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自サイトから転載。

 俺、かみ 良樹よしきの遠のいた意識が戻った時、真っ先に目に飛び込んできたのは青々とした木々の大群だった。

 学校の階段から突き落とされた筈の俺の身体は傷一つ付いておらず、ただ地面の土が少し付いた程度だ。

 えぇっと、確か俺は突き落とされた瞬間に犯人の腕を掴み、道連れ覚悟で落下したのだが………。

 あぁ、そうだ。

 俺はあのクソ真っ黒マリモに突き落とされたんだ。

 季節はずれの転校生に………。



 俺が通っていた全寮制の男子校は金持ちばかりが集まる有名校だ。

 ホモやバイの巣窟な学園だったが、それでも俺は平凡な容姿をフルに活用し、欲求不満な馬鹿ゴリラ共に襲われることなく普通に無難に学生生活を楽しんでいた。

 その平和な快適生活をぶっ壊してくれたのがあの転校生……通称クソマリモだ。

 季節はずれという事も重なり、皆はその転校生に興味津々だったのだが、その姿を見た途端に興味は侮蔑のものへと一瞬で変わった。


「俺は高田井こうだい ひかるだ……です!仲良くしてくれよな……です!!」


 鼓膜がどうにかなってしまうのではないかと思う程の声の大きさと、敬語崩壊の滅茶苦茶な挨拶。

 それに合わせ、グシャグシャに手入れのされていない不潔そうなもっさり頭に瓶底眼鏡。

 クラスの皆がドン引いている中で、神のお告げとでもいうのか……俺は一瞬でそいつと関わってはいけないと直感した。

 だが悲しいことにこの野生児マリモは俺の同室者。

 こんなにも一人部屋だったことを悔いたことはない。


「俺の隣の席だな!なぁなぁ!!後で食堂に連れてってくれよ!俺、食堂の使い方わかんねーんだ!!」


 ついでに席も隣とはどうゆうことか……。

 全くもって神様は俺のことがつくづく嫌いらしい。

 そしてクソマリモにやたらデレデレしていた担任のホスト教師が俺の方をキツく睨んでくる。

 なんだよこの教師崩れが、恋でもしたのか?



