閑話 裏切りの理由と救助
「加賀氏たちには陽動をお願いしたいでひゅよ」
俺たちが戦場に向かう前、田中は割と図々しいお願いをして来た。
正直俺は青山と田中に興味がない。そもそも前回王女様たちを放って戦いに行った時も密かに二人には隠し包丁を入れていたので王女様に危害を加えようとしていれば死んでいた。ただそれだけなのだから。
最も悪意は感じなかった上に煮ても焼いても食えなさそうな徳田みたいな悪臭を放っていなかったので問題はないと放置していた。
何のための陽動であれ、そもそもアビガラス王国を潰すのは決定事項。だが一応話は聞く。
「陽動の理由でひゅが、まず王女はどうして周辺諸国が裏切ったか分かるでひゅか?」
「……貴方方が現れたので概ね見当は付きました。人質でしょうか」
「正解でひゅ」
なんでも徳田の【転移】によって各国の王女や王子、更には王妃や国を担う重要人物まで捕らえられてしまったそうな。
国を国とも思わない犯罪行為であるが、所詮は小国。従わざる得なかった。
彼らを見捨てモルド帝国と一丸となり報復するも手であったが、自分の国だけでなくモルド帝国を除いた国全てとあっては足並みを揃えるしかない。
「まあ某たちが人質を救出しておくでござる。派手に動いてくれればその分救出しやすいでござるよ」
「拙者たちにも秘密にしている移動手段があるでひゅから。これを機にリルたんたちを避難させるでひゅよ」
どの道暴れるのは決まっている。
田中たちが勝手に救う分には好きにすればいい。
「では、決定ですね」
王女様がこの場を締めると各自が好きなように行動を開始した。
・・・
某たちは早速救助のために行動を開始した。
某のスキルである【影走】は芽士亜殿の【転移】のように一瞬で目的地に着ける能力ではないでござるが障害物を無くして距離を縮める上に影の中にある程度留まっていられる隠密行動に優れたスキルでござる。
このスキルを知られれば間違いなく芽士亜殿のようにより強力な洗脳が始まるでござるよ。
何せ芽士亜殿は元々暗い性格で他者との関りを持つタイプではござらんかった。
しかし洗脳によって本性が開花して生粋のサディストになってアビガラス王国の利の為ならどんな非道であっても嬉々としてやったでござる。
「うーん。この光景は加賀氏たちには見せられないでひゅね」
「そうでござるな」
某たちは小国の重要人物たちの監禁されたアビガラス王国の地下牢獄にやって来ているでござる。
はっきり言って地獄でござるな。
ある王女は望まぬ妊娠をさせられ呆然と虚空を眺めている。
ある王子は手足をそぎ落とされるも碌な治療がなされておらず壊死しかけている。
ある王妃は壊れた娘を抱き締めて壊れた笑みを浮かべながら泣いている。
そんな状態で同じ牢屋にまとめて入れられているでござるから始末が悪いでござるよ。中には快楽で自分を誤魔化そうと理性を無くしてる者もいて互いに貪っているでござるし。
これで戦争が終われば返す、なんてしないでござるね。間違いなく生かす気が無いでござる。もし返すとしてもこのまま壊れたまま返して反応を楽しむつもりでござるな。
「はぁ、芽士亜氏には困ったものでひゅよ。やったのは芽士亜氏だけじゃなさそうでひゅが」
王子、王女だからと言って全員がイケメン美少女じゃないでござる。それでもそうした権力者というオプションを好む者もいるでござるからな。
いわゆるカーストの問題でござる。
社会である以上、それも元の世界なら中世の価値観であるからこそ上下関係がはっきり分かれているでござる。
そしてこの牢屋に閉じ込められているのは間違いなくこの世界でカースト上位の者たち。三角形で行けば天辺にいる者たちでござるな。
そんな者たちを引き摺り落としてその反応を楽しむのは元の世界でカーストが低かった者たち。
プライドが高くても自分を変える気の無い者たちがやったのでござるな。もしくは隠していたコンプレックスが爆発した者たちの仕業でござるよ。
あー、こっちの子なんて顔がズタズタでござるし。しかもわざと傷痕の残る治療をして元に戻らない様にしているでござる。
「放置していた某が言える台詞でないでござるが酷い事をするものでござるよ」
「まったくでひゅな。それで同士。気絶させて運搬するのが手っ取り早いと思うでひゅがどうでひゅか?」
「それが良いでござる」
暴れられても運搬に問題があるでござるし、敵だった者が牢屋を開けて救出なんて罠だと思うでござろね。
なら一々説明するよりも眠らせた方が簡単に事が済むでござる。
「そんな訳で取り出したる眠り薬でござる」
「流石同士。準備万端でひゅな」
薬を炙って煙にすると風に乗せて牢屋内に広げる。少しでも痛みを緩和出来ればとするのは偽善でござるかね?
