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96話目 災厄の集い

 『界の裏側』にあるバスタオルをルミナスさんの胸の上に掛ける。晒されたままだと目の毒だからな。


「ったく、助けに来るのが遅れたな」


 助けが必要と急遽駆け付けたがとんでもない事になっていた。

 ルミナスさんが馬乗りにされており、もう少しで目の前のデブに犯されそうになっていたのだから遅いと文句を言われても仕方ないだろう。


「遅い、ですよ」


 王女様にはっきり言われてしまった。

 来ようと思えばもっと早く来れた手前申し訳なくなってしまう。


「あはは、すみません。色々立て込んでしまって」


 そう色々あったのだ。例えば()()()とかな。


「もう大丈夫ですよ」


 だけど諦めた。皆ノリノリで着替えるのに自分だけ着ないのもどうかと思って着たが、やっぱり違和感があって仕方ない。


「誰だてめぇっ!!って、加賀じゃねぇか!!?」


 壁に打ち付けられた徳田が立ち上がり俺を確認すると目を溢さんばかりに驚いていた。ん?さっきのデブが徳田だったのか。

 横を見れば田中と青山もいた。


「おー、加賀氏生きていたでひゅか。身体半分無くなったと聞いていたでひゅよ?」


 俺が一時死にかけてたからか。死んだと思っていれば驚くわな。安藤辺りに聞いてたんだろう。

 あの時の俺はもうヤバかった。普通に考えれば死んだと思うだろう。でも生憎と普通に死なせてくれる人たちじゃない。

 死神だって()()()の手に掛かればあっという間に撃退してしまう。『天災』だからな。


「ちなみに凄く聞きたかったでござるが何で()()でござるか?しかもそれ、ナチスの軍服でござるよね?」

「………戦争だからだと」


 しかもご丁寧に腕には卍のマークまで付けている。

 当然一悶着あった。どうして軍服なんだと。しかも助っ人に行くって決めたの今だよな?何で用意万端なんだ?と聞きたい事を全部聞いた。そしたらこうだ。


『元々戦争事態は介入する予定だったぞ?王女を助ける気になったのは、まあ思い出したからだな。そう言えば勇者のいるアビガラス王国と敵対してたなと。軍服なのは天華に聞け』


 その天華と言えば。


『だって戦争だよ?もう軍服じゃないなら何を着るのさ?ドレスコードだよドレスコード』


 である。…………戦争のドレスコードって何!?

 城に行く時はマフィアの恰好だったよな?何で一々そんなの大事にするんだよ。天華の性格は分かっているが俺たちがこれを着たらもうコスプレだろうに。


「てめぇ加賀!何のつもりだ!!」


 驚きから呆けていた徳田が目を覚ましたように顔を振ると怒りを顕にしながら突っかかって来た。


「それは…」

『あー、テステス聞こえるかね諸君』


 俺が理由を言う前に皇の声が戦争中の全地域に流された。そう言えば宣誓するって言ってたな。これも様式美だと。

 

『警告する。我々『災厄の集い(ディザスターズ)』は現時刻を持ってアビガラス王国ならび、その属国に敵対する。戦争など愚かしいと考えるだけの知能がある者よ。早急に逃げる事をお勧めしよう。この放送より十分後行動を開始する。一応国際常識に基づいての避難勧告だ。十分に留意したまえ』


 ………ちょっと待て。何だ『災厄の集い(ディザスターズ)』って。俺は全然聞いてないぞ、それ。


「『災厄の集い(ディザスターズ)』。カッコイイでござるな」

「拙者たちなんて勇者たちの一括りで終わりでひゅからな」


 感心するな。しかもそっちの方が良かったみたいに頷くなよ。

 

「はっ、何が『災厄の集い(ディザスターズ)』だ!ここには無能しかいねぇんだ!!」


 その無能に蹴られたのはお前だろうが。

 顔を真っ赤にして立っている徳田の姿はオークのように醜かった。

 

