106話目 ハガクレとマイランVS狂人と痴女たち
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さて、こうなりましたか。
手を出さないとは思っていませんでしたが無粋なタイミングで襲って来たものです。
「不満そうですな」
「結局師匠の手を煩わせてしまいましたから」
「元々こうなる予定ではありませぬか。気にする必要もないでしょう」
「それはそれです」
ワガママと断じられても仕方ないでしょう。しかし私はそれでも一人で事を済ませられるなら済ませたいと思っていました。
「こんな輩たちの為に師匠が気を揉む必要が何処にあるのか。傲慢と不遜極まる者たちなど私たちだけで処理すべきでしょうに」
この者たちは一応師匠の同郷。そんな者たちとの命のやり取りは少なからず師匠の心に残るでしょう。
不必要な心配りだとは思いますが、万が一にも心に傷を負う事態は招きたくありませんでした。
「ではさっさと片付けしまいましょうかマイラン殿」
「ええ、まだ椅子も取り返せてしませんし」
目の前にいる三人の敵を見る。
二人は私が戦っていた痴女たちですが、後の一人はヒステリックで横幅のでかい少年ですか。
つくづく相手に恵まれませんね。狂人と変態を相手にしなければならないのですから運の悪いものです。
一人は魔法使い。椅子の所有者であり、魔法の実力は高い。
私が放った魔法を何度も掻き消したのを考えれば油断すれば足元を掬われる相手でしょうか。
もう一人が槍使い。椅子の所有者であり、槍捌きもかなりの者。
大剣による攻撃も致命傷も受けずに対処した実力は高いですね。
この二人に関しては性格を一切見ないで実力だけで判断すればギルドランクはSに相当するでしょう。性格が最悪なのでAに落ちますが。
昔の私であればこの二人を同時に相手して勝てる見込みは無かったでしょう。今はさしたる脅威に感じませんので問題ないですね。
あるとすれば手を出して来た三人目ですか。
ヒステリックな小太りの男はとても珍しい【転移】の使い手。単体であれば余裕で対処出来る程度の実力でしかありませんが協力されると厄介になるでしょう。
ですがこちらも一人ではありません。
ハガクレ様がおられますし、先も【転移】を対処されていたので気にする必要もないでしょう。
「では、消化試合と行きますか」
私は大剣に魔法を付与します。
「人をなめんじゃねぇぞ!寸胴エルフが!!」
寸胴?ああ、ミネリアですか。成長の見られない胸ではそう言われても仕方ありませんね。
後ろを向けば何故かカタカタと震えながら顔を横に振るミネリアの姿が。何を怯えているのでしょうか。
「無視すんじゃねぇぞ!大剣持ちの寸胴エルフ!!後ろにいる爆乳エルフの半分もないてめぇに言ってんだ!!」
すぅ、……………………ふぅ~。
………落ち着きましょう。感情のままに暴れるのはいい大人のする事ではありませんええ私は落ち着いています問題ありませんクールです私は今とてもクールです冷え切っています魔法で出す氷山よりもクールな私があの程度の罵詈雑言を受け流せない筈がありませんそう私は至って冷静です。
「マ、マイラン?」
「ふぇぇ、マイランが壊れたよぉ」
「………落ち着いている者は口からあのように本音が漏れないと思いますな」
そもそも私はエルフの平均サイズは超えています近年ではどこぞの魔力タンクがその平均をガンガンに上げまくるせいで平均以下になっていますがあれはノーカンです本来のエルフの枠組みに入りませんあれは珍獣でエルフではなくエロフであり新しい種族なので個体が違うのですつまり別枠ですそう私は至って普通のエルフなのです師匠だって私の身体で癒されていますしこの身体で問題ありませんマルアのように爆乳であればそれはエルフではないです問題ありません。
「乳が恋しいならオーク(メス)の乳でも揉んでいなさい。バブミたい赤子が」
「てめぇはバストアップ体操でもしやがれ。パットが透けて見えんぞ」
…………………………。
「「アッハッハッハッハッハッハハハハハハハハ」」
よし。
「「殺す!!」」
殺りましょうか。
大剣には既に【雷】を付与していますので後は切るだけで十分。どんな守りを打つ崩す威力を持っています。
