の師事を受けられるのは幸運なのです。

 これからは師匠と呼ぶ様にしましょうか。




 ・・・




「一体どうなっている!」

「王よ、どうか落ち着いて下さい」

「これが落ち着いてなどいられるか!!」


 余はアビガラス王国の国王である。

 先日の勇者召喚、もとより家畜召喚は無事に成功し、集まった人数も多く結果も良かった。

 ただ、三人はステータスがゼロで残念な結果であったが内容を考えれば今回は大当りと言って良いな。

 

「何故、我が国でも有数の魔木の森が消えておるのだ!」

「それは現在調査中でして…」


 宰相に怒鳴り散らしても意味はない。それを分かっていながらもこの憤りは生半可な事では収まらぬ。

 何せあの森の木々は魔法を扱う者の能力を向上させられる魔木と呼ばれる木なのだ。特にあそこにあった魔木は枯れ落ちた枝木でも加工すれば強い魔法を生み出す触媒となった。

 だからこそあの魔木は確保したかったのだ。伐採をしようにも森の主が邪魔をして死傷者も大分出した。

 昔冒険者ギルドも含めて我が騎士も森の主の討伐に向かったが歯が立たず、半ば諦めておったのを家畜召喚で手に入れた駒を成長させれば森の主を殺せると確信しておったものを。


「では次に国庫が荒らされておった件はどうなっておる」


 余は苛立ちを抑えずに宰相に確認する。

 ただこれも結果は芳しくないようであった。顔が引き連れておる。


「はっ、その、未だ調査中でして」

「調査中しか言えぬか」


 冷や汗を流す宰相を見下す余は奥歯を強く噛み締める。

 国庫の全てが奪われた訳では無い。予算で行けば憎きモルド帝国への大規模遠征が二回出来る程度。

 しかし逆に考えると二回もモルド帝国を侵攻出来たのだ。この損失は大きい。

 優秀な駒は手に入った。なのにこれでは駒に使う諸経費を考えてもしばらくは国の運営にしか資金を回せぬ。

 まだ駒が育っていないとは言えど、いつでも侵攻出来る状況でないのは不快である。

 

「では賊はどの様にして厳重な警備を抜けたのだ。国庫にはかなりの人数を割いていた筈だが?」

「それが分からぬのです。魔法を使われた形跡もなければ争った跡もなく、建物にも傷一つ見られず何処から入ったかさえも……」

「もう良い」


 聞けば聞くだけ頭が痛くなる。

 この宰相はかなり優秀な人材。その宰相が分からぬとなればお手上げである。

 余が言わなくとも警備をしていたものに有無言わさず自白剤を使用しておるだろう。それで分からぬとあってはどうにもなるまい。


「次は無いぞ」

「はっ!」


 中身を全て盗られなかった。持ち出すのがあれで手一杯だったのか。それともワザとか。

 敵の真意が分からぬ以上は今よりも警備を厳重にするしか手はあるまい。全く無能は増やしても無駄な資源でしかないのか。

 そう言えば無能で思い出したがステータスがゼロの三人はあの召喚以降見ておらぬな。

 

「召喚した中に入っていた異物はどうしている?」

「私は何もしておりませんが城から消えております。おそらく小遣い稼ぎに誰かが奴隷として売ったのでは?」


 居ても居なくとも同じ、いや国の金食い虫となるなら居ない方がマシか。


「王よ。奴らはステータスがゼロですので騎士一人掠り傷も付けられは…」

「余はそんな異常な事が出来るとは思っておらぬ。もしもステータスがゼロの奴らに倒される騎士が居るならば奴隷として即刻売り払ってやるわ」


 忌々しい。余の覇道を邪魔する不敬が紛れ込んでいるとなれば掃除に時間を費やすべきか。

 どの道余計な手間を取らせよるわ。見ておれ、余が直々に制裁してくれるわ。

 

 国王は知らない。そのステータスがゼロの者たちの手によって森も財産も奪われている事を。

 既に居もしない国敵の為に更に無駄な資財と時間を費やされるのだから侵略に怯える周辺諸国にとっては有り難いだろう。

 知らず知らずのうちに英雄となっていた彼女らは、いつまでも知らぬまま今日も陸斗のオヤツに舌鼓するのであった。



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