86話目 ネイシャの資料
アビガラス王国の狙いはこの私。
だからこそ勝利条件である私の命を取るべくアリの如く群がって来るでしょう。
普通であれば城、ないし砦に引っ込むのが上策。
「ですが、私は使えるものは何でも使う性質でしてね」
スキルを封印するスキルである【王女の威光】と同じ効果のあるものは【王の威光】だけであり、持っているのは王族のみの珍しいスキル。
更に【王族の矜持】によって一時的ですが味方の攻撃力と防御力を上げ、鼓舞させられるので戦線が崩れそうになれば盛り返す事も可能。
その二つのスキルを駆使してアビガラス王国の兵たちと交戦を続けていた。
使えるのなら私自身も使います。
「お、【王族の矜持】っ!!」
「王子が頑張られているのにお前らはその程度かぁっ!!」
「「「おおおおおおっ!!!」」」
そして弟のファーバルだって使います。
幼いファーバルに戦場はやはり早かった。疲労は色濃く、呼吸も乱れて目元には隈も出来ています。
正直に言えば来て欲しくは無かった。
だから説得もしたし、姉として家族として王としての義務を捨ててファーバルを止めようとした。
それでもファーバルは首を縦には振らず、王族としての責務を全うしたいと望んだ。
なら私に出来るのは王族としてあろうとするファーバルを王らしく戦場に立たせる事だけだった。
「くっそ!また強くなりやがった!!」
「立て直せ!このままだとやられるぞ!!」
アビガラス王国の兵は大国なだけあり、練度も高く、優れた統率力を発揮します。防具から武器までかなり良質な素材が使われているのが遠目でも分かり、軍事力はかなりのものでしょう。
しかしそれだけの力をフルに発揮するには場所が悪い。
兵たちに常に守らせていた谷よりも広くはあるが全軍を動かすには狭く、人数の制限されてしまう地帯にいる為にアビガラス王国の兵は持ち前の数の力を生かせずにいた。
減って行かない兵の多さは十分に驚異的であるが、それでも一気に襲って来れないのでモルド帝国と周辺諸国の抱える少ない兵でもカバー出来ている。
「さて、あとどれくらい戦えば終わりますかね」
「少なくとも勇者が出るまでは続くと思いますよ?まだ一般の兵しか出てませんし」
軽い口調とは裏腹に何処か緊張した様子のネイシャ。
それも当然か。アビガラス王国に召喚された勇者と呼ばれる強い力を持つ者はあらゆる場所に行って多くの者を奴隷に変えている。
それは種族問わず、性別問わず、老若問わず、あらゆる人を奴隷にしてはアビガラス王国に持ち帰っている。
傍若無人に動く彼らを止められる手段はない。
止める為の戦力を派遣する前にはもう行動されてしまっているので対応出来ない。
お陰でモルド帝国でもそれなりの被害が、特に遠方などはどうしても警備が薄くなってしまうので被害を防げないでいた。
「勇者は本当にマズイです。知らないスキルも持ち合わせているから何をして来るか分かりません」
「それでも多少の情報を集められたネイシャに脱帽ですけどね」
「直に見て無事に帰って来れるのだからお前はメイドをやっているのが間違っているな」
「趣味だから良いんですよ」
「「趣味だったの(か)?」」
ネイシャの資料ではこうなっている。
『鈴木啓介。
黒髪を茶色に染めた暴力的な見た目。その見た目通り粗暴で女子供にも容赦はない。
格闘家の職業から近接戦を得意とし、遠距離攻撃手段として魔法を使うがメインは近接戦なため牽制程度にしか撃って来ない。騎士が三人掛かりでようやく対等になれる。ただし、成長速度とスキルを鑑みると三人でも足りない可能性がある』
『土屋美紀子。
ビッチ。男を家具として使う趣味がある。
槍術士であり、中距離攻撃を得意とし、遠距離であれば魔法を多用する。職業の割りには近接戦を好まず、練度は低いため騎士一人でも対処可能』
