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浮世絵美人よ永遠に  作者: SAKURAI
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第十七話 センターへ

意識だけを転送する装置を稼働するのは、センター長の許可が必要だ。それには俺の上司の五月雨さんの許可も得ねばならない。

「もしかして、この前五月雨さんと話をしていたのは……」

 俺が疑問を投げかけると蔦屋さんは

「実はそうなのです。許可と言うより口添えをお願いしていたのでございます」

 何という事だろう。あの時蔦屋さんは既に広重さんと繋をつけていたのだ。俺だけが何か置いていかれている感じがした。

「五月雨さんは何と?」

「口添えはするが、実際の行動は光彩さんと一緒にやるようにと」

 正直、俺は一度体験しただけなのだが……。

「じゃあ、さきも一緒と言う事なのですね」

 俺が五月雨さんの考えを推測すると

「多分、そうなのでしょう。さきさんはかなり多くの経験がお有りのようでございますから」

 実際の話、新規に組織に入った物は訓練センターで基本的な事を学ぶ。学校で習った歴史もそうだが、これから起きる未来の事も大凡学ぶ。その他に美術史や実際に古今東西の名画にも触れる事になり基礎知識を溜め込んで行くのだ。この講師に、さきが選ばれて、この前までやっていた。今は別の者と交代して、俺と同じ八重洲の事務所兼ギャラリーに勤務している。講師をやったぐらいだから、経験はかなり多いのは事実だ。確か蔦屋さんも簡単だが訓練を受けていたはずだった。

「じゃあ後はセンター長の許可だけですね」

「手続きとしてはそうでございますが、健康診断が残っています」

 そうだった。あの装置は脳に損傷があると使えない。俺はセンターに初めて連れて行かれた時にすぐに受けたが、広重さんが使うとなると少なくとも脳は調べないとならないだろう。

「広重さん大丈夫ですかね?」

「まあ寝ているだけでございますから」

 確かにCTスキャンの様に寝ていてトンネルのような物をくぐるだけなのだが、それで全て判ってしまうという所は正直、俺も少し薄気味悪く思っている。

「じゃあ、センターに行きませんとね」

「だから光彩さんはこれからセンターに行き着替える訳でございましょう?」

「確かにその通りですが、私がセンター長に?」

「お願い出来れば」

 まあ、正直な事を言えばセンター長に対しては蔦屋さんよりも俺の方が親しい。さきはもっと親しい。さきと一緒にセンターに行けば尚更良いと思った。

 確か今日は八重洲の事務所で書類の整理をしていたはずだ。朝別れたので本当は何をやっているかは判らないが八重洲に居る事は確かだった。

「一旦、八重洲に戻って、それから、さきを伴ってセンターに行く事にします。それに広重さんを健康診断するなら朝食前が良いでしょう」

 今後の予定を述べると蔦屋さんは

「では、センター長の許可を得られると言う前提で明日の朝に広重さんをセンターに連れて行くと言う事で良いのでございますな」

「大丈夫だと思います。許可は簡単に降りるでしょうが、健康診断の結果の方が大事です。何かあればすぐに連絡致します」

「ではお願い致します」

 蔦屋さんの頼みを受けて、俺はタブレットの転送装置を作動させて、現代の八重洲の事務所の転送室に転送した。

「おや、センターに帰るはずでしたよね」

 転送装置を操作するエンジニアからそんな声が掛かる。

「うん、そうなんだが、さきと一緒にセンターに行く用事が出来てね」

 俺はそう言って江戸の人間の格好をしたまま、事務室に居るさきを探しに行った。さすがにこの格好に慣れている職員も俺の顔を見てギョッとしていた。事務室のドアを空け、さきに声を掛ける

「さき、一緒にセンターに行って欲しいんだ」

 俺の格好をしげしげと眺めたさきは

「あら、また随分急いでらっしゃるのですねえ」

 そう言って笑っている。大凡は五月雨さんから訊いて知っているのだろう

「聞いてるのだろう?」

「まあ大凡は」

「じゃ話が早い」

 さきの手には書類が握られていた。

 さきの手を取って五月雨さんの所長室に急ぐ。ドアを開けると机に座っていた五月雨さんは

「来る頃だろうと思っていた。センター長には俺からも言っておいた。決まりだから実際に行って許可を得なければならないが、着替えるついでなら問題はあるまい。それで広重さんは何時センターに来る事になっているんだ?」

「明日の朝です。朝食前がよかろうと」

「確かに……健康診断だからな」

「では二人で行って来ます。多分今夜はセンターに泊ります。その方が無駄がありませんから」

 そう言って、さきの荷物を持って転送室に行く。元より、さきは明日はここに帰って来るので、持ち物は余りない。

「急な事だが今夜は家に帰らなくとも大丈夫だろう?」

「それは、いつも緊急事態に備えていますから大丈夫です。着替えもあちこちに置いてありますからね」

さきは、そんな事を言って平然としている。こんな時、こいつは俺よりも経験者だと感じる。

 

 転送室でセンターに転送されるとセンターでは何時ものエンジニアの他に小鳥遊さんが待っていてくれた。

「お久しぶりです。今回はなんでも広重さんを装置に掛けるとか?」

 既に蔦屋さんの手回しが済んでいるのだろう。この辺はやはり蔦屋さんはやり手だと感じる。

「そうなのです。これからセンター長の決済を貰うのです」

 さきが俺の代りに答えてくれる。ここでは、さきは人気者でもある。

 転送室からセンター長の部屋に向かう。このあたりは俺でもそう多くは来ない場所だ。さきも

「組織の人間でも、わたし達のような現場の人間にはこの辺りには余り来ませんからね」

 やはりそんな事を言う。センター長の部屋のドアを開けるとセンター長は待っていてくれた。

「五月雨くんや各方面から話は聴いているが、書類上の決済が必要だからな」

 センター長はそう言って、さきが書いた書類に決済のサインをしてくれた。日本なら判子なのだが、組織は国際的な組織なので、書類の決済はサインだ。

「ありがとうございます!」

 礼を言って書類を確認すると、同行する職員の欄には俺とさき、他に蔦屋さんの名前も書いてあった。

「皆で行くのか?」

「はい、ついでですから。それに、江戸の街を空から見たくはありませんか?」

 確かに、見たいのは確かだが、あの装置にそんなに一度に入れたか疑問だった。

「カプセルって幾つあったっけ?」

「四つですよ。でもまた抱き合って一緒に入ってもいいですよ」

 その目は何だか俺を誘ってるように感じた。

 エンジニアの小鳥遊さんと明日の打ち合わせをして、食堂で夕食を採る事にした。ここで食べるのは久しぶりなので、色々なものを頼んでしまった。

 それを二人でつつきながら食べていると何だか結婚前の事を思い出した。

「昔は、よくこうやって二人で食べたな」

「そうですね。私はあの頃、本当は男性と一緒に食事をするのに慣れていなくて、少し恥ずかしかったです」

 そうか、そう言われて見れば、さきの態度がやや固かった気もした。

 その夜は早寝する事にした。映画も何も見ずに、ベッドルームを暗くし、夫婦らしい事をした。

 

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