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俺の横で倒れているマリモを見た瞬間、何故か俺を強く睨み付けてきた。
イケメンに恨み買う体質でもあんのかね?
「神子様に何をしたっ!」
「ハァッ!?」
みこ?みこって何だ?巫女ならとある皆様に大人気ですが。
「とぼけても無駄です!神子様に危害を加え、いかがわしい行為をしようとしていたのでしょう!」
「ふざけんなっ!誰がマリモに欲情するか!!」
すっごく侮辱った言葉だな。
俺が悪食に見えるってのか?胸糞悪い。
憤慨している俺をイケメン男と鎧を着た兵士達が囲む。
まるでゲームの中にいるような感覚だ。
初めて見るよ鎧なんてよ。
もう脱力するしかない俺の横で、マリモがどうやら目覚めたようだ。
俺に食って掛かっていたイケメンを見るやいなや、飛びつくように近寄り、大声で捲し立てるのはある意味で良い度胸だといえるかもしれない。
つかカツラないからマリモとはいえないが……まぁマリモはマリモだろう。
「なぁなぁ!お前格好いいな!名前なんてんだ?俺も教えてやるから教えろよ!」
「は、ハッ!神子様!!」
感激ですって顔に書いてあるイケメン男の名前はイースゥ。
マリモに説明している内容を聞くと、どうやら異世界の呼び出しによって俺達はこの世界に召還されたようだ。
神子を迎え入れた国は栄え、大地の恵みが溢れ出すという。
言い伝えによると神子は輝く金色の髪を持つ美少年なのだそうだ。
美少年……確かにカツラと瓶底眼鏡を取ったマリモは、本とかに載っている天使のようだ。
愛らしい顔と輝く金色の髪。
だけど中身がアレならば宝の持ち腐れだな。
「いらない者まで付いて来てしまったようですが………」
睨み付けんな。
こっち見んなボケ。
神子様の方を向いてろカス。
「いらない者なんていうな!俺の親友なんだぞ!!謝れよ!!」
そんないらんコト言うな……ほら、また俺を睨み付ける目が酷くなった。
周囲の兵士達からも殺気が漂っている。
一体コイツはどんだけの人をホイホイすれば気が済むんだよ。
それからは酷かった。
俺と一緒じゃなきゃ城に行かないと言い出したマリモの我が侭が通ってしまい、俺も城へと行かなければならなくなってしまったのだ。
どうせこんなにも憎まれるなら俺一人で良いと告げたのだが、神子様の命令に従えないのかと殴られ、俺はずるずると引きずられるように城へと連れて行かれてしまった。
城へと向かう道中。
イケメンの男はマリモにデレデレ。
ついでに兵士達もマリモにデレデレ。
なにこれ怖い。
俺への虐げは酷かったが、それでもマリモは庇うようなことはしなかった。
おい、お前って俺を使って優越感に浸ってるんじゃないだろうな?
問い質す気力も沸かないまま、とうとう俺達は城へと到着。
王様への挨拶も俺の存在は卑下する対象らしく、神子様なクソマリモに向けている優しい眼差しは俺に向くと同時に蔑みの色にすり替わる。
しっかし王様もこれまたイケメンだった。
他のイケメン達も城へと使えている者達だったんで、俺への虐げは激しさを増した。
殴られ蹴られ、一体俺が何をしたっていうんだと泣き叫びたくなる。
こんなトコ一秒でもいられないと、町に働きに出るから城から追い出してくれと頼み込んだりもしてみたが、それをマリモは許さなかった。
「俺、元いた世界のヤツがいなくなったら寂しいんだよ!!」
とかなんとか抜かしやがって!
そんなことをまた言うもんだから俺への怒りは増しに増した。
もうこれ以上ないって位に。
城内に俺の味方なんざ一人もいやしない。
与えられた部屋は物置。
ベッドは馬用の毛布。
風呂も入っていないから俺は歩く汚物みたいになった。
俺以外は平和に過ごしていたとある日のこと。
なにやら不穏な報せが城に届いたらしい。
神子マリモと何故か俺は王様に呼び出され、応接間の中心に立たされていた。
俺を見てイケメン達は悪口言いたい放題。
臭いっていうなら風呂に入らせろクソ共が。
俺の姿を見て嫌悪の表情を浮かべた王様は、とりあえずマリモに自分の側に来いと告げた。
「なっ、なんだよ!俺と一緒に居たいからって甘えんぼだな!」
満更でもない顔をしたマリモは王様の隣に行き、ベタベタとしだす。
うぇ……気色悪いモン見せんなよ。
ベタベタに満足したのか、王様はマリモと俺に聞こえる声で今起きていることについて語り出した。
ま、要約するとこうだ。
魔族達が集まっている国が一つあり、それがこの国と敵対状態に長年あると。
魔族達を治めているのは魔王。
最近に代が交代となり、新しい魔王が治めることとなった国は巨大な軍力を持つようになってしまったとか。
魔法ならこちら側の国も使えるのだが、魔王は魔法使いが束になって掛かっても敵う相手ではない。
そこで神子様の登場だ。
魔王も神子には手出しは出来ないらしい。
神聖なる者には、どんな攻撃魔法も通用しないからだ。
なので、神子とお供と俺とで魔王退治に出て欲しいとのこと。
「大切なお前を適地に送り込むのは胸が痛む思いだ……だが、お前ではないとどうしても魔王には勝てない」
「気にすんなよ!俺の力が必要だってんだろ!?だったら俺がそんな悪いヤツ、ぶっ飛ばしてやるぜ!」
鼻息荒く意気込むのは良いが何故俺もなんだ?
こんな一般市民以下に成り下がった俺に一体どんな役割があるってんだよ。
「あぁ、安心なさい。貴方はこの旅で神子様の大事な盾となれるのですから……最後にこのような大役を与えられたことを感謝しなさい」
マリモには聞こえないように耳元でイケメン男に言われ、俺は自分の役割がマリモの弾避けだということが分かった。
つまり、生きた防弾チョッキということか。
使用は一回しか出来ないがな。
大役っつぅか大厄だよな。
やっぱり道中も酷いモンだった。
マリモは守られているから悠々と進んでいられたが、俺はまたもや殴られたり蹴られたり……もうここまで来ると八つ当たりだな。
神子様がどう足掻いても王様のものになっちまうんだから。
己の叶うことのない恋心を暴力として俺に与え、発散させている。
無関係な俺に、とんだとばっちりだ。
この世界は学園と変わらない……俺の牢屋に思えてきた。
痣だらけの身体を引きずりながら、ようやく俺達は魔王の城まで辿り着いた。
俺の傷だらけでボロボロな姿とは真逆に、マリモはかすり傷一つ付いていない。
羨ましいこって。
重々しい扉を開け、中に入る。
大広間の中央に来たあたりで、心地良い低音の声が響いた。
「御苦労なことだな。私を倒す為にわざわざこんな所まで来られるとは」
「なっ……!」
気付けば、だ。
目の前に現れた魔王らしき人物……っつっても本当に魔王だろうが……は、黒い艶やかな長髪を惜しみなく垂らし、美しい顔で皮肉気に微笑んでいた。
黒い軍服姿はとても様になっている。
女性のような顔立ちだが、身体はやはり男性のもの。
少し細身な身体でも、十分に鍛えられていることが分かる。
まさかと思いマリモの方を見ると、その顔はキラキラとした瞳で頬を赤く染めていた。
……ま、まさかよぉ………。
「おっ、お前すっっごくキレイだな!!格好いい!な、名前はなんてんだ!?教えてくれよ!俺の名前は光ってんだ!よろしくな!!」
「みっ、神子様!?」