「【転移】!」
しかしあれは消えますね。
視界からいなくなった赤子はどこから出るのやら。
「私たちも忘れて貰ったら困るわ!!」
「そうよ!【ウォーター・ウィップ】!!」
槍が空に線を引く勢いで迫ります。それと同時に襲う魔法は水の魔法のよる捕縛狙い。中々良い選択ですね。
「しかし相手が悪い。【アクア・ゼロ】」
水の魔法に対して水分を奪う魔法を発動して水を霧散させます。と、同時に正面から迫った槍は大剣の先で受け止める。
「きゃぁああっ!!」
大剣には【雷】を付与しているのですから当然の結果です。感電によるダメージで悲鳴を上げていますが、本来なら心臓麻痺の一つもしておかしくない電圧なんですけどね。無駄に丈夫です。
槍と大剣が触れ合い激しくスパークを起こし目の前が白く染まりました。
「隙ありだ!!」
いつの間にか背後に回っていた赤子が私の背中を短剣で刺そうとします。
「私がいるのをお忘れでですかな?」
「ぐぉっ、このジジィがぁ!!」
手出しなど不要でしたが、ハガクレ様が赤子を投げ飛ばします。やはり竜人種であるハガクレ様は気配察知が優れていますね。
投げ飛ばされた赤子は器用に空中で立て直すと、膝を着いて着地しこちらを睨みます。
その目はまるで卑怯者がと言わんばかりですが人数的には二対三。こちらの方が数は少ないですし、そもそも人の背中から刺そうとした者のする目ではありませんね。
あの【転移】の使い方は暗殺者の分野になりますが、とても性格的に向いていませんね。
自分を誇示し、強い力を見せつけたいとする顕示欲はこちらが仮に隙が出来たとしても生かせずに終わります。
「ふっ」
「何笑ってやがる!!」
「あまりに矮小なので思わず」
これは笑わずにいられませんね。
優れた能力を見せびらかしたいだけに声を出して攻撃して来る三流さと、本物の赤子と同じように喚き散らす精神の未熟さ。
器があまりに小さい。同じ異世界の者でもこれだけ差があるのかと不思議でなりません。
いえ、師匠と比べるのが酷なのでしょう。
あれだけ完成された者はそうそうおりません。
力を得ても驕らない気高さを誰もが持てと言う方が無理難題なのでしょうね。
普通は目の前の少年少女たちのようになる。
足が速くなったのを自慢する子供のように空っぽであらゆる経験を持たない者が辿る末路は必然でしたか。
「その【転移】には極めて単純な弱点がありますね」
折角なので解説をして上げましょう。これで心が折れるなら良し。折れないなら折れるまで潰してしまえばいい。
「ふざけた事ぬかすんじゃねぇ!!俺の【転移】は最強だ!!」
怒り狂った姿は何時ぞやの壁にへばり付いていたスパイダー・モンキーのようですね。
「まず【転移】でのタイムラグ。これが致命的でしょう。目の前から消えれば必ず何処かから出て攻撃しますよ、と合図を出しているようなものです」
これが片腕だけ【転移】して戻るのであれば最強と言えなくないのですが、それでも攻撃力の低さは勇者の中では随一でしょう。
ある程度はステータスに助けられていますので、この世界の一般人であればあの程度の【転移】でも十分でしょう。
しかし一般の枠から抜けている私たちに効く筈もありません。
「そもそも【転移】は攻撃スキルではありませんから別のスキルを使えば良いのでは?ただ攻撃の様子からして持って無さそうですが」
横に広がった腹が鍛練などしていないと物語っています。
そんなものがまともにレベルも上げているとは思えません。
弱者としか戦っていない。まともな戦闘をした事のない者ではワンパターンになってしまうのも仕方ない
のでしょうね。
「ついでにその【転移】では空間が歪み、空気の流れが変わるのが分かりますのでその対策をされない限りはノックして入って来るのと変わりませんよ」
先制出来るアドバンテージも無駄に終わります。
「そのような訳で最強を語るならもっと技を磨きなさい。この赤子が」
ふむ、言いたい事は言えたので多少スッキリしました。
「てめぇ…」
「おや、何か?」
赤子は狂気を彩らせたその瞳で今までで一番強く睨み付けて来ました。
「ぶっ殺す!!」
懲りずに行う【転移】はそれ以外に本当に能がないのでしょう。
