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第109話目陸斗VSモザイク

 人には戦わなければならない時がある。

 社会人ともなれば戦った軌跡が経験となって蓄積し役立つ時が来るだろう。

 しかし神様、これはあんまりじゃないだろうか?


「ハァ、ハァ…。陸斗きゅん…お、俺は待っていたよこの時を」

「待ってなくていいから服を着ろ」


 元クラスメートとの戦い。血で血を洗う生死をかけた戦いは文面だけなら悲劇と取れる。

 たとえそれが親しくない間柄でも同郷の者となれば複雑な気分になる。 


 筈なのにこの気持ちは何だろうか?

 生死をかけた戦い?誤変換されそうで嫌だ。

 元クラスメート?そもそもいたのかこんな変態。

 イケメンの山崎さん、貴方は見ない間にかなりオカシクなってませんかね?


 今から本当に戦う気があるのかと疑うほとに裸である。布一枚さえない姿はある意味で潔い。

 一応剣は待っているが、下半身から放たれるオーラの方が俺には余程脅威であった。


「本当に服を着てくれない?気持ち悪いんだけど」

「すぅうううっ…」


 山崎は人の話も聞かずに深呼吸した。


「はぁあああ………。陸斗きゅんのカヲリだぁ〜」


 ぞわわっ!

 全身に鳥肌が立つ悪寒が走り抜けた。

 光悦とした表情が本気で気持ち悪く、よりにもよって何でこれと戦う羽目になっているのかを自問したい。


「俺たちはこうして戦う運命だったんだよ」

「そんな運命ドブに捨てたいんだけど」


 山崎のテンションに着いて行けない。

 一体何があればこんなに変わってしまうのか。昔はもっと普通だと思っていたのに今では立派な変態になった。脳内からモザイクが外れないんだけど。

 

「俺たちはまるでロミオとジュリエット」

「どっちかと言えばハンニバルとスキピオだろ」


 結ばれないって意味では間違いないがロミオとジュリエットは恋人たちの物語だろ。シェイクスピアが泣くわ。


「だが俺はハッピーエンドにして見せる!俺はジュリエット(陸斗きゅん)と結ばれるんだ!!」


 やだこいつ。人の話を聞こうとしない。

 しかもこいつ顔までイッてやがる。クスリをキメてもここまでの顔にならないんじゃないかと思える気持ち悪さだった。

 

「大丈夫最初は皆拒絶するけど最後にはね?ふふふ…」

「………」


 無言で『界の裏側』からいつもの包丁を取り出す。

 本当はこんな腐った食材を調理したくもないんだけどな。仕方ないんだ。降り掛かる火の粉は払わないといけない。なにより俺の貞操がピンチだ。


「陸斗きゅんがどれだけ女を抱いてても構わない。男の最初が俺だったら別に良いんだ陸斗きゅんも分かるよ。女よりも男の方がいいんだってね」


 山崎が一歩進む。しかしその一歩が俺にはどうしても受け入れられなかった。


「【一刀調理・隠し包丁(トラップクッキング)】」


 俺は地面をさくりと撫で切った。

 ただそれだけで山崎の一歩置いた足場は崩れ、まるでそこに初めからあったように地面に大穴が開いた。

 もちろんそれで終わる程甘くない。


「中にトゲが!?」


 声が驚きに染まる山崎。

 落ちた先には土を固めて造られたトゲが所狭しと並べられており、普通の者であれば落ちただけで終わる罠だった。

 しかしそれで終われば苦労はしない。


「来い、【真・聖剣ゲイルダスト】!」


 落とし穴の中が桃色に輝く。

 しかしあれは何故桃色に輝くのだろうか。心象が光となって表に出ているのなら山崎の頭はどれだけ桃色に染まっているのか謎である。


「ふふ、陸斗きゅんが俺を『穴』に入れるなんて。誘っているのかい?」

「死ねよ変態」


 ふざけた色と言動をしてもその実力はステータスの折り紙。

 桃色の輝きを全身に纏いながら飛び出して来る山崎の身体に傷一つ見られなかった。

 

