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85話目 スタートライン

 始まってしまった戦争は終局に向かって動き続ける。

 そこに休戦の文字は無く、どちらかが攻め滅ぼされるまで終わりの無い地獄であった。

 敵味方を含め、多くの者たちがこの世を去っている。


 いつそれが自身に降りかかるのか。少なくとも守られるべき者である私の番が来るのは当分先の話。

 ですが、それは終局の最後の一手となるのが私の首か、アビガラス王国の王の首かである以上は比較的訪れる可能性の高い未来。

 

 油断は許されない。策を練り続け、兵を常に生かすように立ち回り私自身も生きられる未来を模索する。

 それこそがモルド帝国の生きる手段であった。


「現状は?」


 既に数日が経過している。

 兵たちは常に休ませながら運用しているものの、精神的な負担は計り知れない。

 何故なら彼らは私よりも死と隣り合わせの場所に立っているのだから。

 

「はっ!冒険者と傭兵たちによる攻防が未だ目途を立たず、膠着状態にあり互いに一進一退の展開が続いております」


 報告をする兵の疲労は色濃い。

 それはそうだ。何度も襲って来る冒険者と傭兵たちの動きは兵の運用とはまるで違う。

 強いて例を挙げるなら統率された魔物の群れとでも言えばいいのでしょうか。


 彼らは軍隊の様な規律がない。

 されど、個々のチームでの連携は持っている為に、一対一でのやりとりや多対一のやりとりがなく、多対多のチーム戦に近くなります。

 

 一チームに手酷い傷を負わせても、勝手に撤退していき違うチームに入れ替わる。

 軍との違いはこの身勝手さでしょうか。

 軍であれば安定して傷ついた兵を戻し、用意された兵と入れ替わりますが、彼らにそれはない。

 

 けれどそれでも兵たちとやり合えるのはその数の多さから。勝手に撤退した所で次の報酬に目の眩んだ者たちが現れる。

 それが上手い具合に噛み合った結果、一進一退で中々戦況に変わりがない。


 私やファーバルがスキルを使って相手の力を削いでも一時凌ぎにしかなっておらず、想定よりも良く無い状態でした。


「いかがいたしましょう?」


 未だアビガラス王国の正規軍と戦っていない。

 相手方は毒の効果や補給の問題もあり弱っているが、回復するのも時間の問題ですね。

 そうなると本当はアビガラス王国の軍に使う予定であった罠を使用せざる得ないと判断するべきでしょう。


 これ以上の膠着による長期戦は悪手です。

 今以上に疲労が溜まった状態では戦い続けるのは厳しいものとなるでしょうし。


「罠の準備は出来ていますか?」

「はっ!いつでも行う準備は出来ています!」

「ならばやりなさい。今後も罠があると思わせておいた方が相手も躊躇するでしょう」

「分かりました!!」


 兵はその場を去って行く。


「ふぅ…」

「命令して頂ければ私たちはいつでも動けますが」


 私が苦い顔を隠せずにいるとルミナスは気を使って声を掛けて来る。


「いえ、まだ貴方たちを出すわけにはいきません。相手の出方が読み辛い以上最高の戦力を投入するには早過ぎます」


 確かに彼女たち第三騎士団を出せば戦況を傾ける事は出来る。しかしそれは同時に彼女たちに怪我ないし疲労を蓄積させてしまう。

 まだアビガラス王国の正規軍が出ていない以上はここで出してしまうのはこちらの底を見せてしまい、勢いが増してしまう可能性もあった。


 なら先に使うべきは最初に仕掛ける様に命じていた罠の方。

 単純明快でありながらも効果が一番に分かりやすいものを使うのが上等。倒せば兵たちの士気も上がりますし何より目に見えて罠に引っ掛かりそうなのは冒険者たち。


 彼らは魔物を倒すのを専門としているので人を相手にするのは慣れていない。

 盗賊等の小規模なある筈ですが、こうした戦争規模での大軍戦は経験がある者は少ないでしょう。

 戦争は数も重要ですが、戦略もあって初めて戦いが成立する。

 

 ただ正面から殴り合っているだけでは話にならない。

 もっとも地形の関係もあって正面から常に相手にしなければならなかったのもありましたが、贅沢は言っていられません。

 

