第1話(4)
うーん。それにしてもヒマだなぁ……。
ずっと抱えてたら腕が痺れそうだったから、ノノルには降りてもらっている。
そのノノルはといえば、警戒心たっぷりにギーギルの死体をくんくんしたり、近寄っては離れたりしていてなんだかかわいい。
ブラウはまわりをのっそのっそと歩きまわり、まさに見張り! って感じだ。頼りにしてるよ。
あまりにもヒマな俺は、座り込んで、ぼけーっと空を見上げた。いい天気だなぁ……。
あ、あの雲、変な形してんな……。
「グルルッ」
ブラウが軽く唸った。
「どうしたー? ブラウー」
ブラウが警戒しているほうを見ると、人影が見えた。
「なんだ、通りすがりの人じゃない……かっ?!」
なんだあれ?
珍妙な格好だ。魔術師……、っぽいけど、変だ。何が、とはうまくいえないが、すごく変だ。
杖らしきものを持っているけど、やたらと装飾過多というか、無駄に派手だ。狙ってくださいと言わんばかりのでっかい宝石だか水晶だかが嵌め込まれている。
魔術師っぽい人はこちらへ近づいてくる。
「ブラウ、待て。攻撃しちゃだめだぞ。あれは、人だ」
たぶん……。
そういえばブラウには言葉通じないか。ブラウが飛び掛かったりしたら、俺にはどうしようもないぞ。
「やあ」
「あ、どうも……」
「いやあすごいね。ギーギルの集団を討伐に向かったパーティがいると聞いて、加勢にやってきたんだが」
ノノル?
俺の後ろに隠れて震えています。やばい感じするよな。
「もう倒しているとは驚きだね。無駄足だった」
なんかすみません……。
「あの……、おひとりで?」
ん? なんかスイッチ入れちゃった?
ニタァ、って、恐い恐い恐いです!!!
「まあね。僕ほど強かったらギーギルの集団の10や20どうってことないんだけどね。強いから。ギルドも僕を呼び出して依頼してくれればよかったんだよ。すぐにでも討伐したのにね。強いから。でも悲しいかな、僕には重大な使命があってこのあたりを離れていたんだ。ふたつ先の街で、盛大なデザートのフェアがあってね。僕はそれを見て見ぬふりなんてできなかった。まさに僕のためのイベントじゃないか。そう思うだろ? 連日連夜僕のための甘味をそれはそれは充分に堪能していたんだよ。ああ……、あのとろける舌触り、体に染み込む濃厚な甘さ、鼻をくすぐる魅惑の香り……! そのどれもが僕を離してくれなくてね。久しぶりにギルドへ顔を出したら、ギーギル討伐の依頼が出ているというじゃないか。これは僕の出番だと思うだろ? 思うよな。強いから。ところが命知らずにもこの依頼を受けたパーティがいるというじゃないか。これは僕が助けに行かなくては、と思うだろ、強いから」
「あっ、あの……っ!」
饒舌すぎる。このまま放っておいたらずっとしゃべり続けるんじゃないだろうか、この人……。
心配していたブラウは、特に攻撃を仕掛けるでもなく、フンッ、と鼻を鳴らしただけだった。
「なんだ?」
話を中断したはいいが、言いたいことがあったわけでもなく。
「あっ……と、その……」
なんでもいい! なんでもいいから言え、俺!!
「いい天気ですね」
カッコーン。
………………見合いじゃないんだから。
「そうだな」
この空気どうしたらいいんだ。早く戻ってきてくれ、ミィウ……!
「ところで僕は崇高にして華麗さを失わず君臨する偉大なる大魔術師のディールなんだが、そこのおまえ、名はなんという」
「ピャッ?!」
急に自己紹介、
急に自己紹介。
急に自己紹介?!
「ピャッ? 珍しい名前だな」
違うんです。びっくりしただけだから。話の展開についていけなかっただけだから。
放っておいたらピャッという名前に決定されてしまう予感が俺の全身を包む。
「違う、違うんです。名前はウォルンで、ピャッじゃないです」
「ピャッでいいじゃないか」
良くないです。