偽善でも結構でござるよ。元々自分たちが仕出かした失敗にござるし。
「異世界に来て浮かれていたでござるな」
「そうでひゅね。拙者たちが主人公になったと思い込んでいたでひゅし。特別な力に酔っていたでひゅよ」
「そうでなければ洗脳なんてそもそも掛かっていないでござるからな」
某の予想でござるが加賀氏たちが洗脳を受け付けなかったのは元から特別だったからだと思うでござる。
なんせ某たちは初めて包丁を持った子供のように浮かれていたでござる。元の世界ではけして味わえない特別な力。それは言い換えれば借り物の力にござった。
なのにさも自分の力だと誇示し、浅はかにも悪意として世界に振り撒いた。
洗脳されていたと、欲望に支配されていたと自身に言い訳を並べ立てたとしても反省しかないでござる。
某たちは運が良い。まだこうして罪を償う機会が与えられているでござるから。
洗脳を解く切っ掛けとなったのはやっぱりノンたんたちにござった。
彼女たちを大切にしたいと思えば思う程に某は自然と今やっている行いが間違いなんじゃないかと気付けたのでござる。
すると洗脳も薄くなりレベルによる強化もあったからか完全に弾く事が出来たでござる。もっともそれは後の祭りでござったが。
これが異世界転移なのかと。こんなにも夢がないのかと酷くガッカリしたでござる。
そしれそれは同士も同じでござった。
都合の良い夢を見ていた反動は大きく、しばらく憔悴していたのが現実でござる。そんな同士だからこそ洗脳が解けたと分かり、協力体制を取ったでござるよ。
「取り合えずこの者たちはあの砦に持って行ってから治療するのが一番でござるかな?」
「このままはあまりに酷いでひゅしね。それにリルたんたちも早く安全な場所に連れて行きたいでひゅよ」
「そうでござるな」
悲しいのは他のクラスメートたちでござるね。彼らはまるで洗脳が解ける気配がなかったでござる。
見事に欲に溺れ、より強固な洗脳をされて殆ど本能で動いている様でござるよ。
同郷のよしみで助けて上げたかったでござるが、洗脳が解けたとしてももう自分の意思を大きく捻じ曲げられて固定されてしまっているでござるしもう無理でござろうな。
出来るとすれば介錯でござるが、それは『災厄の集い』に任せるでござるよ。
「さて薬も効いて来たでござるし運ぶでござるよ」
「さっさと済ませてしまうでひゅよ」
あ、そう言えばモルド帝国の騎士団はここに捕まってないでござるね。あまり良い予感がしないでござるが加賀氏が何とか対処してくれるでござるな。
作者「ござるござると面倒なキャラだなー。次はないな」
青「ひ、酷いでござるよ!!」
田「同士を蔑ろにするのは良くないでひゅよ!!」
作者「うん、お前もな」
青、田「「がーんでござる(でひゅ)」」
そんな訳で読みにくかったと思います。申し訳ないです('◇')ゞ