 もっとも落とし穴に落とした程度で済むのならこの世界の誰かしらがこれらを止めていただろう。

 誰にも止められなかった勇者。倒すなら相応に力を出さなければ勝てないか。仕方ないと割り切って山崎の本格調理を開始する。ホント嫌だけど。

 俺は手元の包丁に『氣』を熱するイメージを込めながら纏わせた。


「【一刀調理・溶岩焼(マグマ・ウェイブ)】」


 まずは腐った肉を溶かし落とす。

 もう一度切った地面からはマグマが溢れ、津波となって山崎を襲い迫る。

 山崎にガードは、無かった。


「熱い、熱いよ陸斗きゅん!!君の俺への愛がビンビンに伝わって来るよ!!」

「……いや、これ本当にマグマだから熱くて当たり前なんだけど」


 全身にこれでもかとマグマを浴びる山崎はむしろ出したマグマを両手を広げて全てを受け止める覚悟で立っていた。

 普通にオカシイ。マイランの擬似太陽に劣るとは言え、マグマの温度は千度を超える。

 そんなマグマを全身に浴びて熱いと言葉を発せられる時点で普通からかなり逸脱していた。

 

「………【一刀調理・冷凍粉砕(コールドウェイブ)】」


 俺は続いて空間を斬って、水分を凝結させて出来た水を上から一気に山崎の全身に浴びせる。

 今の山崎は熱した油と同じだ。

 たとえ油が燃えていても対処として水を掛けるのはNGとされる。本来は濡れた布巾を鍋に被せると鎮火させるのがベストとされるその理由が高熱と冷水の温度差が生み出す―――爆発だ。



「ああああああああああああ~~~~っ!!!!」



 ぞわわわわわっ!!!と、全身に悪寒が駆け巡る。

 水が急激に気化した事で起きる水蒸気爆発を受けても喜色のある声を出せるのだから変態過ぎる。

 しかしこれで分かった。山崎はもう普通じゃない。


 始めから普通でなかったにしても今は物理的問題を全て無視するあの身体の異常をステータスの一言では片付けられなかった。


 きっとあれは『天災』の領域に一歩足を踏み入れている。

 完全ではないにしてもクラスの中で最も近い位置に立っているだろう。

 これを見る限り、皇の予想は当たっているとみて良いだろう。


 『この世界はとある輩の実験場、もしくは飼育場だろう』


 人工的な『天災』の育成。それがこの世界のゲーム的な存在であるステータスの正体であり、本質だった。

 もし皇が人の程度の低さに絶望しなければ、同じアプローチをしていたと。だから気付けた上にこのステータスの欠陥も見つけてしまった。


 『天災』を測る機能。それがステータスには欠けていた。


 ステータスを全ての者が持っている事から常に全ての値を観測するのは難しいだろう。

 故にステータスを持たない事が『天災』の証だと気付けなかった。

 もし気付けていたのならステータスが無い者に早々接触していた筈だ。


 もしかしたら接触していたのかも知れないが、レンのように自身の才に気付けず生涯を終えた者ばかりでステータスがゼロなのをシステムの不具合だと気付けなかったのか。

 

