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91話目 真剣白刃取りVS【炎・付与】

忙しかったと言い訳しちゃいます…( ;∀;)


ブックマークが500件突破!!まだまだお付き合い頂けるなんて本当にありがとうございます!!

「【鉄壁の貴公子】」


 防御力を上げ、速度を上げる。更に自身に迫る攻撃の予知を可能にする危険察知力も向上させる。言い換えれば今の俺は未来が見える。


「まったくカッコいいスキルだな。俺も欲しいぜ」

「ならば修得してみせるのだな!」


 風景を置き去りに走る俺を冷静に目で追って来る勇者に嫌気が差す。

 第二騎士団の中でも副団長のディレンでさえ着いて来れない速さで動いているのに、あの勇者は俺を見失う事はない。


 これだけの才があって何故こんな事をしでかすのか。いや、逆にこんな才があるからこそ侵略し蹂躙し、全てを手に入れようとするのか。人としての倫理を持たなければそれは獣と同じだろうに。


「はぁあああっ!!」

「でりゃぁっ!!」


 振り下ろした剣の腹を正確に蹴り飛ばす勇者の妙技は凄まじい。

 俺の剣速に物怖じもしないで、かつ拳では弾くだけの力を得られないと考える判断力はフリーであれば騎士団に勧誘したいと思わせる。

 まだまだステータス頼りで荒削りな所はあるが、それを差し引いても才能と片付けるのが惜しくなる強さであった。


「ふんっ!」

「はっ!」


 弾かれた剣を回す様に返して力に逆らわず斬り返す。

 しかしそれさえも勇者はしゃがんで回避すると一歩離れて間合いを取る。

 俺に勇者を休ませる気はない。一歩間合いから出たのなら一歩距離を縮めるだけだ。


 すかさず斬り上げるように剣を振れば更に一歩距離を取られる。


「くっ」

「良い風だぜオッサン」

「まだ二十代だ!!」

「マジかよ」


 剣の間合いを見切られている。僅か皮一枚で届かない。

 これだけの速さで振っている剣を冷静に避けられるとは常人の力ではない。

 だが剣を振り続ける間、勇者からの攻撃も来ない。余裕なのかそれとも俺の懐に入れないだけなのか。


「はぁああああっ!!」


 連撃に突きも混ぜて織り成すと勇者の顔から余裕の笑みが消え始める。


「ちっ、うぜぇっ!」


 見切られていた剣が掠った。右頬を掠めると勇者は三歩下がって大きく間合いを取る。


「それは悪手だぞ勇者!!」


 仕切り直すために下がったのだろうが俺からすれば絶好の好機だ。

 間合いが大きければそれだけ剣に力を載せられる。そうなれば威力は上がり速度も増した必殺の一撃を繰り出せる。


「ああぁっ!!!」


 取ったと、渾身の一撃に勇者を倒したと錯覚した。

 

「【神速の秘技】!!」


 だと言うのにこの勇者はこともあろうに俺の剣を両手で挟むように掴み取った。


「真剣白刃取り、ってな。」

「ばか、な……」


 急に加速して動いた勇者の異常な行動。一歩間違えれば死んでいたのに平然と死地を渡り切った。

 掴めたとしても剣の重さで膝をクッションにして半分座る様な体勢になった勇者は隙だらけであったが、俺自身やられる筈のない行動を取られたショックで隙が生まれてしまった。

 

