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 魔王に走り寄り、マリモはピンクな顔で質問攻めをし始める。

 あちゃあ……、と思う俺とは裏腹に、周りの騎士や魔法使い達は慌てふためいた様子でマリモに青い顔を向けた。

 んまぁ。予想出来たっちゃ、出来たよな。

 ……俺は。


「今まで会ったどんなヤツらよりも格好いい!なぁ、俺って神子なんだぜ!?お前を倒しに来たけど俺と一緒に居るってなら止めても良いけどっ!なぁ!どうだ!?」


「そんなっ!神子様!?」


「みっ、神子様を誑かしおって!!」


「どんな魔法を使ったんですか!?」


 さっきから魔王様一方通行で言葉責めで可哀想だな。

 ほら見ろ……顰めっ面で呆れたような溜息を吐き出しちゃったじゃねぇか。

 神子にはどんな魔法も通用しないんだろ?

 もうヤダこのアホパーティー………。

 俺は加わってないけどな。

 ぎゃあぎゃあと騒ぐパーティー(ギャグみたいだ)は魔王と俺を置き去りに内輪揉めをし出してしまう。

 もうどこを見ていようかと、とりあえず天井を眺めていた俺に魔王から声が掛かった。


「貴様も私を倒しに来たのか?」


「あ、いえ。ただのクソ……神子様の生きた盾ですよ」


 ったくめんどっちぃ。

 悪態吐く俺に驚いた顔をした魔王は、とある提案をした。


「この者を私にくれるならば、貴様達の国には手出ししない……これでどうだ?」


「「「「へ?」」」」


「はぁ?」


 とんでもない提案だったが、マリモの様子だと魔王退治をしそうにない。

 それどころか魔王側に付きかねない状況だったのでこの申し出はパーティーに願ったり叶ったりだったようだ。

 魔法で作った契約書には、俺がこの国で魔王のものとなる代わりに、互いの国は一切干渉しないとのこと。

 つまりは、俺って生贄にされちゃった感じ?

 こんな臭いものを欲しがるなんて物好きなって顔をしてるパーティーの皆様を余所に、クソマリモ様は不機嫌丸出しの顔をして俺を睨んでくる。

 じゃ、お前が代わりに生贄やるか?おい。


「なんで俺じゃないんだよ!俺が一緒にいてやるって言っただろ!?なんでこんな平凡なヤツなんだよ!俺の方が可愛いだろ!?あ、もしかしてお前、照れてるんだろ!?だからコイツにしたんだよな!?しょうがねぇな!今からでも契約書書き直せよ!なぁ!!」


 ぎゃあぎゃあ喚きだしたマリモを皆で慌てて抱え、城を飛び出して行った。

 魔王んトコに置いて来たとなりゃ、あいつらの首が飛ぶだろうし、それは真っ当な判断だろ。

 つか、俺は一体ここで何をすれば良いんだ?

 また物置で寝るのか?

 身体中がボロボロの俺に仕事なんぞ出来ないと思うからまずは休ませてくれ。

 ジト目で見つめていた俺に、魔王は少し赤くなった顔でついて来いと一言。

 片足を引きずっているのに気付いた魔王は、苦い表情を浮かべながら俺の怪我をしている足に手の平を当て、何かを呟く。


「あっ」


「これでもう歩けるだろう。旅の途中に転んだのか?」


「まぁ……そう、だなぁ………」


 これが魔法というヤツか。

 ゲームでいうトコロのヒーリングだな。

 曖昧な返事をした俺に訝しげな視線を魔王は寄越したが、それよりもまずは行き先だ。

 一体どこに向かうんだろ。

 拷問部屋だったら……俺終わったなぁ………。


「ここだ」


 着いた場所……それは風呂場だった。

 大浴場並に広いその風呂の脱衣所。

 ここを掃除しろってのか?


「なにをしている……貴様が入るんだ」


「は?入る?掃除じゃなくて?」


「何故掃除?貴様、どれだけ自分が汚いか自覚しているのか?」


「そりゃしてるに決まってるだろ。臭いし俺だって風呂に入りたいよ」


「だから入れと言っているんだ」


「風呂場の方を掃除して欲しいのか?」


「いや、だから………」


 どうも会話が噛み合わない。

 魔王は俺に何をさせたいんだ?


「はぁ………貴様が、服を脱いで、風呂に入り……身体を清めろと私は言っているのだ」


「……え?」


 嘘。

 本当に?


「俺、風呂に入っても良いの?」


     ○


 その後何故か怒る様子で俺の服を脱がした魔王は、俺を風呂場へと抱えて行き、湯を俺にバシャバシャと掛けだした。

 自分で出来るって言った俺に魔王はスポンジのよなものを投げ寄越し、身体が洗い終わったら用意した服を着ろと命令しながら風呂場を出て行ってしまう。

 なんだろ。

 更年期かね。

 しかしこの汚らしい身体にはほとほと困り果ててたんだよな。

 ここはありがたいと思ってだだっ広い豪華な造りの大浴場を堪能すると致しますか。



「あっがりましたー……」


「用意されていた服に着替えましたね。魔王様がお呼びです。どうぞ此方へ………」


 用意されていたシンプルなデザインのシャツとズボンを着て脱衣所を出た俺を待っていたのは、犬耳を頭から生やした執事服のイケメンだった。

 おい、何だよ嫌がらせかよ。

 犬耳のコトなんぞ気にも止めず、どんだけイケメン率高いんだと力抜きまくった顔を晒していた俺に、先程の言葉が掛けられた。

 魔王様がお呼び……こりゃ奴隷扱い宣言されっかな。

 汚らしい格好じゃ、城の中も歩かせれないっていう思案があっての風呂だったのかも。

 まぁいっか。

 どうせ俺は学園でもあっちの国の城の中でも居場所なんてモンはなかったし。

 ここでの仕打ちは少しくらい優しいものであって欲しいモンだな。

 フラフラとした足取りで俺は前を歩く犬耳執事イケメンの後に続いた。



「食事の用意が出来たぞ。貴様も座れ」


「………はい?」


「聞こえなかったのか?座れと言ったんだ」


「はぁ………」


 俺に用意されていたもの。

 それは奴隷宣言なんかじゃなく大きなテーブルに温かい食事だった。

 なんだろ。

 誰かお偉い方々でも来るのか?と思った俺に、既に座っていた魔王からお声が掛かる。

 不機嫌そーに俺を見つめてくるその眼は、どこか不安の色が見えた。


 ……俺に、喰って欲しいのか?


 座れと言われて座った俺だが、食事に手を着けて良いものなのかどうなのか分からなかったんで、座ったままの体勢。

 もし手を動かしでもして、殴られたのならたまったもんじゃないからな。

 だけど魔王はそれを許してはくれない。


「食事をするぞ」


「もう夕飯時でしたっけ?」


「まぁ……近い時間といえば時間だがな。私の城の一流のシェフが作ったものだ。残さずに食せ」


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