あの手は剣を碌に握ってもいない。魔法も使わないのはその練度が低いから。スキルに頼り過ぎた結果、中途半端な強さを持つようになってしまった。
哀れですね。これが一対一であればものの数秒で決着は着いていた。
二対三の数の有利があってどうにか食らい付いて来れるなど即行で引導を渡してしまった方が良いでしょう。
「ハガクレ様、少しばかり槍使いと魔法使いを相手出来ますか」
「何かやられるのですかな?では請負いましょう」
理解が早くて助かりますね。ハガクレ様はこちらに向かっていた槍使いと相対します。
ハガクレ様が前に出ている間に私は魔力を急速に消費して練り上げて行く。
「貴方たちは早く魔力を寄越しなさい。気が利きませんね」
「「いやいやいや」」
ミネリアとマルアは何故か拒絶の意思を示しますが問答無用で搾取します。
「これ以上持ってかれると倒れるんですけど?!あ、もう無理…」
「そうですよぉ!マイランは加減して欲しいですぅ……」
ああ、魔力の貯蔵が殆ど空なんですね。でも問題ありません。まだ搾れるのは分かっていますので。
躊躇なく吸い上げた魔力で組み上げる魔法で三人まとめて倒します。
搾りカスとなったミネリアとマルアがその場に倒れますが寧ろ好都合。【転移】で攻撃を仕掛ける相手に対処しやすくなりますね。
魔力を緻密に操作して作り上げる魔法は防御も回避も許さない。ただ受けるのが絶対である。
これをやって以降私のステータスが消えてなくなりました。限界まで鍛えたと思っていてもまだスタートラインにさえ立てていなかった事実に驚かされたものです。
「死ねぇ!!」
「魔法を組んでる間は動けないとでも思っているのですか?」
しかも先と同じように背中から刺そうなど本当にパターンでしか動けないのですね。
ただ先と違うのは攻撃して直ぐに【転移】で逃げている所でしょうか。もしも昔の私であれば捕捉出来ずに持久戦になるか、それとも逃がしてしまうかの二択だったでしょう。
「さて、準備も出来ましたね。ハガクレ様もう大丈夫ですよ」
槍を捌きつつ拳で魔法を消す胆力には御見それしますが年をそろそろ考えて頂きたいものですね。竜人種は死ぬまで現役と前に言っておられましたが冗談ではなさそうです。
「お早いですな。熟練度をまた上げておられたのですかな?」
「こっち無視してんじゃないわよジジィ!」
「いい加減倒れなさい!!」
二人からの同時攻撃をハガクレ様はひらりと躱して私の後ろに戻って来ます。
「ではお願い致します」
さてお披露目ですね。『魔剣の天災』と名付けて頂いたこの力を放ちましょう。
「あらゆる因果さえ切る魔剣の前に立つ術はないと知りなさい」
大剣に付与した魔法によって元々黒かった剣が光さえ飲み込むように更に黒く染まる。
とぷん、と重油の粘りに似た何かを纏いながら振り上げた大剣の圧力に私自身も屈しそうになりながら構えた。
「くそっ、【ファイヤーボール】!!」
「【ダークレーザー】!!」
「【鎗装局】!!」
何が起きるか分からないがヤバいと感じた勇者たちが思い思いの技を繰り出すも、もはや無意味です。
「「「なっ!?」」」
大剣から発せられる余波だけで魔法を潰しスキルを凌駕します。
「俺は逃げる!!【転…」
それに慌てた赤子が一人だけ逃げようとしますがそれさえ無意味。何故なら私は既に捕捉しているのですから。
「では二度と顔を合わせる事がないのを祈っています。【マキシマム・シュレディング・レイン】」
それは黒い雨。大剣から発せられた黒い水が重力を無視して天に昇り、自由落下に身を任せて降りて来ます。
その隙にと赤子は【転移】で別の空間に逃げ切るも、空間一つ隔てた程度で防げるものではありません。
ですが、まずは痴女二人から潰しますか。
「美っちゃん!!」
「分かってる!【究極・槍大防御典】!!」
「大いなる鉄壁の守りを…【シャイニング・プロテクト】!!」
槍を頭上で振り回したと思えば二人の周りに結界が張られます。そして重ねられるように光の渦が周囲を取り囲みました。
とても頑丈そうですね。主にドラゴンに踏まれても壊れなさそうな良い結界です。
更に黒い水の見た目から闇の魔法攻撃だと判断して光属性の防御結界で覆うなど本当に真面目に働けばSランクになれたでしょうに。