「あっぶねー。俺じゃなかったら死んでたぞ」

「そんな避け方をする者は他にいないだろうな」


 剣を離しながら飛ぶように間合いを開けた勇者は、手が痺れるのか両手を振りながら痛そうな顔をする。

 今こられたら危なかった。俺は騎士団に入ってこれだけの衝撃を受けたのは初めてだ。

 俺は冷静さを取り戻すべく、勇者に話し掛ける。


「何故あんな方法で回避をする?自身でも言った通り死んでいたかも知れないんだぞ?」


 勇者は分かってねーな、と半笑いを浮かべる。


「ロマンだよロマン。元の世界でこんな風に白刃を防ぐ技があったからやりたくなったんだよ」

「そんなふざけた理由でだと?」


 俺には勇者の言っている意味が理解出来なかった。

 ここは戦場だ。いつ命を失うか分からない緊迫した中で、大道芸に走った理由がただのロマン。

 避けるも無理、弾くのも無理で受けるのを選択したのなら分かる。が、こいつはスキルで加速し、あからさまに避けられる余裕を持っておきながらワザと俺の剣を受けたのだ。


「強者の余裕ってやつだ」

「お前のそれは余裕ではない。ただの驕りだ」

「ならてめぇはその驕ってる奴に負けるんだよ!」


 ただの掌底が俺を襲う。だがただの掌底も尋常ではない速度で迫れば必殺となる。

 躱せなくはない。しかしそれもスキルの多重使用による速度上昇効果が増しているからであり、通常時の俺ではまず躱すのは不可能だった。

 

 逆に言えばこの勇者が最初から本気であれば俺は手も足も出せずに死んでいただろう。

 これを驕りと言わずに何と言うのか。戦争であれば如何に自身の体力を温存出来るかで生存率が変わるのだ。それを考えれば勇者は先を見据えられないお子様だ。


「はっ!」


 しかし俺自身も追い詰められている。

 こいつは数十人いる勇者の内の一人でしかないのだから、先を見据えるなら体力を残したまま倒したい。

 

 それでもこの勇者を相手に次を見据えた勝利をもぎ取れるだけの力がないのも事実だ。今のままならジリ貧になり、次に戦う為の体力を根こそぎ奪われてしまう。ならやるしかない。


「くらいなっ!」

「ふんっ!」


 勇者の掌底を剣の腹で防御すると俺は勇者と距離を取った。


「我は望む。光と共に歩みし古の(ともしび)よ」


 魔法よりも剣の方が俺は得意だ。


「何だ?打ち合いじゃ決着を付けれねぇから魔法合戦に切り替えましたってか?良いぜ掛かって来な」


 どうしても魔法は一定の出力しか得られず、応用するのが難しい。余程得意な者でない限りは同じ詠唱を唱えれば同じ魔法が出てしまう。俺もその一人だ。


「剣と混ざりて魔を滅さん【炎・(ファイア)付与(エンチャント)】」


 騎士として一定水準の魔法は放てるが、不器用な俺はこうした方が使いやすい。

 剣を取り巻くように赤い炎が溢れており、一度振れば鉄も斬り溶かすだけの威力を持つ。それに魔法を維持しやすく、魔力を供給し続けるだけで何度も詠唱しなくて良いのがこの【炎・(ファイア)付与(エンチャント)】の特徴だ。


「勇者よ。俺に詠唱させる隙を与えたのは失敗だったと後悔しろ」

「しねぇから。第二ラウンドと行こうぜ!!」


 これでお前は俺の剣には触れられない。直ぐに倒して見せる!!





「はぁあああっ!!」

「おおおおおっ!!」


 しかしそれでも戦闘は長引いていた。

 この勇者がただ者でないのは理解していたがこれほど厄介だと思わなかった。


「一体それは何だ!!」

「はっ、ただの魔闘技だよ!魔力で肉体を覆ってんだよ!!」


 本来ではあり得ない打ち合いがまだ続いていた。

 刀身に触れれば火傷ではすまないものを平然と剣の腹を叩いて直撃を防いでいる。

 拳に纏った魔力により熱を防いで戦うなど常識を逸している。

 

 魔力は俺の剣に付与した炎のように形を与えなければ霧散しやすく、維持効率も悪くなる。

 それを無視して防御に使うなど、どれだけの魔力があれば出来るのか想像もつかない。


「それもロマンか!」

「ああ、分かってるじゃねぇかっ!!」


 バカにしている。これほどまでに人をバカにしていると感じるのはいつ以来か。

 炎を纏った剣がオレンジ色の尾を引きながら走るが、勇者は意に介さずに剣を横殴りにして軌道を変える。

 何度打ち合おうと結果は変わらず、結局持久戦を強いられてしまった。


 もしもこれを狙ってやっているのなら大したものだが、目の前の勇者がそこまで考えているとは思えない。

 命のやり取りに余裕以上の驕りを持って遊ぶ勇者。俺の事など玩具の一つとしか捉えていない。

 技を出し渋っているでもなく、俺と遊ぶならこれを使ってやるかと挙動の一つ一つが語っていた。


「ふざけるなぁぁあああっ!!!」


 こんな奴に国を侵攻されているのか?こんな奴に我らの王は狙われているのか?

