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89話目 第二騎士団団長

「………立て直す時間はあまり与えてくれませんでしたか」


 天幕からでも十分に聞こえる破壊音と桃色の光線は勇者の一人である山崎のものでしょう。

 遂に動いてしまった勇者。何時(いつか)かは来るだろうと予測していた手前、この崩落の撤去に動くのは当然とも言えた。


 何せ、砕こうにも魔法では歯が立たず、人力で撤去するには時間が掛かる。勇者の力で破壊していまえばあっさり片が付くのなら使わない道理はなかった。

 

「しかしネイシャの資料からだと自由な性格で扱い辛く、あのような手間しかないことに従事するとは…」


 予測が少し甘かったのを認めざる得ない。


 ―― 王女の誤算は勇者たちが暇を持て余していたのにあった。もしも勇者たちが遊びに夢中であれば未だに大岩の撤去はされていなかったであろう。 ――


 ですが、撤去されてしまった以上は戦争が再開される。それも勇者たちと言う厄介なもののオマケ付きで。

 

「食料は多少の不足で切り詰めれば何とか補えますが、問題となるのは武器ですか」


 肝心の武器は所詮は数打ちのナマクラ。相手が良品を使う以上はどうしても壊れやすく、量を用意しても直ぐにダメになってしまう。

 一応あの爆破時にある程度、相手の武器を回収しましたがそれでも戦い続けるには足りていない。

 

 こうなってくると魔法による打ち合いの方が良いようにも思えるが現実そう簡単にはいきません。

 ポーション事態が安くない。武器を買うよりは安くとも所詮は消耗品である以上、何処か限界が来てしまう。

 それに買い揃える時も材料の不足から量自体を揃えるのが難しかった。


 効率の良い運用を考えると開幕で魔法を使用してから兵を前に出すのが上策か。

 しかし勇者が何処から現れるのかが読めない。今は天幕で好き勝手やっているようですが、動き出せば地形の有無など気にせず襲って来るでしょう。

 

「やはりここは騎士を前に出すしかありませんね」


 モルド帝国最強の騎士たちでなければ勇者は止められない。彼らが動いたとなれば並みの兵士で押さえようとしてもステータス的に無理がある。

 

「では私が行きます」


 ここでルミナスが名乗りを上げる。

 第三騎士団の面々を出す。それがどんな結果を招くか分かっているだけに私はルミナスの意気込みを()()する。


「いえ、第三騎士団には常に私の側にいてもらいます」

「な、何故でしょうか?」


 騎士団には役割が存在する。第一騎士団は王または王子の護衛。第三騎士団は王女の護衛を行っている。その手前人数は少数であり、大規模戦闘で前に出られる程多くない。

 それに一つ懸念していることがある。


「勇者たちには策といったものがありません。たとえどれだけアビガラス王国の兵と交戦していても、その横を我が物顔で素通りしてこちらに来るとも知れません。ですから貴女には離れて貰っては困るのです」


 勇者たちがどう動くのかが全く読めない。

 気が付けば背後を取られているなんて事態になりかねないからこそ、第一騎士団と第三騎士団には離れられると厄介なのです。


「ですから第二騎士団団長」

「はっ!」


 まだ年の若い銀髪の青年が前に出る。

 彼の名はシャレクソン・ディ・グレイン。第二騎士団団長であり、大規模騎士団をまとめる長だ。


「貴方ならやれますね?」

「この身に代えても必ず」


 第二騎士団は第一騎士団と第三騎士団とは役割が異なり、こうした大規模な戦闘の為の騎士たちです。

 戦争に活躍する為の騎士と言い換えるべきか。練度は普通の兵と比べるまでもなく、その強さは少数精鋭である第一、第三騎士団と引けを取らない。流石に同等とまでは言わないものの、騎士団を名乗るに十分な強さを秘めていた。

 

「アビガラス王国にモルド帝国の騎士の力を示しなさい」

「はっ!」


 ここまで敢えて出さずにいた騎士たち。

 体力と気力は十分。武具も良質で万全。気にするとすればステータスの差ですが、そこは数で補えば何とかなります。

 

