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第114話目 天災たちは神と遊ぶ

「知らなかったな。『氣』に赤よりも上があったなんて」


 二人は神様を相手に戦っていた。

 その姿は無邪気な子供のようで、普段大人びていた分よりいっそ幼く見えた。

 俺たちでは二人の気持ちを分かって上げられない。


 『天災』であるのに気付けなかった俺とレン。

 『天災』までその身を引き上げたノドカとマイラン。

 『天災』の領域にあと一歩届いていないハガクレさん。


 この場にいる誰一人として端から『天災』であると言う自覚とその孤独を知らない。

 孤独だけなら誰もが味わった事もある。

 しかし世界の頂点に立ち、来るはずのない挑戦者を待ち続ける日々は知らなかった。


 長い年月を待ち続け、時には自ら探し回りもした二人がこの世界に来るまで結局得られなかった強者。

 それが目の前にいるのだからはしゃぐのも無理はない。


「……なんか嬉しそう」

「そうだな」

「主は参加されないのですか?」

「俺?俺はいいよ。二人でやりたいって言ってるんだから任せればさ」

「でしたら食事でも作りましょう。終わった後ならお腹も減りますし」

「それマイランが料理を勉強したいってだけだろ…」


 でもそれも良いか。

 後の事は二人に任せて少し離れた位置でご飯の用意をして待ってるとするかね。


「じゃあ俺たちは行こうか」

「それがよろしいでしょうな」


 楽しそうな声を背に俺たちは巻き込まれない距離まで下がるのだった。




 ・・・



 

「あはははははーーーーっ!!」

「不可解」


 天華の拳が空を切る。

 見事な受け流しをする神に私は躊躇なく【悪食の顎門(グナト・グラ)】の穂先をぶつける。

 【悪食の顎門(グナト・グラ)】の先端にも捕食効果があり、触れれば間違いなくその部位は食い千切られる。


「実に不可解」

「ふはっ!やはりそうなるか!!」


 しかし【悪食の顎門(グナト・グラ)】は神の操る血液色の液体に防がれてしまう。しかもこの液体の質量が凄いのか【悪食の顎門(グナト・グラ)】では捕食し切れない。

 これだけで私の科学を超える存在だと断言出来る。


「両者不可解。何故拮抗する。原因究明……エラー」

「ふん、機械みたいな物言いだな」

「ボクらなんて眼中にないって事?すこーし失礼じゃないかなー?」


 だが、あまり効いていないのも事実。

 私たちの攻撃に危険性を感じ回避はするものの、防御に回れば打ち崩せずに見事防がれてしまう。

 私たちを二人相手にしてそれが出来るのだからこの神は間違いなく私たちよりも格上だ。


 天華が殴打すれば全てを見切られ、私がレーザーで焼き殺そうとすれば操るマグマによって方向を歪められ当たらない。

 ならばと速度で勝負しようにも緩急をつけての空中戦さえ奴が上だ。私と天華では二人がかりでようやく対等。


「「……ふふふ、ははっはっはっはっ!!!」」


 だから楽しい。血沸き肉躍るとはまさにこの事だ。


「ああ、こいつは一体なんだろうな天華」

「だから神様なんじゃないの?何でも出来るみたいだし」

「近接戦から中距離戦までこなすのだからな。次は遠距離戦でもやってみるか?」


 今までで一番興奮すると言って良い。

 天華と戦った時よりも興奮させられる。

 まだ私たちが人類の限界ではないとたった今、証明されたのだから興奮しない方がどうかしている。

 

「ところで皇ちゃん。私と同じ速度で動いて平気な訳?Gが凄いと思うんだけど」


 天華が空中で止まると私の身体をマジマジと見た。 


「平気だ。その程度の負荷も【悪食装甲(グナド・グラ・)顎門の贖い(アトーメント)】は喰い殺す。Gの衝撃までも攻撃に変換してみたがまったく効いていないようだがね」


 肉体に傷らしい傷はない。Gの負荷に耐え切れず身体が裂けるのならその時は【悪食装甲(グナド・グラ・)顎門の贖い(アトーメント)】がGを喰い切れない時だ。余程の事でも無い限りは有り得ない。