 名声を求めるでもなく、富を求めるでもなく、ただの暇つぶしの遊びで国を潰されようとしているのだからこれを怒らずして何を怒ればいいのか。


 激昂する俺に、それでも余裕の笑みを崩さない勇者。

 どれだけ修練を積んで来たのかも分からない。もしかしたら目の前の勇者は俺が知らないだけで血を吐くだけの地獄を経験しているのかも知れない。と、思いたいが絶対にそれはない。


 技術は粗く拙い。力任せ、筋力任せ、ステータス任せの無茶苦茶な動きで強引に対処している勇者がそんな経験をしている筈がない。


 もしも地獄を経験しているのなら、この勇者の心はあまりに幼過ぎた。

 弱者ばかりをなぶって来たと分かってしまう。それがあの大量の奴隷であったのだと拳の一振り一振りが伝えて来る。


「それだけの力を持って何故研ぎ澄ませようとしない!何故力ばかりを誇示している!」


 俺には我慢ならなかった。

 これだけのポテンシャルを持っていて高みを目指さず停滞を続けている勇者が許せなかった。


「お前はそれだけの力を持っていて弱者をなぶる為だけに振るうのか!救おうと思わなかったのか!」


 更に停滞するだけに飽きたらず、アビガラス王国そのものを変えていかなかった勇者に失望感も覚える。


「お前は何故…」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」


 勇者は説教を受けた子供のような不愉快顔になると打ち合いを止めて距離を作る。


「力があるから世のため人のために使えって?力が洗礼されていないから何だって?てめぇはそんな俺に負けんだよ!!」


 大きく振りかぶった姿勢で止まる勇者。おそらく大技を使う気だろう。受け切れるだろうか?いや、あれは無理だ。

 スキル【鉄壁の貴公子】があれを受けるなと警告している。やるとすれば回避一択だ。


「死ねよ!【グランドレイド】!!」

「っ!!」

 

 勇者の拳が地面を叩いた。

 その瞬間俺は全力でこの場を離脱したが、信じられない事に何かが俺の腹を掠めていく。


 あらゆるスキルを使って速度が上がっている俺に一体何をしたのか。勇者が発したスキルの名前通り、地面にあった。


「魔法を使わずに操れるのか」

「そう言うこった。それにこれはスキルだから魔法と違って俺の体力の続く限り扱える」

「なんて出鱈目な」


 地面から飛び出して来た無数の杭。それは土で出来ており、一本が鋭利で腹に当たっていれば確実に風穴を開けられていた。

 あの程度であれば魔法でも再現出来る。しかしこれはスキルだ。スキルは詠唱も要らず、MPを気にする必要もないので実質的な球数は無限だ。

 

「怖気づいたかよ三下」


 安い挑発をする勇者を冷静に観察する。

 やはり驕っている。俺が弱い相手だと認識し、優位になれば途端に攻撃を止めて傲慢な態度を取り始める。

 だが、今はそれがありがたかった。


 もしも本気で来られ続けられたのなら勝機は薄かった。しかしこれならアレを使わずとも勝てる見込みは十分にある。問題はない。


「いいや。勝つのは俺だ」

「はっ、まだやる気とはいいじゃねぇか」


 お互いに睨み合う。

 時間さえもと止まったような戦場にいながら訪れる静寂が俺たちを包む。

 それだけ互いに集中している証でもあった。

 団長として失格だろう。自身の団を蔑ろしにて敵一人だけを貪り喰おうとしているのだから。


「「行くぞ!」」


 互いに一歩踏み込もうとした。次の瞬間。


「団長!!」


 俺の腕を掴んだのは副団長のディレンであった。

 何故止めようとする?ここで勇者を討たなければ被害は大きくなるだけだというのに。

 怪訝な顔をする俺だが、ディレンの発した台詞に全身が冷える思いに駆られた。










「撤退命令です!周辺諸国が裏切りました!!」

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