98話目 一方的な戦争Ⅱ
???side
「もうダメだぁぁああーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
絶叫する私は誰でしょうか。ええ、誰の記憶にも残らないようなモルド帝国の大臣をやっております。
姫様のお転婆に付き合い早何年と経ちますが、今はもうそれが走馬灯のように私の頭を巡っているのです。
兵はほぼ全滅。だと言うのに迫る他国の兵たちの猛攻は止まらない。
色々とやり繰りして誤魔化して来ましたが無理。もう無理。
このモルド帝国の王城に姫様がいないのが唯一の救いか。私程度の者は何人でもいるが姫様の代わりを務められる者は誰一人としていない。
だから姫様さえ生きていれば何とかなる。
それでもこの国を維持したかった。私がどれほど心血を注いで守って来たかと思うと涙も溢れる始末。
「兵の半分が寝返り、もう半分は重傷ないし現場復帰は困難。これではもう何も守れませんぞ!!」
四方八方から飛び交う伝令に指示を出し続けるも後数刻もしない内にこの城は落ちてしまう。
絶望的な状況下に外聞も気にせず頭を抱えて丸くなる。そんな私に一つの朗報が直接耳に入った。
『警告する。我々『災厄の集い』は現時刻を持ってアビガラス王国ならび、その属国に敵対する。戦争など愚かしいと考えるだけの知能がある者よ。早急に逃げる事をお勧めしよう。この放送より十分後行動を開始する。一応国際常識に基づいての避難勧告だ。十分に留意したまえ』
こ、この声は!?
バッ、と顔を上げて目を白黒させる私は姫様が無茶をやらかした時に出会ったお方の声。常人とは逸脱した頭脳と能力を持った正に『天災』と言えるお方。
その者が今、アビガラス王国とアビガラス王国に準ずる国に敵対すると言った。それはつまりモルド帝国の味方と捉えて間違いないのではないか?
「おおおおおおおおおおッ!!!」
ありがとう神様!私の毛根は死滅した時は無視されていましたが今になって救いを齎してくれるだなんて……。
「ね、寝ている場合じゃありませんぞ!!」
「うわー、意外と元気だねオジサン」
「っ!?」
振り向けば私の後ろにはいつの間にか私の娘並みに幼い少女、武内様が立っておられた。
「ふおおおおおおおッ!!?」
「耳が痛いなー。これだけ元気なら救援は要らなかった?」
「い、いいい要りますぞ!物凄く必要でした!!お願い致します!!この国をお救い下さい!!」
私は誠心誠意頭を下げた。
自分の娘と同年代の者に頭を下げる。本来では有り得ない行為でありますが、この方はそんな常識の枠組みには入らない。
「オッケー。ここに来る前に第三騎士団ちゃんたちも助けといたからこき使うなら使っちゃってねー」
「なんと!?」
今ここには第三騎士団もおられるのか!私は武内様が女神に見えて来ました。
騎士団は王を守るためにある以上、全ての騎士がいなくなるのは仕方なかった。
しかしそのせいで国は限りなく手薄となり、防戦するにも徐々に後退を強いられ、最終的にこの王城まで下がる羽目になった。
第二騎士団ほど数は多くいなくとも一騎当千の乙女たちなら城を守れるでしょう!
