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大学の学生食堂で、きつねうどんを食べていると、健太がやって来た。
「浩一、おつかれ」と彼は言って、向かいの席にそのまま座った。彼の昼食はカツカレーだった。
「お前って、濃い[#「濃い」に傍点]方なんだな」と、テーブルに置かれていた七味唐辛子を何度もカレーに振りかけながら健太は言った。
「は?」と僕は聞き返した。
「精子濃度だよ」と健太は言った。
健康診断のことだった。
「まだ詳しく見てないし。食事中にする話題かよ」
僕は、七味唐辛子を二、三回振りかけてからうどんのスープを吸った。
僕は食べ終わったが、健太は半分も食べ終わっていなかった。カツは一切れ食べられただけだった。健太のカレーは、予想以上に辛かったらしく、学食に設置されている冷水のセルフサービスにおかわりを何度も取りに行った。健太は、辛い、辛い、と言いながら舌を洗うように水を飲んだ。
僕は、健太の食事が終わるのを待つ間、タブレットで自分の健康診断結果を見ることにした。僕の健康診断の閲覧履歴に、「斉藤健太:2208.07.24.11:21」というアクセス記録があった。僕がメールを送ったあと、彼は即座に僕の診断結果を見たようだ。健太は、その時間は講義中のはずだった。暇な奴だと思った。
僕の精子濃度結果の横の欄に、正常な精子濃度の範囲が記載してあった。僕のは確かに濃いらしい。無性に健太と張り合いたくなったので、彼の直近の診断結果も見てやった。
「お前の薄いな。健太、お前は俺の打率の半分だな」と言うと、「打席が回ってこない奴と、打率の議論をするつもりはない」と健太は言い、カツを一口食べた。
健太がセッティングしてくれたのは、二対三の合コンだった。場所は上野の一般的な居酒屋チェーン店。予約は十九時から。予約名はサイトウ。相手は、健太の幼なじみとその大学の友達二人ということだった。人数が合わないからこちらも人数を増やした方がよいのではないかと思ったが、健太なりに何か考えがあるだろうから、何も言わないでおいた。僕自身も、競争率が高くなるようなことをわざわざしたりはしない。
健太は、その幼なじみから、今日の合コンに来る三人で写っている写真を送ってもらっていたらしく、その写真を僕のタブレットに転送してくれた。
「真ん中が、俺の幼なじみの佐々木亜梨沙。それで、右側が伊藤真利江さん、左側が吉田理香子さんという子らしい」と健太は説明を加えた。
みんな可愛かった。写真は、無重力遊泳施設で遊んでいるときに撮影されたようだ。吉田さんという子の後ろに縛った髪が不自然に浮き上がっていた。
「いいじゃん」とだけ僕は言った。
食器を返却台に返したあと、僕等は時間つぶしに、女の子達の個人情報を見た。僕は、共通の趣味や話題になるようなものはないかと、佐々木さん、伊藤さん、吉田さんの順で、彼女達の本の閲覧履歴やサイトへのアクセス履歴を見た。アクセスは、女性のファッション雑誌が多いようで、共通の話題になりそうにもなかった。
「吉田さんの胸は大きいな。バスト八十八だって。写真では、そうは見えないけどな」と健太は僕に語りかけるように独り言を言っていた。
午後の授業に出席するために席を立ったとき、健太は僕に聞いた。
「で、だれが好みなんだ?」
「伊藤って子」と僕は正直に答えて、講堂に向かった。彼女の少しウェーブの入った黒髪が、無重力空間で品良く乱れているのがセクシーだった。
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