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EXと言う名のボツエピソード~媚薬2~

「私はショックで寝込みそうだ」

「元気出してよ皇ちゃん。だって陸斗くんだよ?前にもあったしさ」


 食事を終えた一同は皇の部屋に集まり緊急会議が行われる。

 もちろん議題は『媚薬をどうやって服用させるか』である。


「何故あれだけで私の媚薬が無効化される!?信じられるか?!あの調味料は本当にただの調味料だぞ?!塩!胡椒!七味!何故無力化出来る?!ふざけるな!!」


 不満を爆発させた皇が怒りだす。調味料の名前を言う度に机を叩くのも無理はない。

 何せ陸斗が使ったのは僅かの塩に胡椒に七味。ただの調味料でしかない。

 科学者として媚薬そのものがそもそも失敗作であった方がマシな結果である。


 科学的にみてもどうやったら調味料だけで媚薬の効果を無力化するか見当もつかないのだ。

 それこそ化学反応を全て無視した神の御業。皇や天華が求めていた『天災』に相応しい力であるが今はそれが仇となってしまっている。


「くそっ」

「主ですから致し方ありません。他の手を考えなければ不可能かと」

「でも無理矢理飲ませるのはねー」


 そもそもの前提が陸斗から迫って欲しいと願っての行為。

 押し倒して欲しいから無理矢理口に押し込むのは自分から押し倒したのと何ら変わらない。寧ろ普通に迫るよりも酷いと言えた。


「……油断してる時にさっきみたいに投擲する」

「あー、やれなくないけど下手すると避けられるよ?だって陸斗くん誰かさんが強化しちゃったし?」

「おい、お前も賛成していただろうが。軟弱のままではいつ死ぬか分からんからとな」


 レンに身体を抉られた陸斗は皇の手により物凄く改造されてしまい、結果として天華と『氣』無しでもそれなりの組手が出来るようになった。

 反応速度の上がった陸斗は『武の天災』であっても相応に覚悟して挑む必要があるのだ。


 何せ魔改造したのは『科学の天災』。ドーピングなどではなく細胞の根本からの改造となっては人間の反応限界速度を容易く凌駕するだけの出来となっている。

 そこに『料理の天災』としての才能も合わされば早々に油断を狙えはしない。


「いっその事、これを頭からバシャっと…」

「絶対に止めろ。原液一滴で理性が飛ぶと言っただろうが。そんなもの頭から被った日には私たちもただでは済まんぞ」

「それに無理矢理は好まないのではなかったのですか?」

「うっ、まあそうなんだけどさー」


 マイランの指摘にたじろぐ天華は天を仰ぐ。

 

「ではこれを霧状に散布するのは?」

「却下だ。私たちまで媚薬の効果にやられる」


「そもそも媚薬を無効に出来る薬ってないの?」

「作ったばかりだ。そんなものあるか」


「……枕に染み込ませる?」

「無理でしょうね。師匠は一滴の媚薬も気付かれるのですから自分の使う物も普通に気付くでしょう」

 

 見事なまでにどん詰まりだった。

 彼女たちは明確な答え持っていながら敢えて口にしていない。もしかしたら気付きたくないのかも知れない。

 そもそもが媚薬を使っている時点で()()()()()()()()()()()()()と。


 そんな事実に打ちのめされたくないから強引な手を使いたくないのだ。

 無理矢理飲ませ、それで襲われたとしてもそれは薬の結果。薬を使った事実に気付かれたくないのだ。

 あくまでも媚薬はその気にさせる補助。陸斗がその気になり我慢できないとなって初めて勝利と言える。


 気付かれない様に服用させられなければ負けだ。気付かれれば最後、ドン引きされてしまうのは目に見えていた。

 だからさりげなく服用させる手立てを考えてしまう。

 

「一番は投擲だけど、それって…」


 天華は言いよどむ。

 

「ああ、口に何かを入れられたと絶対にバレる」

「ですね…」


 難攻不落の城。彼女たちの脳裏には攻め手のない要塞が現れていた。

 地図をあらゆる覚悟から見たとしても何処から攻めれば落ちるか分からない。

 面倒だからと大砲を打ち込むには城の価値が高いのでそのままの状態で得たい。そんなジレンマに彼女たちは襲われていた。


「………分かった。もっと濃度を薄めよう。効果も薄くなるがそれしかあるまい」


 皇は仕方なしに代替案を出す。が、当然ながら懸念事項もある。


「……それ、どれくらい効果が薄くなるの?」


 レンの疑問は今回の議題に対して重要なもの。

 もし服用させられたとしてもただ身体が火照るだけの効果しか無ければ陸斗は絶対に彼女たちに襲い掛かりはしない。


 だから理性を飛ばせるだけの効能は発揮して貰わなければ困るのだ。

 しかしながらレンの懸念を分かっている皇は苦い顔をする。

 

「勃起するまでの効果は保証出来るが、それ以上は難しいだろう。そうなると部屋に立て籠もられてしまう可能性がある上に今後媚薬を混ぜにくくなるな」

「うへー、それは困るなー。そうなると一発で決めたいよね。何度も同じ事があったら警戒されちゃうと思うし」


 バレるのだけは避けたい。なのに思うように行かないのだから焦れて来る。

 