「しかしまだ甘い」
「「え?きゃぁぁあああ!!」」
ドラゴン程度を防げても『天災』の一撃を耐えるには物足りませんね。
結界など初めから無かった様に襲い掛かる黒い水は二人を飲み込んでから別の空間に消えた赤子を追い始めます。
ベキリ、と赤子が【転移】で消えた空間を強引に割りながら入り込む。
「は?何だこれは?!うわぁあああああっ!!!」
そして一人安全な場所に逃げ込んで油断していた赤子を引っ張り出すと三人をまとめて転がしました。
見た目傷一つない三人。しかし変化は劇的に起きているのです。
「くそっ!一体どうなってやがんだ!!【転移】で逃げたって言うのによ!!」
「でも何も変わって無くない?失敗したんじゃ…」
「あれ?嘘、何で…」
カラン、と落とした槍を拾い上げようとした痴女はその槍が重くなってしまったように持ち上げられなくなっていました。
「や、槍が持てない!?」
「え?!私も魔力を感じないんだけど?!」
続いてもう一人も自由自在に操れていた魔法どころか魔力の欠片も感じられなくなったようで焦り始めます。
「俺は逃げるぞ!もう付き合ってられるか!!【転移】!!………?【転移】!!」
赤子は壊れた玩具のように繰り返しスキルを叫ぶもその場に留まったままです。
「【転移】!【転移】!【転移】!!っくそ、どうなってんだぁあああああああ!!!」
さて良い感じに混乱した所でネタばらしと行きますか。
「何を焦っているのですか?貴方たちをこの世界に来る前の状態に戻して上げただけだと言うのに」
「「「っ!?」」」
この大剣に因果を斬る力を付与し、勇者である今の自分を断ち切って上げました。言い換えればこの世界に来た事で与えられた勇者の力を無かった事にしました。本来は結ばれる筈のない因果ですから思っていたよりも労力が少なくて済みましたね。
力を失った事でいち早く反応したのは赤子でした。
「か、返せ!返せよ俺の力を!!」
赤子ですからね。喚き散らすのが目に見えていました。
「では貴方が奪ったこれまでの命を元に戻せますか?これはそうしたものです」
まあ因果を斬れても既に起こった事までの修正は無理ですね。
彼らが奪った多くの命は帰って来ません。しかしそれもまた仕方ない事。こうして彼らは罰を受けた。今後彼らは普通に生活するのさえ難儀いたします。昔のレンやノドカと同じになるのですから。
「あ…、ああ…、ああああああああああああああああああ!!!」
力に溺れた者には良い罰です。
ステータスも無くなった三人で仲良く頑張られるのを期待します。
「マイラン殿、彼らを回収しましたが如何いたしますか?」
斬った因果は他にもあります。
ハガクレ様は私がやる事を想定し、既にルデルフとパルサの二人を迎えていました。
彼らはもう奴隷ではありません。そうした契約もまた切り裂いたのですから無くなって当然ですね。
「そこら辺に捨てといて下さい」
「「ひでぇなマイラン!!」」
首から奴隷証の消えた二人は元気なものです。もう少しばかり奴隷としていた方が良かった気もいたしますね。
とにかくこちらとしての目的は果たしました。これで終わりと思っていますと痴女二人がまだやる気なのかこちらに近付いて来ます。
その手に武器はない。目に浮かぶ悲壮感からそれはないと分かりました。
「ね、ねえパルサ。私たちやり直さない?」
「そうよルデルフ。私貴方がいないと…」
力を失い、奴隷も失った痴女二人が元椅子だった二人に懇願いたします。
「俺たちは椅子じゃねぇ。もう家具は止めたんだよ」
「そうだ。他をあたってくれ」
下着一枚で格好着けてますがこの男たちは先まで椅子でいて喜んでいましたよね?
「「今度は私たちが奉仕しますからご主人様」」
「「え、マジで?」」
………やはり燃やしますか。この粗大ゴミは。
「取り敢えず彼らは放って置きますかな。これで一応皇殿の思惑通りに運んでいるのですから良いではありませんか」
「そうですね」
私たちの本来の目的はこの勇者たちではない。
むせび泣く赤子と媚を売る痴女二人はもはや眼中にありませんので師匠たちへ合流するとしますか。
しかしスランプ。文字数の収まりも悪いし、筆が進まない。
もうそろそろ終わらせるし新作でも考えようかなー。