「先に野蛮な者たちを潰すとしましょうか」


 と、ここで戦況は動く。


「崩れ始めたぞ!攻めろ!!」


 先に根を上げたのはモルド帝国の兵たちでした。

 瓦解した箇所を一気に攻め込まれ、兵たちは流れるように撤退を行います。



 ………これはマズイ、()()()()()()()()()()()()()()



 現状を俯瞰して見ると一目瞭然なのですが、崩れたのは右端のみであり最も守るべき中央や左端はビクともしていません。

 あくまでも誘い込んだだけ。

 罠へとまっしぐらに走る冒険者と傭兵たちが私には檻に誘われる獣に見えます。


 本来であればアビガラス王国の兵に仕掛けたい罠でしたが、あれだけの勢いで攻めて来てくれるのであればアビガラス王国の兵に仕掛けるよりも非常に効果的に発揮してくれるでしょう。

 

「王女だ!狙え!!」


 何日にも渡る戦闘からか、思考が停止し視野狭窄となった者たちが真っ直ぐ私の方へと向かって来ます。

 彼らの目には私は金銀財宝の塊のように映っているのでしょうね。

 重なる疲労と痛みから耐えに耐えて、ようやく手に入れたチャンスに浮足立っているのが良く分かります。本当にご苦労様です。


「死ね王じっ…ぎゃぁあああああっ!!」

「うわぁああああああああっ!!」

「待て!お、押すなああああああーーーーっ!!」


 やはり獣にはこう言った罠が効きますね。

 まあ、普通は戦場に()()()()を用意するなんて思いませんか。

 深さもそうですが幅もあり、易々とは登って来れない。ある程度の重量が掛からなければ落ちない様に魔法で細工もしてありましたし、最初に落ちなかった者も勢い余って自ら落ちるか、後ろの者に落とされるか。どちらにしろ囲む様に回り込んだ兵たちに落とされる運命ですが。


 中も当然土を加工して作らせたスパイクで埋め尽くしてますので刺さった者たちは運が悪ければ落ちて死んでます。それでも生きていれば上から魔法で燃やして終わりなんですけど。

 

 戦場を見渡すと用心深かった者たちを除いてですが、概ねの冒険者と傭兵たちが死にましたね。落とし穴は危ないので今は埋める作業に入って貰っていますが、時間的な余裕も出来ています。

 落ちなかった冒険者と傭兵たちは示し合わせたように撤退して行き、アビガラス王国の兵と衝突しています。お陰で向こうはごたつき、しばらく襲って来る事はないでしょう。


 これでようやくスタートラインに立てた。

 アビガラス王国は万全な状態であり、こちらは消耗が激しく兵の数や物資の数から不利なのは分かり切っています。

 ですが勝てねばなりません。私たちの背中には多くの民が勝利を祈っているのですから。

 

「ルミナスは勝てると思いますか?この戦争」


 ただ、どうしても不安は襲う。

 精神論で勝てない相手なのは重々承知。

 戦略を立てて如何に被害を減らし、少ない兵でどれだけ大きい成果を上げられるかに考えを終始しているからこそ自身の考えにどうしても不安が過ぎってしまう。


 だから聞きたかった。一番信頼している騎士に私は間違っていないかを。

 横に立つ騎士はただ微笑んでいた。その不安は不要なものだと語っていた。


「たとえ王が間違っていたとしても私が降り掛かる全ての害悪を薙ぎ払います。ですからいつものように突き進んで下さい。我が王、ラミネ・ノディステイル・モルド陛下」


 いつでもその背中を支えていると告げてくれる私には過ぎた家臣。

 弱くなった自分に活を入れ前を向く。

 隣に立つ騎士に恥じない王でありましょう。私はラミネ・ノディステイル・モルド。モルド帝国を礎を担う者としてこの戦争に勝ちます。


「では私を支えていてくださいね。我が忠臣、ルミナス・ディ・ロード第三騎士団長」

「はっ!全ては我が王の意のままに」


 戦争は苛烈となる。

 世界はアビガラス王国の思う通りに支配させませんよ。


一気に書けなくて申し訳ないです

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