「あ、ボクは適当に潰して来るからゆっくり待っててよ」
「分かりました」
武内様は立つべき戦場へと赴かれた。
私は武内様が快適に敵を倒せるよう物資の手配を行うのでした。
・・・
天華side
「な、なんだお前は?!」
「どこから来た!!」
「え、見て分かんない?空からだよ?」
いやー、かなり必死だったなあのオジサン。まあ、かなり追い詰められてたからねー。
ボクは今、モルド帝国の城壁から先にある開けた土地に立っていた。そこは敵軍の陣地の真後ろで、今から攻撃すれば余裕で倒せてしまう。
城から飛んで来たボクが敵軍の背後を取るなんて朝飯前。もちろん食べて来たから朝飯後なんだけどね。陸斗君のご飯を食い逃すなんてあり得ないから。
んじゃ、さっそく………。
「……あ、なんか先に言われた気がする」
戦争と言えばあの名シーンなのに、それを再現しようとした矢先に誰かに取られちゃった。
たぶん皇ちゃんだろうなー。昨日練習したの横で聞かれたせいかな?それでも酷いよね?ボクがちゃんとやろうとあの長文を覚えてたのに省略された気もするし。
……まあ、いっか。この世界にティーゲルの88mmも80cm列車砲の4.8t榴爆弾もないから言っても分かんないだろうし。
どーしよっかなー?前口上無しにやりたくないしなー。
「小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK?ってなんかこれは違うなー」
これはこれでカッコイイけどシュチュエーションに合わないんだよね。
「おい、こいつは一体何を言ってるんだ?」
「分からん。取り敢えず殺しておけ。モルド帝国から飛んで来たならこいつは敵だ」
あー、何か向こうはもう攻撃する気満々だなー。うーんと、うーんと……、ああっ、もういいや!!
「我らは神の代理人!なんちゃらの地上代行者!我らが使命は、えーっと、あーーっと思い出せない!!とにかくエイメェェエエエンーーーーー!!!」
折角リハして来たのに色々台無しだよもう!帰ったら皇ちゃんに文句言わないと!!
飛んで来る魔法は火の玉が僅か一つ。こんなものでやられる気はしないけど攻撃して来たせいで口上がグダグダに終わっちゃったよ。
「ていっ」
取り合えず殴って消した。
「「「っ!?」」」
「いや、こんなので驚かないでよ」
ボクとしてはキャッチボール感覚でしかないのに「お、俺の必殺技が!?」みたいな反応されても困るんだよね。
「お、俺の必殺技が!?」
「言う?!言っちゃうのそこで!?」
本気で言うとは思わなかったよ。そもそも必殺技を最初に出すなんて物語の展開を分かってないなー。そこは最後まで取っておいて「ならば仕方ない。温存していたとっておきを…」ってやるのが筋でしょ。
まあボクとしてもこれを最後までとっておかれても反応に困っただろうし、最初にやってくれただけマシかな。
「何か台無しだなー。これ戦争になる気がしないんだけど?ただの虐殺になっても文句は言わないでよね」
たった一歩。ボクは動いた。
常人の一歩は歩幅でしかないが、ボクの一歩は距離の概念を殺してしまう。
本来なら走っても10秒は欲しい筈の距離を僅か一歩で縮めたボクが目の前に立った現実を逃避するようにこの兵はたった一言呟くだけで精一杯だった。
「ほえ?」
「じゃあ、いってみよっか?」
「――――――――――――」
頬けた面をした一般兵に接近したボクはその面を矯正するように殴り飛ばす。
それだけで軍として整列していた兵たちの間に空から見れば綺麗な直線が引かれた。
たった一撃で別たれた隊列。
殴られた兵はもう生きていないだろう。たぶん肉塊のボールみたいになって転がっている筈だ。
それに巻き込まれた者たちも同様に生きているか怪しい。
「「「………」」」
訪れる一瞬の静寂。
「こ…」
コケコッコ?
「殺せーーーーーー!!!」
だよねー。
全ての兵のヘイトがボクに向かう。シャレじゃないよ?
どのみち城壁内に立てこもってるしかないモルド帝国の兵じゃボクを襲ってる後ろから敵兵を倒せないしね。
いやー、壮観だなー。
ボクだけにこれだけの敵が集まるなんて今まで無かったし、騒ぎになると面倒だから国を相手に戦ったなんて無かったんだよねー。
「でもさ?ボクを舐め過ぎだよね。こんな十把一絡げな連中が総出で来ても運動になるかも怪しいし」
さーて、死んでも恨まないでね。