【3】お見通し 2
「はいはい」
「ここ、伯母さんと伯父さんだけじゃん」
「バカ娘もいるけどね、いつも家にいないけど」
「うん」
「結婚もしないし! どうするつもりかしらねえ、あの子。もう若くないし、お見合いのクチもどんどん減ってるのに!」
「お見合いするかなあ」
「してくれないと! いつまでも独り者でフラフラされるのは困るわ!」
「そりゃそうだけど」
彼女、追っかけてる人いるし。
他の男の人には見向きもしないんじゃないかなあ。
「裕ちゃんからも言ってね! 早く結婚して私たちを安心させろ、って!」
十代の小娘に、何てことさせるのだ。
第一、従姉が素直に聞くタマかどうか。
「いいけど」
とりあえず、道代には同調しておく。が、こう言わないわけにはいかない。
「誰に言えばいいの?」
伯母と姪は目を見交わす。
二人とも、ほぼ同時に2人の人間を思い浮かべていた。道代の娘である従姉と、裕の叔父である慎一郎のことをだ。
従姉は、慎一郎に恋い焦がれている。彼女がまだ幼かった頃から叔母の夫の弟に憧れ、追いかけている。
はあーと叔母と姪はため息をついた。
「ほんと、フラフラしてくれて、困るどころではないのよ! 母親なんてなるものじゃないわ! 慎一郎君も、子供だった頃はうんと可愛かったのに」
「いつの話ですか」
「高校生だったわねえ、制服着てたから」
今の裕とさほど歳が離れているわけではない。
「それ、かわいいですかあ?」
「私からしたら、あなたのお父さんもかわいーもんよ、図体だけ大きくてね」
「あはははは」
道代にかかれば、誰であっても可愛いぼうやになってしまうに違いない。
「だから、あなたは心配しなくても大丈夫よ。家のことは一切気にせず、大人にまかせて。あなたは自分のことだけ考えてなさい。アルバイトもそう。あなたにはそういうことは一切させないで、って加奈江からクギを刺されているの。そのつもりでね」
「ええー? どーしてわかっちゃうの?」
「やっぱりね。あなたは見当違いな方で気を遣うから、目を離さないで、って言ってたけど。私も同感だわ。いい? 子供はお金の心配はしてはいけません」
「え、だって」
「だってもへったくれもないの。いいわね? まあ、我が家から出入りするんだもの、ウソついてもバレるからね。隠せないわよ」
「全部お見通しなのかなあ」
「そうよ」
「アルバイト情報誌、買ったんだけど……」
「学校のお友達にあげなさいな。無駄にならないでしょ」
「そうする」
本が入った袋を持ち直しながら見た小さい窓の外は、春特有の白っぽい空が拡がっている。
ああ、春だ。
裕は思う。
今年は花見行ってない。桜、もう終わるよね。
少し目線を落とす。
だって、受験あったし。
おばーちゃん、死んじゃったし。四十九日あったし。
それどころじゃなかったもんね。仕方ないよ。
春になりたての家のなかは、少しひんやりとする。
裕は荷ほどきも満足に終わっていない自分の部屋へ戻る前に、仏間へ向かった。