『加藤 綾香。
清楚系ビッチ。土屋と同じで男を家具にしている。
魔法使いであり、基本的に土屋と行動している。見た目上は魔法使いと槍術士で相性は良いがこちらも練度は低いのでやはり騎士一人で対処出来る』
『山口真奈美。
触手を愛する者。
召喚士として触手を召喚するので多方面の対処が可能。捕まれば最後、物凄く匠に触手を操り男も女もエロ…、餌食になる。
魔法によって対処するべき危険人物。騎士による対処は人を止める覚悟があれば可能』
『田中雄太。
亜人マニア。身体が太って丸い
奇怪な能力の持ち主。道化師と呼ばれるレアな職業を持つ。対象を逃げられなくする【笑タイム】と攻撃、防御に優れた【ピエロの手癖】の効果は対処不可能。どういった原理で致命傷を受けて回避しているか不明の為、出会えば逃げるのを推奨』
『山崎光黄。
かなりのイケメン。しかし男にしか興味がない。
聖騎士の職業でありながら遠近両方を得意とし、剣から放たれる【真・聖剣ゲイルダスト】はあらゆるものを破壊する。城壁に穴を開けられる為、防衛戦で会えば真っ先に対処する必要性大。
もしもの際には第一騎士団長でも生贄に差し出して薄い本的行為を捗らせれば勝機あり?』
『安藤久人。
山崎の愛人。髪を真っ赤に染めている。
ダンジョンマスターと呼ばれる稀有な力を持ち、基本的に防衛戦で役に立ちそうな力から戦場に出るのではなくアビガラス王国の防衛に使われるものと思われる。山崎の寵愛の激しさに戦場に出られる程、肉体が回復していないともとれる。危険度は小さい』
『青山淳。
絶食でもしているのかと思える痩せ型。
暗殺者の職業を持ち、幼い少女を愛している。近付くと気付かれる恐れがあり情報は不足。分かるのは気が付けば背後を取られているかも知れない事。十分に注意されたし』
他数十名の勇者の顔やスキルの情報があり、細やかなステータスは分からなくても対策を取りやすくなっていた。しかしこの資料は何故いちいち性癖が絡む内容になっているのでしょうか?
「おそろしいものでした。間近に見て来るものではありません。やつら腐ってます」
「……それは今までの行いでしょうか?それとも単にここに書いてある性癖の方ですか?」
この資料の前だと変な意味に聞こえますね。
「もちろん性癖に決まってます。あれほどの変態は見た事がない」
「鏡を見ろ」
「美しい私が居ますが何か?」
普通に後者でしたか。まあこれを見るだけでもどんな人物であり、ちゃんと絵姿があるので一目見ただけで誰なのか分かるのは有難いですね。
「だいたいこれは何だ?山崎に対する考察に第一騎士団長でも生贄に差し出せばなどと冗談でも書くものではないだろうが」
「あー、そうですね。最近はどなたさんが恋慕してる相手ですもんね。気になって仕方ないですもんね」
「なっ!」
あ、やっぱりですか。私も気になってたんですよね。
さっさとくっ付けばいいのにと思わされる程、二人が一緒にいる頻度は高い。これは城内ではよく噂されているものだった。
武内様との闘いの時に共闘してから仲が良くなってましたから祝福しないといけませんね。
「ではこの戦いが終わった後に結婚でもすればいいでしょうね」
「それ最近流行りの本では死亡フラグと呼ばれる危険な行為らしいですよ」
死亡ふらぐ?なんですかねそれは。
「と、とにかく私はガイエス騎士団長とそんな仲ではありません!」
「「ああー、名前を言い合う仲ですか」」
よく分からない事はさておき、愛があるなら構いませんがね。
私にもそろそろ良い相手が出来ませんでしょうか。色々やり過ぎて政略結婚も出来ないんですよね。あれ?涙が出そう。
戦争よりも違う意味で心にくるものがありました。