「悪いが人を侮ってると負けるぞ?」

「うるせぇ!魔法も撃てない負け犬が!!【ファイアボール】!!」


 徳田は昔俺に撃って来たのと同じ魔法を放った。


「確かに魔法は使えないな」


 飛んで来る【ファイアボール】は規模が大きく、このまま避ければ王女様やその弟にも当たってしまう。

 だから取り出した包丁に『氣』を纏わせてから【ファイアボール】を見極める。



「でも、料理は出来る」



 一刀両断。たったそれだけで【ファイアボール】は調理が完了した。


「は?」


 落ちた【ファイアボール】は半球の形を維持したまま、床に燃え移る事もなく転がった。

 そんな異常な現象を目の当たりにした徳田はまたしても固まる。


「お、おま…、何、しやがった…」

「だから言ったろ?料理しただけだ」


 昔は出来なかったけどな。安藤たちにはやられっぱなしだったけど今ならそれが出来る。

 あの一件以来俺の身体は劇的な改造が施されていた。その結果、今まででは調理に足りなかったパワーが補われ、調理出来ないものが調理出来るようになってしまった。

 魔法を調理したのもその一環。()()()()に小規模の水魔法を放ってもらって確認した。不安そうにしていたのが印象的だったな。もうしませんと涙目だったし。


「ほい、返すぞ」


 二つに割れた【ファイアボール】を蹴り返す。

 それが徳田に当たった瞬間、爆発を起こして徳田はまたしても壁に叩きつけられた。


「陸斗、殿?」

「あ、ルミナスさん。すみません、そのままにして」


 動けないルミナスさんを横抱きにして王女様の所まで避難させる。その際、落ちそうになったバスタオルを丁寧に身体に巻いて落ちないようにする。服はもう使い物にならなそうだしな。

 

「まあ、俺が助っ人です。皇や天華はやる事があるって言いまして。他の皆もやってもらいたい事があると」

「は、はぁ…」


 困惑するもの無理ないよな。

 あの時から考えれば俺は戦力と見るには微妙だし、料理しか出来ないし。助っ人に来るなら断然天華なんだけど用事があるからって別の所に行ったもんな。

 能力的に考えれば天華が来るのが妥当だろうけど来れる速度を考えれば()()()()()()


「陸斗様ありがとうございます。助かりました」

「いえ、この前はうちの皇と天華が迷惑かけましたし。クッキーだけじゃダメだよな、とは思ってましたから」


 王女様は動けないルミナスさんを受け取ると礼を述べた。

 皇から王女など気にするな放っておけ、なんて言われていたけどそこまで強気ではいられない。ってか、やらかした本人より気にするって俺は保護者なのか。

 

「加賀氏」

「加賀殿」

「ん?」


 入口付近にいた二人が声を掛けて来る。何の用だ?

 二人の顔は至って真面目。恐らく俺が知っている二人の表情の中で一番緊張感があり、まるでこれは聞かなければならない重大事項みたいなものがあるようだった。


「この果樹園の果物を全て食い尽くされたような気配は…」

「まるで屠殺された家畜のような感覚は…」


 ごくん、っと生唾を飲み込む青山と田中。




「「加賀氏(殿)!童貞を捨てたでひゅ(ござる)ね!!」」

「はっはっは、ケンカ売ってんの?」




 聞きたい事がそれかい。

 

「分かるでひゅよ。この何とも言えない大人の階段に連行された気分」

「加賀殿もいつか食われるだろうと察していたでござる」

「妙な理解だな、おい」


 しかも想定されているのが何か嫌だった。


「拙者も最初は困惑したでひゅよ。え、いきなり?ちょっと待って欲しいでひゅよ、と」


 田中は腕を組んでしみじみと頷く。

 

「某もでござる。YesロリータNoタッチが信条の某でござるがあの責められ方は反則でござった」


 微妙に煤けた顔になる青山だが何で俺と普通に話してんだ?

 しかし二人は俺と敵対しているのを気にした様子もなく、まるで教室での友人同士の会話のようにほのぼのとしていた。


「お前ら何で加賀と普通に喋ってやがる!!さっさと攻撃しろ!!」


 そこで爆発から立ち直った徳田が二人に対して抗議する。

 当然と言えば当然か。自分は敵として攻撃を受けたにも関わらず、敵である当の本人を前にして普通に談笑していれば怒りたくもなるか。


「え?でも徳田氏が『全部俺がやるから手を出すんじゃねぇぞ?』って言ってたでひゅよね?」

「そうでござるな。『女王と女騎士は俺が屈服させてやるぜ』と息巻いてもいたでござるし」


 手は出しするなと言われたなら……。でも普通仲間がやられてるのを気にせずにいるのはどうかと思うが。

 

「臨機応変に動けよクソが!」


 徳田は役立たずと二人を罵ると、今度は俺に対して敵意剥き出しで睨みつけて来る。


「加賀ぁ、お前スキルなんていつ手に入れやがった」

「俺は前と変わらずステータスは何も無いが?」

「嘘つくんじゃねぇよ!!何もなくて俺の魔法が返せるか!!」


 別に嘘じゃない。あくまでもあれは料理の一環でしかないんだからステータスそのものがはっきり言って要らないのだ。

 あの時からステータスは何も変わらない。

 

 魔力も無ければ体力も無い。攻撃力に防御力、回避だって0のままだ。

 


 だけどそれはステータスに()()を測る力が無いだけだ。



 嵐のステータスは何だ?雷のステータスは何だ?地震のステータス、津波のステータスは何だ?