 とにかくステータスを作った者がこの世界にいる。

 そいつを引っ張り出すのにこの戦争は最適だった。ステータスを持たない者が持つ者を圧倒して蹂躙する。


 そうすれば気付くだろう。俺たちの存在を。

 それが戦争に参加した目的だ。一番弱い方に着いた方が存在を目立たせられるのもあってモルド帝国に協力している。

 俺としてはあれこれと迷惑を掛けていたし、王女とは知人なので助けて上げたかった気持ちがあった。


「とっても良かったよ陸斗きゅん」

「そのまま死んでろよ」


 それにこれもついでにどうにかしないと元の世界の恥部だ。放置するには恥ずかし過ぎた。


「攻められるのも悪くないけど次は俺が攻める番だ」

「そんな番は一生来ないから」


 クネクネ動く変態に心が折れそうになる。

 桃色に輝く剣と身体を用いて山崎は詠唱を始めた。


「俺の愛が無限。バージンロードを歩む未来をこの手に掴む!!【永久熱愛(エターナル・ラブ)】!!」


 これ職業間違えてるだろ。確か聖騎士だったと思うがもう愛の伝道師とかそんなんで良いと思う。

 【永久熱愛(エターナル・ラブ)】がどんな効果か分からないが、その効果は目に見える形で現れる。


「剣が槍になった…?」


 桃色に輝く槍は剣の時よりも更に輝きを増す。具体的には穂先がガンガンに輝いて直視するのも不可能だった。


「ふふふ、この【永久熱愛(エターナル・ラブ)】を一度投擲すれば対象が何処にいても追尾して逃さない。狙った穴に向かい続ける特性を持っているんだ」

「最悪な特性だな」


 この変態にホントピッタリな特性に辟易してしまう。

 つまりあれで攻撃されたら俺の尻がピンチと。冗談も大概にして欲しい。


「イクぞ陸斗きゅん!届け俺の想い!!【永久熱愛(エターナル・ラブ)(ソウル)】!!!」


 投擲された槍が尋常ではない速度でこちらに投擲された。

 あんな槍で突かれれば普通に死んでしまうだろう。世にも珍しい最悪の死に方で。

 こいつがどうして俺に執着するのかとか、どうしてそんな変態になってしまったのか聞いて見たかったがこれとは会話が成立しない。


「茶番は終わりにするか」


 そろそろ本気で行く。

 


「【最終調理・美味の向こう側(デザイア・ライン)】」



 今まで一振りしかしなかった包丁を空中に数回振るう。更に『界の裏側』から多数の調味料を撒く様に振りかけた。

 ガキンッ、と何かが拒まれる音がする。


「バカな!?俺の愛が!!?」


 それは尻に向かって放たれた変態の槍。

 空間そのものに阻まれたように弾かれた槍は効果を無くして地面に突き刺さる。


「一体どうして?!槍はどれだけ阻もうと何度だって襲う筈だ!!」

「槍が満足したからだろ。あまりの旨味に性欲なんて消し飛ぶくらいにな」


 ある意味俺と山崎は相性が良かった。

 食欲と性欲は共に三大欲求の一つである。人が空腹を紛らわせるのに眠ったりするのと同じで性欲と食欲は両立が難しい。

 

 槍の本質的力が性欲であるだけに俺の()()()()()()()()()()()()()()に触れて力を維持出来なくなったんだろう。

 

 今この空間は俺の支配下にある。その空間に入れば全ての攻撃は食欲が満たされた幸福感に満足して力を失う。それが【最終調理・美味の向こう側(デザイア・ライン)】。

 

「お、俺の愛がそんなのに…」


 今まで同じ方法でやって来ただけに絶対だと信じていたんだろう。

 変態は後ろに下がりたじろぐと目の前の現実を否定するように首を横に振る。

 そんな変態に近付きたくないが、近付かなければ調理が出来ない。俺は色々と諦めながら歩くと包丁を変態の上に掲げる。


「お前も人の尻を追っかけてないで偶には人間らしく理性的になれよ【一刀調理・精進至高(スピリタル・ヘブン)】」


 ただ振り下ろした包丁は変態を捌くも、血の一滴もではしなかった。

 しかし変態は性欲に飲まれた濁った瞳が澄んだ目に変わっており、膝を着いて仏のように心を穏やかにしていた。


「俺は一体何をしていたんだろうな…」 


 その内出家でもしそうな変態を無視して皆の所に戻るとするか。

 俺にアレを慰めたりする気はない。

 元はクラスメートだったとしても道は大きく逸れ、もう二度と交わらない人生を歩んでいる。

 

「殺さないだけマシだと思ってくれよ」


 これで誰かを襲いたくはなくなると思う。それだけ強力なアク抜きをしたし大丈夫だろう。

 さて、みんなの所に戻るとするか。

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