「とりあえず濃度の調整の件もある。今回はこれで解散だ」

「分かりました」


 皇への信頼から天華以外の三人が部屋から出て行く。


「ねえ、これって水で適当に薄めるだけじゃダメなの?」


 残った天華は一人、机に置かれた媚薬を手の中で弄び始める。指の隙間を通してペン回しの如く巧みに操り、指先で瓶をバスケットボールのように回したりもした。


「それをただの液体だと思うな。水程度で薄まるなら苦労しない」

「そんな品物を陸斗くんは調味料だけで処理しちゃったと」


 皇の作った媚薬には相応の科学力が使われている。安易に水で薄めてしまえるものではない。

 そもそもこの媚薬は液体ではあるが油に近い。混ぜようとしても混ざらないが正しかった。


 油に近い性質を持たせる事で食事に混ぜても効果を変えられないようにと配慮した結果だ。

 しかしながら陸斗相手に無駄に終わった。色々と気を付けながら苦労して作り上げただけに皇が感情を露わにするのも仕方ない。

 

「だから騒いだのだ。それよりも天華、危ないから手の中でやたらと回すな。さっさと返せ」

「ごめんごめんって、――あっ!」


 ここでの不運は二つ。

 一つ目の不運は天華がドアの近くに立っており、媚薬の入った瓶の蓋が思いの外緩んでしまっていた事。

 これにより媚薬は蓋が開いてしまい中身が溢れてしまう。


 二つ目の不運は陸斗が()()()()()()()()()()()()()


 ノックする習慣が消え失せるだけ側にいた。

 それもここは皇の部屋。今がオヤツ時であり、皇の研究に没頭する癖を知っているから気にせず部屋のドアを開けてしまった。


「皇、今日のオヤツはパンケ、――ぶっ!?」


 

 ――ポタポタ……



 一時の空白。

 頭から瓶の中身の殆どの媚薬を浴びた陸斗が立ち尽くす。


「「――っ」」


 ここで一人の少女が動き出す。

 慌てた様で扉の前にいる陸斗をすり抜けて部屋の外に出ると陸斗を部屋に閉じ込める形で勢い良く扉を閉める。

 

『ちょっ!?皇ちゃん、どう言う事?!』


 部屋の中で騒いだのは()()であり外に出たのは()だった。

 

「すまん許せ」


 皇は謝罪の言葉を口にすると躊躇なく扉をロックし、絶対に中から開けられない様に密閉した。

 本来であれば『武の天災』である天華がいち早く動いておかしくなかった。

 しかしながら二人の意識にはどうしようもない差があった。


 それは製作者か否か。

 あの媚薬を作ったのは『科学の天災』である皇。当然ながら媚薬の効果を熟知している。


 ――一滴で理性が飛ぶ。


 あれは比喩でも何でもない。本気で飛ぶのだ。そんな物を一滴どころか瓶の中身の殆どを頭から被ってしまったのだ。効果を考えれば皇の行動に何ら不思議はない。

 幸いであったのは経口投与ではなく皮下投与であった事。それにより皇は陸斗の理性が飛ぶ前に逃げ切れたのだ。

 

 それに比べ、天華は陸斗が媚薬を事故で被った事をラッキーだと思ってしまった。

 元々媚薬の投与について話し合っていたのもあり、目的が今目の前で達成されてしまったのだ。なので逃げると言った選択肢が頭に思い浮かばず、一目散に逃げた皇の行動の意味を考えられなかった。

 

『ここ開けてよ!なんか陸斗くんの目がヤバいんだけど!!?』


 皇は科学者として当然の行動をしたに過ぎない。

 被害は最小限に。パンデミックなど起こす科学者は三流なのだ。

 ドンドンと叩かれる扉を背中越しで感じながら絶対に開けないと固く誓う皇は生贄(てんか)が大人しくなるよう説得を試みる。


「お前の望みだ。良かったな今から襲われるぞ」

『この目はマズイって!早く開けてよ!!じゃないとこれ壊すよ!!』

「はっはっはっ、木製に見えるが生憎と核一発なら傷一つ付かん。私の作った家だぞ?耐久性もそこそこある」

『無駄に高性能!?』


 天華が扉を壊す前に陸斗が襲う方が早い。

 そうなるとこの部屋はしばらく使い物にならなくなるが、皇にはあの媚薬の効果が無くなる前にこの部屋を開ける勇気は持っていなかった。

 南無阿弥陀仏。天華が生贄になるのだ。体力的にも効果が切れるまで持つだろう。


 皇は扉から離れると現実逃避をするようにリビングへ向かう。

 当然目当ては陸斗の作ったパンケーキ。惨状とは見えなければ気にならないのだ。


『ちょっと皇ちゃん聞いてるの!?皇ちゃ、――むぐっ!?んんーーーーーーっ!!!??』


 ――終わったな。

 皇は哀愁漂う目をしながら襲われ始めた天華を無視するのであった。

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