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101話目 全員集合

「………お前らは何してるんだ?」

「「土下座でひゅ(ござる)」」


 まだまだ喰い終わるのに時間が掛かるので戻って来た俺を待っていたのは田中と青山の土下座だった。

 ご丁寧に己の武器、青山はクナイを田中は派手なナイフを前に置いた綺麗な謝罪の籠った土下座である。

 二人の土下座は非常に綺麗な土下座であり、日常的にやっていたんじゃないかと思わせるくらい彫像にして飾れるレベルの土下座だった。

 俺は困惑するしかない。どうしろと?


「えー、この度は申し訳ないことをしたでひゅよ」

「異世界召喚で操られているのも気付かずに加賀殿を虐めていたのを正式に謝罪するでござる」


 変なものを見せてしまったからか。【一刀調理・(カニバリズム)()(クッキング)】は俺の持ってる調理方の中でもかなり残酷だからな。


「別に気にしてないから良い。そもそも興味もないし。たださ…」


 元クラスメートたちが死のうが生きようが邪魔さえしなければ気にはしない。

 確かにこの世界に来て散々やられたのは認識しているし覚えているが、復讐を考えるものでもなかったし、洗脳されていたのは知っている。目くじらを立てるものでもなかった。


「奴隷とか作り過ぎだろ?」


 問題があるとすればこっちだ。

 日本の倫理観を綺麗に忘れ去った行動をしていたこいつらは誰に恨まれて刺されるか分かったものではない。

 それならいっそのこと引導を渡してしまった方が良い気もするがどう考えているのか。


「そっちはアビガラス王国の命令でひゅ。アビガラス王国に属さない、特に他国との関りが薄い地域の者を奴隷にするよう命令されていたでひゅ」

「操られてた時はレベルアップも視野に入れていたでござるから気にもならなかったでござるよ」

「なるほど」


 やり方は分からなくはない。何処にも属さないのなら切って捨てるか有効利用に奴隷にしてしまうのが良い。世界を全て手中に収めようとするなら属さない者たちはそうした方が手っ取り早いのだろう。

 勇者の成長と侵略を一度に行えるならそれに越したことはない。

 

 襲われた場所がどうなったか知らないが、アビガラス王国の住人がそこを拠点としているだろう。

 少しづつ広げられる領土は大陸を飲み込むための準備か。


「それで王女様たちは何処だ?」


 この二人と一緒にいると思ったんだが。


「ああ、精神と教育に悪そうな光景だから下で待機させているでひゅよ」

「加賀殿のあの攻撃方法は色々見慣れている某たちでも辛いものがあるでござる」


 二人が顔を上げると染々とした表情で戦場を見つめた。

 そこはまだ「うめぇ」だの「よこせ」だの絶賛食事の真っ最中であり、やり過ぎた感がある。

 

 しかし多対一での戦闘であれば勝手に自滅してくれる【一刀調理・喰人祭】は非常に有効だ。

 現に俺がもう何もしなくても仲間同士で食い合って数を減らしている。見た感じだと一時間もしない内に全滅するかな。


「取り合えず倒せるし良いだろ」

「狂戦士となって暴れてくれた方がマシでござるよ」

「あれは人の領域じゃないでひゅ」


 俺は『天災』だから何も問題ないな。と思えば急に天から影が射した。


「何を戯れているか知らんがこっちは終わりか陸人」

「皇か」


 空を飛んで来た皇が俺の真横に降りて来る。


「他はどうした?」

「直に来る。私が最初だっただけだ。ほれ来たぞ」


 上を指し示した皇に俺も顔を上げれば天華が上から降って来るのが分かった。


「親方!空から女の子が、でござるよ!」

「誰が親方だ」

「うぇーい、こっちは終わったよー」

「うっぷ」


 降って来たと同時に首に絡まって来た天華は胸を押し付けながら着地する。

 最近はスキンシップが過激なので自重して欲しいのだが聞いてはくれない。


「こちらも終わりました」

「………マイラン。あんた空間転移の魔法って、もうバグってるわよ」

「………しかもご丁寧に私たちは魔力タンク扱いですよぉ」

「主、特に問題なく制圧完了しました」

「お疲れ様」


 疲れ切った顔をしたマルアさんとミネリアさんを引き連れてマイランとノドカが何処からともなく現れる。


「師匠は一人で魔法も使わずに可能です。私は奴隷たち(バッテリー)が無ければここまでの長距離は難しいですね」

「人を便利グッズみたいに扱わないで」

「元々貴様らはそう言う契約だ。諦めろ」

「んじゃあ、最後はレンちゃんだけど…」


 そこで強烈な風切り音が響き渡る。


「あ、来たな」

「おお、零戦とは渋いでひゅね」


 俺は詳しく知らないからあれだが、ぶっちゃけ飛行機だな。

 二人乗りの飛行機で飛んで来たレンは飛行機の勢いはそのままに飛び降りるとパラシュートを開く。ハガクレさんはそのまま飛び降りて着地した。

 

「容赦ないでござるな」


 落ちる飛行機はそのままお互いを食べ合っている敵兵たちの真上に落下し爆発炎上。燃え上がる炎と共にレンとハガクレさんは到着を果たした。


「…遅れた」

「私たちが最後ですかな?」


 惨状を作った、いや惨状は俺が作ったから止めを刺したと言うべきか。戦場で起きた事など気にも留めないでレンは淡々とパラシュートを外す。


「ふむ、全員集合したな」


 戦場は綺麗な焼け野原となり、一掃出来て清々しくもある。

 ある意味俺たちに相応しい光景だった。


「ところでこいつらは何でいるんだ陸斗。潰すか?」

「「何処をでひゅか(ござるか)!?」」

「全てに決まっているだろうがこのマヌケめ」


 敵に容赦のない皇が珍しく見た瞬間に攻撃していないだけマシだと思うがな。

 ただこのまま説明しないでいると文字通りぺしゃんこにされてしまいそうなので簡易的に説明する。


「洗脳が解けて会心したんだと。馬車馬のようにこき使って下さいだって」

「そこまで言ってないでひゅよ!?」

「加賀殿それは酷いでござるよ!?」


 違ったか?そんな感じだったと思うが。

 

