第112話目 『天災』との邂逅
「さて、不愉快なものは一掃出来たな」
「責任者には相応しい末路だね」
「城、ってか国一つが相応しいのかは疑問だけどな」
城があった場所は瓦礫一つない更地となった。
遠くから見ていたがあのデカイ黒い太陽は避けられるものではなく、総じて潰してしまったのだから恐ろしい威力だった。
こうして辺りを見回すと本当にここに大国があったのか疑う光景だ。
滅ぼしておいてどうかとは思うがやり過ぎだったかね。
「ふむ。これでアビガラス王国は死んだ。気にする必要は無いがモルド帝国は安泰だろう」
「そうだねー」
皇の中でモルド帝国の評価がどうなっているか知らないが少なくとも手を貸してアビガラス王国を潰すだけの価値はあったようだ。
でなければ国がどうなろうと放置して本来やりたかった事を先に実施していた。
「しかしながらお目当ての方は出て来ませんでしたな」
「高みから見下ろす者にとって国がどうなろうと興味がないようですね」
「……皇様と同じ?」
「私はそこまで傍観を気取る気は無いぞレン」
「まあ想定の範囲だろ」
俺たちにとって目的。それはステータスを作った者との邂逅だ。
この世界は皇の研究の結論として『異常』に尽きた。
老人でさえステータスの力があれば大木一つ担いで持ち歩ける。
スキルがあれば子供であってもその身体は刃物も通さず、風よりも速く行動が可能となる。
例に上げたような人間は極稀にしか会えていないが、種族差を鑑みても筋肉量及び魔力量と比例しない。
そこでステータスに乗るスキルを使用する際、何処からエネルギーを得て消費するのかを観察した結果、この次元にはない箇所から力の流出を検知した。
ならこの世界の何処を探してもいないのだろう。
一体何のためにこのステータスを世界にばら撒いたのか。どうして自分は表舞台に現れないのか。
尽きない疑問はあるもの、なら会ってしまえば良いと結論付けた。
もしかしたらいないかも知れない。機能だけが残り、作った者は亡くなっている可能性はあった。
しかし俺たちは聞いている。あのシステムめいた声を。ステータスを植え付けようとして失敗した声を俺たちは確かに聞いている。
ならいるのだ。この世界の根幹となった『天災』の領域にいる化物が。
「では主はどうされますか?」
ノドカの最もな疑問に俺は気軽に応える。
「世界が壊れるかも知れないけど調理るしかないだろうな」
・・・
「準備は出来たか?」
俺は包丁と調味料を持って待機する。
「こちらは問題ありません」
「同じく」
マイランとノドカがそれぞれ大剣を持ち、こくりと頷く。
「我々は待機ですかな」
「……役に立ちたかった」
ハガクレさんとレンは待機。今からやる事に残念ながら二人にやれる事はない。
それは皇や天華も同じだった。
「陸斗、失敗しても構わんぞ」
「そしたら次はボクの番だね」
「いや私だろ」
「むー、その時はジャンケンだね」
二人がやれない訳では無い。
しかし二人がやれば確実に世界を壊す。それも文字通りどうにもならない最期を強制的に呼び込む羽目になる。
だから世界を捌くのは俺の役目だ。そのフォローとしてマイランとノドカにお願いしている。
ステータスを作ったであろう次元とこの世界を繋げるのだ。
生半可ではいけない。瞬間移動の為に斬る次元とは層の厚みが違う。
転移するのに斬ったのは層のごく浅い箇所。いつも使う『界の裏側』並みに層が浅く、世界の修復力を当てに出来る部位。
だが今回捌こうとしているのは層の厚い次元。世界の根幹とさえ言える箇所に手を付けるのだ。繊細でなくては崩壊は必至。世界の修復力など当てにするのは難しいだろう。
あの二人がやればこの世界にアビガラス王国程度では済まない傷を付ける事になる。そうなれば折角助かった王女に申し訳ないしな。
だから調理するのは俺の担当。二人には出来上がった料理を食べてもらうに限る。
「それじゃあ始めるぞ」
「「はい」」
呼吸を整え集中する。
