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84話目 王女の威光

「粗方奴隷たちは倒せましたね」


 撃ち続けた雷系の魔法によって奴隷たちの死体は戦場に絨毯のごとく敷き詰められた。

 未来あった少年も余生を楽しむ老人も皆等しく骸に変わり、助けられそうなのはやはり後方にいた踏まれずに済む奴隷たちだけでした。


「しかし彼らも救えないでしょうね」


 奴隷たちの後続に控える冒険者と傭兵によって、まだ倒れているだけで息のある奴隷も死に絶えるでしょう。

 こちらは魔法使いに交代で魔法を撃たせたとは言え、全員の魔力が尽き掛けている。ポーションはまだまだあるものの、自然回復が出来るのならするに越したことはない。

 それに罪のない奴隷たちを攻撃し続けた事で想像以上に疲弊している。このまま運用すれば倒れる危険性もあったため一度下がらせていた。


 しかしそうなると後は白兵戦へと持ち込む事になるのですが、相手は冒険者に傭兵。

 連携はあまりないと判断していますがどうなるか。どう動いても対策はしているので問題にはならないのですけどね。


「来ましたか」


 砂埃と怒声を上げて迫り来るのは冒険者と傭兵たち。

 

「見ろ!王女がいるぞ!!」

「金は俺のもんだ!!」

「殺せ!首を手に入れろ!!」


 品の無い声が戦場に響き、金に眩んだ亡者たちが奴隷たちの死体を気にせずに踏みつけて走り迫る。

 先行して来ているのは知能と呼べるものが全て筋肉へと変わってしまっている残念な者ばかり。

 私ははっきり言ってこの者たちを助ける気は毛頭ありませんでした。

 

 彼らは奴隷たちとは違い、自分たちで選択をしている。

 そこに悲壮感もなければ焦燥感もない。あるのは欲に塗れた執念のみ。

 ならば命を散らした所で自分たちも了承済みな相手。命ごいをして来ようとも助けるべきではない者たちでしかなかった。


 何よりも国を汚そうとする者たちを許せる程、私は器量は大きくありません。


「【王女の威光】」


 ガクン、と冒険者と傭兵たちの動きが鈍る。

 

「なっ、スキルが使えねえっ!?」

「どうなってんだ!?」


 スキルによってステータスを底上げしていた者たちは自身の不調にただ困惑していた。

 【王女の威光】によるスキルの使用の可否を私によってコントロールされてしまっているが故に元のステータスで戦うしかなくなったのですから困惑もするでしょう。


 ですが、この【王女の威光】は長くは持たない。

 そもそも政務ばかりの私は身体を鍛えてないですからスタミナが一般人程度。最近はペンくらいしか持っていないですから下手をすれば一般人さえ下回りますね。

 

 スキルを長時間使えるだけのスタミナがないのを少しばかり悔やみます。

 でも今はそれで十分。ステータスを上げられなければ兵士たちだけで対処が可能になる上に疲労も少なくて済みますから。


「っく…」


 膨大な量のスキルの否定に吐きそうな思いを堪える。

 その間にも兵士たちによる応戦で冒険者と傭兵たちは潰れて行く。

 順調ですね。想定よりも弱い者たちばかりで兵たちの被害が少なく済んでいる。


 ただし、今応戦している相手は所詮手柄を焦り考え無しに飛び出して来た能無したち。現に私の【王女の威光】のスキルに対策もしていなかった。

 もしも私の情報を知り得ていれば、無暗に出るのを控えた筈。


「これで全ての雇われた者を処断出来れば楽だったのですけど。そうはいきませんか」

 

 冒険者と傭兵たちは全員が向かって来たのではなく、半数程度は傍観を決め込んでいます。

 おそらくあの者たちは私のスキルを知っている者、もしくはまだ危険だと本能的に悟れた者か。どちらにしろ今相手をしている者たちより手強いでしょうね。


「………少し休みます。後は任せました」

「はっ!」


 そうなってくるとスキルを長く使用出来るように少しは温存しておきたい。

 今離れるとまた冒険者たちがスキルを使用出来るようになってしまいますが、考えなしに暴れる者たちに全力を注ぐよりも、後続にいる冒険者と傭兵たちの方が遥かに危険です。

 それにこうして一度牽制として使えば冒険者と傭兵たちはいつまたスキルが使用出来なくなるかを不安視して戦闘に集中し辛くなるのでこれで十分。

 

