第1話(8)
ドスゥ。
荷物のように部屋のベッドへ投げ捨てられる俺。
「また明日会おう。動けるようなら着替えぐらいしとけ」
動けません……。
ディールはさっさと部屋を出て行ってしまった。
うーん……。いったい何があったんだっけ……?
頭がぐらぐらする。
少しだけこのまま休もう……。
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「ノノルー! うふふふふ……」
かわいいノノルとおいかけっこをしてご機嫌の俺。
なのになぜか体がゆっさゆっさする。
なんだよ……、揺らすなよ……。
「ウォルン! ウォルン!! いつまで寝てるんだ!?」
ノノルの姿がかき消えて、目の前には怪しげな男がいた。
なんだこいつ。
……ってディールか!
「おはようディール。何かあったのか?」
「おはようじゃない、もう昼過ぎてるぞ。それから緊急事態だ。さっさと起きろ」
「緊急事態?」
「テンバド鉱山で魔獣が暴れていると情報が入った。あの辺りにはいるはずのない魔獣もいるらしい。悪魔かもしくは誰かの仕業だろうとのことだ。ミィウはモクルと一緒に先に行っている。ブラウとノノルは街のすぐ外で待機している。すぐ行くぞ」
「すぐって……」
「今日くらいゆっくりしたいのは僕も同じだ。なにせ昨夜はたっぷり飲んだからな。魔獣と前線はにらみ合いの状態だから戦力は急ぐ必要はない、人数が集まってから作戦を立てたほうがいいだろうからな。それよりも問題は負傷者だ」
「負傷者が出ているのか?」
「なにせ鉱山なんて普段は戦力と呼べる戦力なんていないからな。攻め込まれることを前提としていない。崩れたら危ないからそもそもあそこで戦おうなんて馬鹿はいままでいなかった。いたのは発掘作業者ばかりだ」
「それって!」
「そういうことだ。作業員の多くが……」
「………………!」
一気に目が覚める。
「でも……、でも、回復魔法が使える術師はたくさんいるだろう?」
「ほとんどが手遅れの状態だ。ウォルン、おまえならどのくらいの傷まで治せる?」
「死んでいなければ」
「はあ?」
なんでそんな顔をするんだ?
「ミィウから聞いてはいたが、おっまえ、ホントに規格外なんだな」
ニヤリ、とディールが笑う。
「魔力はどのくらい持つ?」
「さあ? そんなに一気に使ったことないから……」
「まあいいだろう。最悪の場合、僕の魔力を与えてやるよ。ほぼ底なしだ。行くぞ。何か必要なものはあるか?」
「いや、特には」
「よし」
ディールがさっと右手をかざすと、床に魔法陣が現れた。
魔法陣からわずかに発している光がゆらゆらと揺れて幻想的だ。こんな事態でなかったら、感動的とも言える。
ディールに手を引かれて、2人、魔法陣の上に立つと目まぐるしく景色が変わった。うわ、これ酔いそう……。
『ごちゅじたま、たいへん! たいへん! いっぱいひとが、たいへん!』
ノノルが飛びかかってきたのを受け止めて抱っこする。
どうやら街のすぐ外に出たようだ。
「聞いたよ。ノノルも一緒に行くのか? 危ないぞ」
『いっしょ、いく。ごちゅじたまとののゆ、いっしょ!』
かわいい……! ノノルたんかわいい!!
『ののるはわたしがまもりますよ。いそぎましょう。はやくわたしにのってください』
「ブラウ、気持ちはわかるが焦るな。ミィウは強い。モクルもいるのだから心配ないぞ。すぐ近くの街まで魔法陣で移動する。そこからは、ブラウ、頼んだぞ」
『はい……!』
ディールの魔法陣でテンバドの街に移動した俺たちだったが、街の中はひどく慌ただしかった。魔獣を連れているというのに、特に怯える者もいないのはすこし違和感を覚えるほどだ。
「まずはこの街のギルドへ向かおう」
ディールの意見に従って、ギルドへ向かうことにする。まずは情報収集といったところか。