 第二騎士団団長は騎士たちを連れて戦場へと赴く。

 その背中は今までの憤りを晴らさんばかりに猛っていた。


「彼らには常に我慢を強いて来ましたから無理もありませんか」


 騎士はただの兵士ではない。国の中で武勇の優れたエリートがなれるもの。貴族には騎士になるのが誉れだと幼少期から訓練を受けてなっている者も多い。

 しかし戦場に出るとなれば兵士の方が出番が多く、騎士は一種の切り札として温存される。


 第一騎士団や第三騎士団は王族の護衛として機能しているが、第二騎士団は全体的な数や役割の関係からあまり活躍出来ていない。

 まあ第三騎士団に関しては私の私兵として動いている面もあるので一概には言えませんが、とにかく第二騎士団には活躍の場が無かった。


 心無い者からは第一騎士団に入れなかった落ちこぼれの集まりとさえ揶揄され、ただ飯喰らいとバカにしている者もいます。

 私からすれば役割が違うのですからそんな中傷に意味は無いのですが、聞いている彼らからすれば違うのでしょう。


 事実彼らの背中は語っている。

 俺たちこそがモルド帝国を守る真の騎士だと。俺たちでなければ国を守れないと。その背中は語っていました。


「貴方方の強さを見せて下さい」


 もう我慢の必要はないのですから。

 存分に己が才を発揮し、モルド帝国を守って下さい。




 ・・・




シャレクソンside




 遂に俺たちの出番が来た。


「団長、ここで活躍出来ればもうバカにされずに済みますね」

「ディレン…」


 副団長であるディレンがやる気に満ち溢れた表情で俺に話し掛けて来る。


「お前は活躍出来るのを喜んでいるか」

「もちろんじゃないですか!何年俺たちが無能だって言われ続けたのか団長が一番よく分かっているでしょう」

「そうだな」


 俺自身何度言われて来たか分からない。

 第二騎士団にしか居場所のない三流騎士。第一騎士団に入れない今一つな騎士。使い物にならないハリボテの騎士。多くの蔑称をこの身に受けた。


「それでも俺は活躍の機会が来なければ良いと思っていたよ」

「え?」


 だが、俺はそれで良かったと思っている。

 兵士だけで戦争が終わるのならそれで良い。兵士だけで勝利を収められたのならそれは余裕のある勝利だ。


「俺たち第二騎士団はあくまでも最後の砦だ。実力が第一騎士団より劣っていると周りから言われようと、無駄な騎士団だと笑われようと、使われないならそれに越したことはない」

「だっ、団長!何でそんな…」

「気付いていないのか?」


 ディレンは俺の言いたい事が伝わっていないのか疑問符を浮かべて軽蔑に近い眼差しを向けていた。


「俺たちが出なければならない。それはモルド帝国には()()()()()()のと同じだ」

「………」


 確かに周りから役立たずと言われ続けるのは辛い。

 だからこうして活躍の場が訪れたのは嬉しい限りだ。鍛え続けた意味もあったと言うもの。

 ただ、それは同時に女王にはもう手が無く、騎士を使わざる得ない状況に追い込まれたのと同義なのだ。


「女王は常に先を見ている。やろうと思えば俺たちを最初から使い、兵士と交代を繰り返して消耗を抑える事も出来た。それをやらなかったのは俺たちの実力を隠したかったからだ。それに向こうには勇者たちがいる。俺たちが欠けた状態で接触させたくなかったのだろう」


 これは女王の悪い癖と言える。自身の中で自己完結し、周りへの説明が滞ってしまう。汲み取る側がもし読み間違えれば前に起きた革命の様に手痛い思いをするのだろうに。

 

 王としての資質が優れているのだが、やはり女王の意図が読めない者からすればこの有様だ。副団長のディレンでさえ女王の考えが分からず、戦場で活躍出来る今を望んでいる。


「モルド帝国に余裕はなくなった。俺たち第二騎士団が倒れれば実質的にモルド帝国の敗北と同じだ。お前の肩には国が伸し掛かっていると分かっているかディレン」

「………いえ、私の考えが甘いものだと分かりました」


 深刻な表情で固まるディレンは事の大きさを理解し生唾を飲み込む。


「お前たちもそうだ。第二騎士団は女王にとっての切り札。それが今切られたとなれば戦況は芳しくないと分かっているか?」

「「「………」」」


 押し黙る面々に俺は言う。


「第二騎士団はけして第一騎士団の成り損ないじゃない。モルド帝国に築かれた最後の砦だ。これを越えられたなら世界はアビガラス王国の手に落ちる。それは最悪な未来だ」


 アビガラス王国がどんな国かを知るからこそ言える。あの国は狂っている。

 奴隷を酷使し使い潰す。同じ命であるとは思っていない外道の集まりだ。そんな国にモルド帝国を支配されたとなれば世界は終わる。


「家族も恋人も全て奪われる。俺たちはどれだけ血潮を吐いても倒れるのを許されない。そんな境地に立たされている」


 許してはならない。許される筈がない。アビガラス王国に何も渡してはならないのだ。


「勝つぞ。自分の身がどうなってでも」

「「「はっ!!」」」


 死に物狂いで戦う決意。それがなければ負ける。

 何万といるモルド帝国の民のため。家族のため。そして女王のために剣を振るう。アビガラス王国の好き勝手にさせてたまるものか。

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