 残念ながらこの世界のステータスと言う仕組みでは世界の全てを数値化して測れるものではない。

 

 だから俺たちはステータスを持たない。持つだけの杓子定規が存在しない。

 あの時からステータスは進歩していないだけなのだ。


「皇の言葉を借りるなら『世界は退化しているも同義』だ。俺たちを測るならステータスは常に進化を止めないであらゆる物事を数値化出来るようになるべきだった」


 ただステータスの枠組みから外れる存在がこの世界に来た。なのに更新もせずに放って置いた。これを怠慢と言わずにはいられない。


「何をワケわかんねぇこと言ってやがる!」


 しかしそれを理解出来ない徳田は奇異なものを見る目を向けながら携帯していた短刀を取り出す。

 持っているスキルが【転移】なら武器の選択は正しいだろう。

 

 相手の背後に転移し、そのまま突き刺す。これが大剣であったのなら降り下ろすのに時間が掛かる上に威力も半減していたが、短刀なら全身鎧でも着ていない限りは確実に致命傷を狙える。

 

 短気で格好を付けたがる徳田なら大剣をチョイスするように思ったが合理を選んだようだ。


「死ね加賀っ!!」


 一瞬で目の前を消えた徳田。

 

「陸人様!」


 叫ぶ王女様だが問題はない。

 徳田は俺に負ける気がしていないのだろう。正面から姿を現したと思えば短刀を胸に突き入れようと前に出す。まあ、どうするかなんて()()()()()()()()


 ギィン、と鳴る刃物をぶつけ合った金属音。


「は?」


 茫然とする徳田は自身の必殺を止められた事実に固まった。


「それで終わりか?」


 包丁は暴力に使うものではない。争いの道具として使うには不向きなもの。

 だけど俺が持てば話は変わる。


「ふざけるなぁあああっ!!」


 激昂した徳田が【転移】を使い、消えては現れ、そして短刀を刺そうと躍起になった。

 しかし何度やろうと俺の身体に短刀が触れる事はなかった。


「す、凄い……」

「どうやって…」


 短く感嘆な気持ちを吐露する王子と王女様。

 彼らの目からすれば気が付けばそこにいて攻撃する敵を瞬時に把握して捌いているように見えるのだろう。

 だけど俺はそんな達人じゃない。それは天華の領分だ。


「てめぇぇええっ!!一体どうなってやがる!!」

「そもそもお前は俺が何処から来たか分かってるのか?」

「知るかぁ!ふざけんじゃねぇ!!」


 聞く耳を持たずに暴れ回る徳田だが、気にせず解説を入れてやる。


「俺は死に掛け、肉体を改造された事で今まで料理出来なかったものが料理出来るようになった」


 先も言った通り、前までの俺ではあらゆるものを調理するだけのパワーを持っていなかった。魔法もただのエネルギーとしてしか見えず、対処も出来なかった。

 しかし今では改造された身体があらゆるものを料理の対象へと変貌させた。魔法しかり、空間しかり。


「その結果俺の調理対象は世界にまで及んだ。全てが俺にとって食材であり、等しく調理出来るものでしかない」


 調理した空間は自身の望む場所と繋げられる。


「簡単に言えばお前の使う【転移】くらい自力でやれる」

「っ!?がぁぁあああっ!!あり得るかあり得るかあり得るかぁぁあああっ!!」


 徳田が騒ぐがもう良いだろう。十分暴れさせて疲れさせた。

 動きの鈍くなった徳田が攻撃を止めて距離を取る。


「っ!!その目は何だ!?そんな目で俺を見るんじゃねぇよ!!」


 それは恐怖からか。徳田はワガママな子供のような癇癪を起こしながら壁際まで後退した。


「もう終わりだ。大人しく調理されろ」

「ひっ!【転移】っ!!」


 態々口に出してまでスキルを発動した徳田が姿を消した。

 だけど遅い。この程度で逃げられるとでも……。


「一刀…」

「まあ、待って欲しいでひゅよ」


 逃げた徳田。それを捕らえようとして待ったを掛けたのは田中だった。

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