 しかし、それよりもだ。


「天華のその黒い『氣』は初めて見るのだが?」


 長年共にいる私でも見た事のない黒い『氣』。こんな隠し玉を持っているとは思わなかった。


「ああこれ?中国の陰陽太極って知ってる?もしくは房中術」

「なるほどな」


 つまり陸斗を抱いてパワーアップしたと。お前は何処の主人公だ。


「男女の『氣』の違いって凄いね。一発やって混ぜて留めとくだけでいつもより速く動けるようになるんだから」

「言い方が生々しい。自重したまえ」

「ぶー、皇ちゃんだって抱かれたくせに」

「子供は欲しいだろ。お前の動機とは違う」

「ちょっ、力を求めて抱かれたりしてないんですけどー」


 言い合う私たちの視界の全てを染めるようにマグマが襲う。


「非常に不可解で不快。戦場で談笑非常識」

「「おっと」」


 襲い掛かるマグマから全力で離脱する。

 神は無表情に見えて怒っているように見えるのだから実に不思議だ。

 やはりこいつは感情の起伏が乏しいだけで人としての本質までは無くしていない。


 怒らせる行動を取れば怒るし、困惑させる行動をすれば困惑する。

 あのポーカーフェイスを崩せたのならさぞ気持ち良いだろうな。

 しかし存外隙が無い。


 せっかく距離も開けたことだし宣言通り遠距離戦でもやるとするか。


「獣闘法【大蛇オロチ】」

「【型無しの刀インタクティル・アキエース】」


 天華も同じ考えをしているようで黒い蛇を顕現させる。見た目はもはや蛇ではなく竜。空中を漂う姿などは邪竜でも従えているデフォルメであった。

 私も【型無しの刀インタクティル・アキエース】を空中展開させて待機させる。


「って、うわー、なにそれ?昔見たのより凶悪になってない?」

「ん?これはそこまで手は加えていないのだがね」


 【型無しの刀インタクティル・アキエース】を折角なので量子形成領域を広げて見たに過ぎん。

 柄を起点にしか刀を形成出来ていなかったが今では刀を数十本切り離した状態で形状の維持が可能となった。


「天華の大蛇の方が危険に思えるがな」


 私の見立てではあれは呪いと同じだ。掠りでもすれば臓腑まで腐らせる類のもの。

 私の【型無しの刀インタクティル・アキエース】など柄と繋げておく必要がなく全方位から攻撃が可能になった程度で天華の大蛇とは危険度など比べるまでもなくだ。


「じゃあどっちもどっちって事で。それじゃあ行くよーー!飛べ【大蛇オロチ】っ!!」

「走れ【型無しの刀インタクティル・アキエース】!」


 マグマで全方位でも覆うか?それとも全て回避するか?

 答えはどちらでも無かった。



「ぐぅっ…、……理解、不可能」

「「っ!?」」


 

 う、受けた…、だと?

 全方位からの私たちの攻撃を受けた奴の身体は穴だらけであり、同時に天華の呪いで蝕まれた。

 死ぬ気かこいつは、と思えば瞬く間に穴は塞がり、呪いで黒くなった肌は透き通る白へと戻って行った。


 殺す気で放ったとは言え、あいつの無事な姿に安堵する。

 これはあくまでも私たちなりの挑戦でしかないのだ。折角見つけた最上の『天災』に簡単に死を受け入れられては困る。

 

「あー、びっくりしたー。もう何やってんのー?」

「まったくだ。普通に躱すなり何なりして貰いたいものだね」

「………」


 穴の開いたドレスを確認した後、奴は訝しむ目をしてこちらを見る。

 

「やはり不可解。全てを受けても理解及ばず。スキル、魔法、どれにも該当せず。されど外側からの来訪者であれば脆弱故に追加効果を与えるがそれも当て嵌まらず。何者?」


 なるほど。有象無象共に理不尽な力を与えられていたと思っていたが奴なりの慈悲があったわけか。それを自分の力であると勘違いしていた有象無象共は哀れだなものだ。

 あくまでも庇護下の中での行動を容認されていたに過ぎない。目に余る行動でもすれば力を取り上げられていただろうが、奴の放任主義を見ていれば何をした所で放置されていただろうな。


 現に私たちが大国一つ消して見せても姿を見せなかった奴は干渉するつもりなど欠片も無かった。

 だから私たちの手で引っ張り出して初めて姿を現した訳だ。そうなると一つ聞いて見たい事が出来た。


「私たちが何者かなど些細な事であろう?それよりもだ。お前は何百年か知らないがステータスを生み出す装置として生きていたわけだが何がしたかったんだ?私たちが求めたように対等を望んでいたにしては表舞台に出て来なさ過ぎであろう?」

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