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【3】お見通し 1

バイト。しないとな。



裕は漠然と思った。


今日の授業を全て終わらせ、帰宅する道すがら、目に飛び込む求人の案内を無視できないのだ。


今も駅前の書店から動けない。店頭には有料無料の求人情報誌が鈴なりになっている。


我が家の台所事情は、実のところ良くわからない。


普通のサラリーマンではない自由業。


しかも、父は自身を『芸術家』と称している以上、真っ当な稼業ではない。


お弟子さんもいる、生徒さんもそれなりにいる、父親も時々個展なんかもしているくらいだから、無名ではないのだろうけど――


父より、実質、母が手がける書道教室が唯一の収入源では? としか思えない。


地方へ旅立った同級生たちのように、山程大学を受験して、ワンルームの部屋を用意してもらって、みたいなことは無縁だった我が家。


裕が受験校を白鳳1校だけに絞ったのも、願書ひとつもお金がかかり、受験料もばかにならず、あれこれ大学を並行して受験できない経済状況なのではなかろうかと、危機感を持った彼女なりの気遣いのつもりだった。


無事、ミッションは果たした。


勝った。


合格した。


そして次の問題に気付く。



やっぱり我が家にはお金がない、と。



小遣いぐらい、自分で稼ぐんだから。



バイト情報誌を本屋で買って、「ただいまあ」と下宿先である母の実家、つまり親戚の家の玄関口をくぐった。


「あら、お帰りなさい」


にこにこと、丸い顔で彼女を出迎えるのは、この家の主であり伯母の道代みちよだ。


裕の実家・水流添つるぞえ家は、姉である道代と妹である母・加奈江かなえの2人姉妹だ。


裕には全く想像もつかない世界だが、家督を誰が継ぐかは家にとって重要な問題だったのだという。


一つ前の世代である母たちですら、無関係ではなかった。


男兄弟がいなかった水流添家は、長子の道代が後を継いだ。伯父の悟はいわば入り婿。なのに伯母夫婦の元には子供は従姉が一人いるだけ。


裕と従姉。


どちらも本家の長子でひとりっ子、そして女だ。


どうすればいいのか、考えないといったらウソになった。



伯母さんは、この家を継いだんだよね? お婿さんもらって。

私とそんなに変わらない歳で、結婚したんだよねえ……。

時代が違うってどういうことだろう。

棚上げにしていいのかなあ。


「伯母さん」裕は言う。


「ん? 何?」


「伯母さん達、これからどうするの」



やだ、私、変なこと聞いちゃった。



は? と道代は目を丸くしている。



思うまま、何でも口にしていいわけないのに。



でも、一旦口をついて出した以上、引っ込めて良いはずがない。


「んー。あのね」


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