第111話目 アビガラス王国の最後
アビガラス王国side
「これは一体何事だ!?」
突如全身を揺らす振動に敵の存在を王は知覚する。
ただその攻撃は敵と言うにはあまりに規模が大きく、このアビガラス王国の大都市全てに襲い掛かっているなど露も知れない。
城そのものに襲い掛かっているのは余波でしかないが、アビガラス王国の王は城に大魔法を撃ちこまれたと錯覚していた。
「っく、立っていられん…」
「敵軍の特攻でしょうか」
「バカな。こちらにはあの勇者共がいるのだぞ。そう易々と大軍を通過などさせんわ」
それにモルド帝国に特攻を許すだけの余力を残させてはいない。
モルド帝国を徹底的に叩き潰すために回りくどい手段を幾つも取った。
他国の姫や重鎮を誘拐する暴挙も勇者の持つ【転移】によって成し遂げた。
道具による【転移】は帰還くらいにしか使えないが、勇者の【転移】はどこにでも行ける。
それを知ったアビガラス王国が誘拐を企てるのは当然の事であり、見事成功した時は笑みが自然と零れ落ちたものだ。
もっともその【転移】を使って早々にモルド帝国の女王であるラミネ・ノディステイル・モルドを殺さなかったのは何度と辛酸を舐めさせられた復讐心からだった。
じわじわと真綿で絞め殺すように追い詰めて心を折る。
罪のない奴隷たちを殺させ、協力していた他国から裏切られ、頼れる騎士たちも潰されればあの女王でも泣いて許しを請うだろうと考えていた。
なのに結果はどうだ。
【転移】で帰還した兵からの情報ではモルド帝国は謎の協力者を得て他国を蹂躙している始末。
その謎の協力者は自らを『災厄の集い』と名乗りあらゆる場所で活躍を見せる。
王はこの『災厄の集い』をモルド帝国の勇者召喚で呼び出したものと認識していた。
勇者召喚はアビガラス王国の秘術であったが、一国で出来る事を他が出来ない保証は何処にも無く、情報が漏れている可能性はあると踏んでいた。
実際は自ら呼び出し、役立たずと捨てた者たちであったが真相が王に伝わる事はない。
忌々しいモルド帝国め、と奥歯を噛み締めながら揺れに耐える王は早急にプランを組み立てる。
現在他国へ侵略した兵の二割を保有している。その中に優れた魔法使いが数十人このアビガラス王国の大都市を守っている。
しかしそれもあくまで先の戦が始まった時までの事。
特に優れた魔法を使える者は万が一に備えて【転移】の道具を持たせていた。それを使って帰って来た魔法使いを再構成すれば半数以上が魔法を使える大部隊に変わる。
今起きている事態が魔法によるものだとすれば魔法使いをぶつけるのは必至。
ただそれで現状の対処は可能か?