普段の調理よりも遥かに高い難易度だが、それでも二人のフォローがあれば何とかなる………筈。
『氣』を包丁に纏わせて世界を見る。
何層にも重なり合ったガレットのように壊れやすく、それでいて大型の獣のように重厚な食材。
ほんの少し入れ間違えるだけで途端にダメにしてしまいそうな雰囲気のコレにどう手を出すか。
「マイランとノドカは固定の用意を」
俺は指示だけを飛ばすと空と地面を繋げるように浅く切り込みを真っ直ぐ入れる。
この範囲であればいつも通り。しかし問題はここからだ。
「………っく」
重い。とてつもなく重い感触が包丁から伝わって来る。
これが普通の包丁であれば根元から折れているだろう重みを無視して慎重に刃を入れて行く。
幾度かに分けて切り裂いた空間は見ているだけで精神を抉る痛みを視覚に投げかけて来る。
まだこれでも序の口だ。
次に包丁を一端戻し、スパイスをすり込みように混ぜ入れ、重く固い空間を揉み解す形で手を加える。
岩をパンに変えるような無茶苦茶な技巧を駆使して丹念に揉み解した結果、世界に悪影響をあまり及ぼさないレベルにまで持って来れた。
「ふぅ…、こっからが本番だ」
かいた汗を袖で拭うと確認のために皇の方に振り向いた。
「あとどれくらい奥にいるんだ?」
「32XFF/Uの十二乗を325Y進んだVの加速した所にステータスの出力先があるな」
「さっぱり分かんないんだけど!?」
「まあ、そのまま進め。マズければ止めてやる」
何処なんだろうか32XFF/Uの十二乗を325Y進んだVの加速した所って。皇の事だから俺たちの思うXやFじゃないのは確かだろうな。下手をすれば自分で定義した記号を言ってる可能性がある。
とにかく本人がそのままやれって言っているから大丈夫だろう。
「それじゃあ行くぞ」
自分の感覚でこの辺りだろうと言う位置に向かい、取り出した金の串を一本投げ入れる。
………刺さった。真に入った手ごたえを感じると、すかさずバーナーで炙ること十一秒。
「………………よし。マイラン、ノドカ、剣を空間の端に置いて」
「「はい」」
マイランとノドカが大剣を構えて空間の端に剣先を置いた。
「じゃあ俺が一気に斬るから同時に大剣で深く突いてくれ」
包丁に再度持つと『氣』を纏わせる。準備は出来た。
「三」
一体ここから何が出て来るか。
「二」
何も出ないかも知れないがその時は諦めるだけだ。
「一」
ただもし出たのならそれはきっと皇や天華が待ち望んだ者に違いない。それだけの事をこの人はしているのだから。
「零」
ザンッ、と切り裂くと同時に突き入れられる大剣は空間の境に根元までしっかりと突き刺さる。
――ドッックン……――
それだけで世界に重苦しい重力が上乗せされたように錯覚した。
これは、マズイんじゃないか?
「ふむ、推測は合っていたか」
コツコツと規則的な何かの足音が切り裂いた空間内から響く。
「主、下がりましょう」
「あ、ああ…」
ノドカに促されて皇や天華の所まで下がる。
切り裂いた空間は海の底の様に暗く何も見えない。
しかしそこに確かに何かがいると本能的に分かってしまう。
「さて古来よりの言い方をするのならお前はこう呼ばれるのだろうな」
ズルっと出て来たそれは人にしてはあまりに精巧な人形のような美しさ。
日本人形のような腰まで来る直線的な白い髪は一本もほつれる事はなく纏まり、それでいて西洋の人形のような白い衣装を身に纏う。
額には小さな赤い玉を三つ入れた幼き少女。しかしその存在の重さは何千年の月日を生きた大樹のように力強い。
「危険因子多数確認…。存在の定義を問う」
呟いた声はか細い筈なのに、世界中に響き渡っていると思わせる重厚感。
皇はこの化物の存在を既に認識していた。
「この世界の神なのだろう。お前は」
皇たちが相対したかったとする『天災』はこの世界の神様だった。
わーい転勤だー……ちくせう(泣)
本気でしんどい部署に飛ばされてしまったじぇ(´;ω;`)