 私は一度指揮官に現場を任せ、休息を取る事にしました。

 機会を伺っていた者たちがスキルが使用出来る今に乗じて襲って来るならそれでも良し。その時はまた私が【王女の威光】を使って抑えるだけですから。

 それにスキルが使える程度で倒される柔な兵士たちでないと信じています。


「お疲れ様です」

「ありがとう」


 椅子に座る私にネイシャがタオルと飲み物を差し出して来る。

 思っていた以上に疲労していたようで私は滲んだ汗を拭い、水分を補給する。

 

「ふぅ、気が抜けませんね」

「ですがあちらはいつまたスキルが使用出来なくなるか疑心暗鬼になって混乱しています。それに王女自ら前線に居られる事でこちらの士気は高く優勢を保てています」

「多少は役に立てたようね」


 常に私の隣にいたルミナスが戦況を聞いて安堵を覚える。

 前哨戦としてはまずまずと捉えるべきでしょう。

 多くの奴隷を倒し、一部の冒険者と傭兵たちを倒した。その間の我が国の損害は少なく、精々が魔力回復に使ったポーションと多少の怪我を負った兵士たち。


 数や体力面での心配はありますが地形の関係上迂回されて後ろを取られる心配がなく、広い地形で陣取っていますので兵の取り回しがしやすい。

 その点においては前線を下げたのは良い判断と言えるでしょう。

 

 しかし逆に言えばアビガラス王国に近付けば近付くだけ道幅が狭くなる以上、こちらから攻め入り短期戦に持ち込むのは難しい。

 もっとも短期戦に持ち込めるだけの戦力がないので地道に相手の戦力を削り続ける方が良いでしょうね。


 そうみると前線を下げると言ったあの賢王の判断に間違いはないように思える。

 それでも妙な違和感は拭えない。密かに砦に武器や食料を運んでおいてあるものの、まだ対策としては不十分と思わざる得ませんね。


「ところでネイシャは何故ここに?貴女には戦場をかき乱すように指示した筈ですが」

「えー、一介のメイドにする命令じゃありませんよ?」

「ただのメイドが斥候並みに動けるのですから使うのは当然です」

「貴様は恩情によって生かされているのを忘れたのか?」


 ネイシャの開き直った振る舞いに苛立ちを覚えたルミナスが剣に手を掛けます。

 

「いやいや忘れた訳じゃないですけどあんな混戦してる所に行って何が出来るんですか?」

「お前なら崖も歩けるだろうが」

「なんて無茶を言う女騎士よ。最近流行りの本みたいにオークかゴブリンに犯されてろ」

「ほう…」


 薄笑いを浮かべながら抜刀するルミナスの目は本気だった。

 対してネイシャは鼻で笑い小馬鹿にしたような表情でルミナスを煽る。


「止めなさい。それに貴女はもう仕事を済ませているのでしょう?」

「あ、バレましたか」

「貴様…」


 剣は鞘に戻しつつも苛立ちを隠せないルミナスがただただネイシャを睨む。


「取り合えず出来る限りの妨害工作はしておきましたよ。食料に毒も盛りましたし、補給線も一部遮断しましたし」

「………お前はいつやったんだそんな事」


 事あるごとにネイシャを見かけていた為にそれだけ大掛かりな作業を行えると思っていないルミナスは胡乱な目をしていた。


「元から準備はしてありましたんで。それに流石に私一人じゃなくて部下も使ってますよ」

「だからと言ってお前がサボって良い理由にはならない」

「サボってませーん。休憩でーす」

「よし、休め。二度と起き上がられなくしてやろう」

「だから止めなさい」


 またしても剣に手を伸ばすルミナスを止める。


「とにかくこれで戦いやすくなります。よくやってくれました」

「では追加報酬を」

「ありません」


 これでネイシャが欲を出さなければ使いやすいのですけどね。

 まだ戦争は始まったばかり。次はどう攻めて来るかを思案するのであった。

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