あの勇者たちの目を掻い潜り、ここアビガラス王国にまでやって来るには陣取っている谷を超えなければならず、一人二人ならともかく軍として抜けるのは無理がある。
ならばこの攻撃をしているのは『災厄の集い』と当たりを付けた。
報告では『災厄の集い』は勇者に匹敵する力を付けている。このまま魔法使いの部隊をぶつけたところで二の舞を踏む危険は十分にあった。
それならいっその事一部の勇者に帰還命令を出して魔法使いたちに防御魔法を展開させているのが上策か。
化物には化物。勇者を使われたのなら勇者をぶつけるのが一番的確である。
「揺れが止まったか」
では直ちに策を、と考えた時点で窓の外を見て固まる。
「なっ…、なんなのだこれは……」
バカなと騒ぎ立てる声も失ってしまう。
窓の外に広がるは我が国でも美しい大都市の建築物が所せましと並んでいた。
しかし今あるのは廃墟、廃墟、廃墟。大都市であった面影が残るだけの廃都市と化してしまった。
平民たちの住む民家から貴族の住む邸宅まで等しく潰される異常事態。
残っているのはこの城ただ一つなのだから声を失うのも仕方ない事。
そして理解してしまう。
「今のはこの城を狙ったのではなかったのか…」
敵の攻撃には十二分に備えていた。
大都市全てを守るだけの用意であり、もしもモルド帝国が全軍を上げて向かって来ても耐えられると自負していた。
なのに結果はどうだ。敵に易々と攻撃を許し、その一撃によって大都市を一つ潰されてしまう。
ここはもう捨てて別の都市に城を作ってしまった方が早いだろうと思える惨状。
まさに天災。これをやったのが誰かなど字面からして分かってしまう。
「『災厄の集い』め…。よもやワシの首を直接取りに来たか」
「今更老いぼれの首を捕った所で何になる?己の過大評価も大概にしておけ」
「っ!?」
現れたのは一人の小さい少女だった。
そしてその少女が服装は違えどもあの勇者召喚で呼び出した使えない駒の一人であると認識する。
腐っても王。伊達に多くの人間を見てはおらず、その記憶力は凡人を幾人集めても敵わないものだった。
「なんだ貴様は!ノコノコと現れおって!!貴様のような役立たずが出て来た所で物の数にもなるか!!」
王の中ではあくまでもハズレのコマ。
この世界にはいない筈の異人なだけに一瞬だけ勇者たちの帰還を喜んでしまったが、この役立たずでは自ら戦った方がマシであるもの。
何処に隠れていたかは知らないが害虫よりも無価値であった。
「その物の数にもならん奴に国を滅ぼされる気分はどうかね?」
「なん、だと…?」
ハッタリか?しかし現状がそれを強く否定する。
目の前の少女が先程の揺れに対して何も思う事がない、それどころか強者の持つ絶対的な自信を感じさせる。
何よりこの少女の背中に着けている金属など見た事のない代物。
あれがやったと推察しない訳にも行かなかった。
ならばやる事は決まっている。
「衛兵!奴を捕らえろ!!」
「「「はっ!!」」」
都市を崩壊させるだけの道具を持つのなら奪ってしまえば良い。
強力な武器を我が物にすれば世界は楽に支配出来るのだから。
「うはー、短絡思考だねー」
この場に似合わない能天気な声が響く。
ただそれだけなのに少女を襲った兵たちが気が付けば倒れていた。
「ぬぁ!?」
「ボクらがいた時から全然変わってないよねー。勇者たちがいるから安泰だと思ったの?」
またしても現れた無能。
されど瞬くまに近衛兵たちがやられ、知覚出来ない速さで現れた者が無能な筈も無かった。
「バカな!?」
「バカは貴様だ。現実を受け止めろ」
つまらなそうにする少女に困惑を覚える。
ステータスを偽っていたのか?しかしそうする理由が何処にある。
集団で召喚したのは戦力の増強以外に集団心理を利用していた。
そうしたのが誤りだったと言うのか。
纏まらない思考の中で少女は呟く。
「世の中は因果応報だ。貴様が召喚したものが一体何であったのか理解出来ぬまま死ぬといい」
死を告げた少女は音もなく飛び上がる。
あり得ぬと声も出せずに固まると次の瞬間には天井が消えた。
「「「「っ!!?」」」」
幻覚でも見ているのか。ああそうだ。きっとそうに違いない。
数百年の歴史を持つアビガラス王国の大都市が短時間で滅ぼされてなるものか。
音も無く魔法防御の施された我が城が消えてなるものか。
「ち、違う…、こんなもの、こんなものが現実の訳が……」
しかし目に見える現実が幻覚と断ずるには鮮明に見え過ぎていた。
天井から吹き付ける風が冷や汗をかいた額を撫で付ける。目に入る太陽の光は全身に熱となってぶつかり、これが現実なんだと訴え掛けて来る。
「ならばその身を持って受け止めると良い。それがお前の幕引きだ。身の丈に合わない欲を抱いたまま押し潰れろ」
「これがいわゆる理想を抱いて溺死しろ、だねー」
あれは何だ。黒い、太陽?