 その時は軽い冗談のノリで脳内突っ込みをしていたのだが、それが事実だったと分かったのは数日後だった。

 それからは隣で(無理矢理連れ回されていた)見ていたのだが、転校生は次々と親衛隊持ちのイケメン達を落としていき、取り巻き……もとい信者を増やしていった。

 一匹狼のイケメンにスポーツ特待生のイケメンに生徒会の全員のイケメンにさらには美術特待生のイケメンに各委員長のイケメン達。

 どれもこれもイケメンイケメン。

 平々凡々な容姿の俺を嘲笑ってんのかと思う程にクソマリモの周りにはイケメンが勢揃いした。



 それだけだったならまだ良い。

 本当に良い。

 だが、それだけで済まないのがこの学園独特の風習だ。

 各イケメンの親衛隊達は己の崇拝する人から愛されるクソマリモに制裁を行おうとした。

 まぁ、ポッと出の奴に想いを寄せていた人をかっさらわれたんだからな。

 あれだけ尽くしても、今やクソマリモに吹き込まれた言葉で嫌悪の眼差ししか返ってこないんだ。

 そりゃ暴れたくなるのも分からないでもない。

 だけど制裁は行われなかった。

 常にイケメンがクソマリモを囲っているんだ。

 制裁の前にどうやっても誘き寄せることも出来ないんだからな。

 そうなるとその怒りの矛先は常に行動を共にしている俺に向かってきた。


「そんな平凡な顔のクセに、生徒会の皆様に取り入ろうとしてるの!?信じらんない!」


「図々しい!そんな平凡な顔で!」


「あの転校生使ってってのがまずもってありえない!身の程を弁えてよ!!」


「皆様に近付かないで!!」


「忠告したのにまだ付きまとってるの!?会長様が迷惑がってるのを知らないの!?」


 キャンキャンと吼えてくるチワワ親衛隊の皆様に罵倒される日々。

 暴行を加えようとゴリラ共を引き連れてくることもあるのだが、そこは自慢の逃げ足でなんとか逃げ切る。

 痛いのは嫌いだからな。

 しかしクラスに戻っても俺の居場所は無いに等しい。

 席に着き、目の前の机はもうヒットポイントゼロ状態。

 悪口のオンパレードで表面は真っ黒だ。

  それに臭い。

 雑巾とか何てモン入れてんだよ。

 うへぇ、と顔を顰めていた所にクソマリモがイケメン達をぞろぞろと引き連れながらやって来た。


「おう!どうしたんだよ良樹!って、あぁ!お前また机にラクガキしたのかよー、学校のモンを傷つけちゃいけないんだぞ!」


 だからその大声やめろ。

 つか、これを俺がやったとすんならどんな自虐だ。

 俺はMじゃねぇ。

 睨み付けたいのもそこそこに、面倒事を回避する為にもちゃんと事実を言っておく。


「俺がやったんじゃねぇよ。そこにいるイケメン様達の親衛隊のヤツらがしたんだ」


 親衛隊のヤツらを日頃から悪く言っているお前なら、まぁこの疲労感を共感してくれるかなぁ……と、軽い気持ちで言ったのだが。


「なんだよ良樹!お前なんか酷いことでもしたんだろ!?まず自分が何かしたのかな?って思わなきゃ!反省したら俺が皆にちゃんと言ってやるからさ!!」


 えぇー……そうくるか?普通。

 俺が酷いことの前にお前が酷いことをしてるんだろ?責任転嫁すんなクソマリモが。

 怒鳴りたい衝動を抑えつつ、俺は盛大な溜息を落とす。

 すると次の瞬間、突如頭部に凄まじい痛みが奔った。


「おい、光が助言してやってんだぞ?礼の一言でも言え」


 一匹狼なイケメンが俺の頭を勢い良く殴っていた。



 そうだ。

 親衛隊だけじゃない。

 クソマリモを囲むイケメン達からは、同室者(なら部屋替え申請しろよ)、親友(クソマリモが勝手に言ってるだけ)、隣のどうにもならんだろ、いつも一緒(勝手に連れ回されてるだけだ!)という理由から嫉妬と侮蔑の眼差しをいつも受けている。

 親衛隊を使っての嫌がらせもコイツらが指示してるんだろうが、俺には正確な情報は分からない。

 風紀委員もマリモ信者だ。

 俺の制裁現場を見つけたとしても直ぐに見て見ぬフリをするだろう。

 それにしてもマリモ、お前は親友がこんな目に遭ってても助けようとはしないんだよな。

 俺がイケメンじゃないからか?

 まぁ、どうでも良いけど。



 ズキズキと痛む頭を抱えながら、俺は保健室へ行こうと教室を出る。

 後ろでマリモが喚き騒いでいるが、俺には全く興味が無い。

 つか、保険医も信者なりかけだろうから自分で手当しないとな。

 くそっ、ここにはマトモな精神のヤツらはいねぇのか。

 ぶちぶちと脳内文句を言いながら、保健室がある一階へ下りようとした時、背中に衝撃が来た。


「俺のコトを無視するなんてっ、サイテーだッ!!」


 ふわり、と俺の身体が宙に浮く。

 このまま落ちて怪我すんなぁ、って思っていたのだが、それにしてはまりにも理不尽だと怒りの感情が全身を駆け巡った。

 ここいらで報復!と言わんばかりに、俺は落下直前にマリモの腕を掴み、


「うわああああああぁぁぁ!!」


 落ちたのだ。



 あー……、で。

 こうなったと。

 見慣れない景色に呆然としていた俺の視界に、キラキラと輝くものが見えた。

 不審物か?と思いつつ近付いてみると、どうやら光っていたのは人の髪の毛で、倒れている人間。


「ん?」


 倒れている人物の横にあったものはクシャっとしたもっさりなカツラ……少し遠くの方に落ちているのは瓶底眼鏡……ということは、このキラキラっとしたヤツはまさか………。

 とある考えに辿り着き、顔を青ざめさせている俺の後ろから大勢の声が聞こえてきた。


 ……んだよ、こんなワケわからんトコに連れて来られて、しかもこのマリモと二人だけっていう状況に絶望を感じていたのによ。


 苛立ちに顔を歪ませている俺に近寄って来たのはこれまたイケメンな銀髪の男。

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