「まあ良いじゃん。敵でも味方でも裏切ったら全身砕けば良いんだし」

「ふん、それもそうだな」


 あっさりと二人に興味を無くした皇は本題に入る。

 

「では王女に会いに行くとするか」




 ・・・




「まさかここまで瞬く間に終わらせてしまうとは思ってもいませんでした」


 王女様は死んだ目をしながら笑みを浮かべていた。

 それもそうだろう。俺たちは王女様が死に物狂いで解決しようとした問題の殆どを鼻歌混じりで解決してしまった。


「さしたる労力でも無かったからだ。気にする必要はあるまい」


 俺が王女様とその兵たちを救出し、迫る敵を撃破した。

 皇は進行して来るアビガラス王国の敵兵を殲滅した。

 天華は第三騎士団を救出し、モルド帝国の王城を防衛した。

 レン、ノドカ、マイランは国境付近を占拠していた小国たちの兵を殲滅した。


 これを頭数だけで言えば九人、実際に動いたのは六人で国を相手に無傷でモルド帝国を取り戻したのだ。

 普通ではない。それも準備運動程度の労力でやり切ったのだ。王女様の目が死ぬのも頷ける。

 しかしそれでも問題はまだ残っている。


「第一騎士団と第二騎士団はご存知ではないのですか?」

「ボクは見てないよ?助けて上げたのは第三騎士団だったし」


 どうなったのか分からないのが第一騎士団と第二騎士団だ。

 彼らもこの現状をどうにかするべく奮闘していたようだが、その行方は不明。敵に捕らえられているか、もしくは既に殺されてしまっているか。

 もし元クラスメートが第一騎士団と第二騎士団を見つけていれば実に()()なんだが。


「田中は他の勇者が第一騎士団や第二騎士団を見つけてたらどうすると思う?」


 俺が幸運だと思う理由。それは日本人として特有の感覚があった。


「当然捕えているでひゅね。スキルを駆使すれば余裕でひゅし、何より捕まえずに殺すのは()()()()と思うでひゅよ?」

「イケメンであれば尚の事でござる。女子たちの家具になっているでござるな」


 疲労した騎士たちであれば捕えるのは余裕だろう。それにモルド帝国に対して更なる嫌がらせの道具が手に入るのだ。捕えない手はない。

 これが逆に一般の兵であれば捕まえるなどの余裕は持てず、殺しているか逆に殺されているかのどちらかだ。

 精神的に余裕で、戦力的にも体調的にも万全な元クラスメートの連中なら捕えて有効利用する。何故なら田中の言った通り勿体無いから。

 レベルも十分に上がっている今、一々殺す理由もないのだ。


「つまりまだ生きている可能性があると思って良いのですね?」

「殺してもレベルなんてそうそう上がらないでござるしな」

「あー、でも山崎氏に捕まってないと良いでひゅね。確実にヤラレるでひゅし」


 別の意味で危険はあるが命に別状がなければ問題はない。


「早く救出しに行かなければ!」

「落ち着きなさいルミナス。心配なのは分かりますが」

「想い人が『っく、ころ』してると思えば焦りますよね」

「うるさい黙れ」


 メイドのネイシャがニヤニヤしながら口元に手を当てていた。


「ネイシャは何故陸斗様の後ろにいるのですか?貴女は私のメイドでしょう」

「今までお世話になりました」

「退職する気ですか貴女は」


 しかも再就職先が俺かい。要らないから不採用でいいですかね。

 

「王女様の持ってるクッキーは有限ですから。それなら製作者に仕えるのが正しい行動です」

「正しくないんで王女様の所に戻って下さい」

「嫌ですよ。折角出会えたのに。あれだけ蹂躙されて弄ばれた私が元の生活に戻れるわけないじゃないですか」

「言い方に悪意しかないな、おい」


 しかも蹂躙したのは皇であって俺じゃない。

 嫌になるだけの不味いクッキーを食わせ、文字通り虜にするクッキーを食わせたのは皇と王女様。

 あくまでも俺は作っただけでその後どうなるかなど知ったことじゃないのだ。


 しかしこの後ろで背後霊よろしくピタリと張り付くメイドに理屈は通じない。あるのはただ食欲。このメイドの胃袋を掴んでしまった時点でこうなる事は決定していたのだ。


 さてどう処分するべきかと検討をしていると予想外な所から横槍が入る。


「別に構わんだろ。エルフにじじぃにエロフが増えたんだ。メイドが一人増えた所で何も変わらん」

「あのぅ、私の種族はちゃんとエルフなんですけどぉ……」


 なるほど、確かにそうか、って変わる。俺の負担が増えるだけで十分変わるわ。

 毎食作る量が増えると手間のかかる料理はしにくくなるし、女性ばかり増えて俺の心が休まらなくなるから。


「まあ良いじゃん。その話は後でするとしてさっさと戦いに行こうよ」


 天華はもう待つ気がないようだ。

 モルド帝国を取り戻した今、次に襲うべきは当然アビガラス王国。大国に今まで好き勝手やった落とし前を付けて貰うとしますかね。


「それじゃあ行くか」

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