少女たちの隣に浮かぶ黒い太陽はゆっくりとこの城へと降下する。
何かは分からない。しかしあれが明確な悪意の元で降り注がれているのは間違いなかった。
「頭上に全力で防御魔法を展開しろ!急げ!!」
「「「はっ!!」」」
速い攻撃ではない。ならば魔法には魔法で対抗するに限る。
準備するのを待っているかのように静かに落ちて来る黒い太陽は城の外壁を飲み込み始める。
「っ!?」
本当に何だあれは!?
攻撃にしては破壊力を感じさせない。なのに外壁など無かったかのように飲み消している。もしあれに触れればどうなると言うのだ?!
防御魔法までも飲み込もうとする黒い太陽は魔法などそこにはないと言わんばかりに頭上に落ちて来る。
「逃げるぞ!!【転移】は出来んのか!?」
あれはもうどうこう出来るものではない。今から走って逃げた所であの黒い太陽の餌食だった。【転移】以外に逃げる方法などない。
重臣たちを睨むもその顔は誰も芳しくはなかった。
「そ、それが【転移】の道具が消失して…」
「あ、これの事?ダメだよ逃げるなんてルール違反だからね」
チャラ、と頭上で金属音がすると思えばどう浮いているのか分からない少女が手の中で【転移】の為のアクセサリーを弄んでいた。
「返せ!!それを返すのだ!!!」
届かないと分かりながらも手を伸ばしてしまう。それが無ければ助からないと気付いているのだから。
「やーだよ。他人を自分の勝手で召喚してこき使うんだから偶には他人の勝手に付き合ったら?」
「貴様ぁああああああああっ!!!!」
血管が切れんばかりに王は叫ぶ。
「ワシは王だぞ!!アビガラス王国の国王にして世界を統べる支配者にして絶対なる強者に対して貴様はぁあああああああっ!!!」
「「ふっ」」
その笑い声には侮蔑と憐れみが込められていた。
「王に対してとか世界の支配者って今から死ぬのにそれは無いよね」
「貴様が私たちを召喚などとツマラナイ事をしなければこの様な事は起きなかったと自覚したまえ。資源ととしても使えそうにない貴様らには相応しい末路だ」
もう少女たちの姿は見えない。
それだけ黒い太陽は近付いており、手を伸ばせば触れられそうな位置にあった。
剣を持つ者たちは闇雲に切り裂こうと足掻くが、剣を触れた先から消されてしまう。
触れれば消される。それだけに王でありながらも目の前の危険に距離を取ろう膝を着いてしまう。
王である筈なのに自ら膝を着かされているのだ。屈辱以外何物でも無い。
「首を垂れながら死ぬとは断頭台に乗るより屈辱なのかね?感想だけでも述べるといい」
「せ、世界を半分やる。だからこいつを退けるのだ!!」
「話にならん。世界など元の世界でも求めなかったものを態々求めたりはせんよ」
膝を着くだけでは最早足りない。既に触れてしまった者は頭部を食われて死んでしまった。
少しでも距離を取ろうと寝そべるような形にまで追い込まれてしまう。
「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
横目に空を見るも視界の全ては真っ黒だった。
と、取り敢えず完結させるんです……orz。
皇さんたちの殺っちゃう基準は特にありません。
元クラスメートたちの行いは皇さんたちにとってあまり記憶に残らないレベルでしたが王様は全ての元凶なので最高責任者として世界から辞任して頂きました。
こう物語って自然と浮かんだほうに転がしてしまうんですよね。元クラスメートなんて殺っちゃう方が自然でしょ?と指摘され、確かになーと思っても腐っても勇者ですし実験動物程度の価値があったので生かしたって感じですかねー。
ふわっとした物語で申し訳ないですがお付き合い頂けて嬉しく思いますホント。二週間空いても更新を気にして頂けてると書く活力になりますね。