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都市伝説は、本物だった。  作者: 日向神 命
最終章 タダミネアヤカノキョウフ
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フシノジンセイ

「うわあぁぁぁァァァッッ‼︎‼︎」

 突然脳内に大量の記憶がなだれ込んできて、頭がパンクしそうな痛みが俺を襲う。

 強烈な頭痛に苛まれ、頭を押さえて呻く俺から離れた妖香は、

「君を襲ったのはね、たった3回だけじゃないんだよ?」

 そう言って笑みを浮かべた。

 流れ込んできた記憶の一部の映像が、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。

 その中には、俺の小学校時代の友達が、中学校時代の友達が、2年生のクラスだが今のクラスメイトとは違うクラスメイトが、そして都市伝説研究部の顧問だった吉原志信がいた。

 みんな、さっきまで俺が完全に忘れていた人達だった。

 だが今は、その名前も、顔も────彼らの死に様(・・・)も、はっきりと記憶に残っていた。

 俺は何度も何度も周りの人間を奪われ、そのたびに記憶から彼らを消されていたということを知った。

「こんなにたくさん……俺のせいで死んでいたのか……⁉︎」

 気付けば俺の両目からは涙が溢れ出していた。

「君が小学2年生のとき、私は君の力に惹かれて君と出会い、君のことを好きになった」

 妖香が語り始める。

「それから計13回、君と君の周りを襲った。その度に君の絶望の記憶を喰べていたんだ。テケテケのときに君の力が覚醒して、それからは喰べられなくなっちゃったんだけどね」

 13回の事件。今ならそのすべてを細部まで鮮明に憶えている。テケテケのときに俺の力が強まったことも誠の話と一致する。だが。

「待てよ……何かがおかしい……」

 戻ってきた記憶の中には、幼馴染のはずの慧も真名美もいない。子供の頃から一緒にいたはずの2人の存在が、その気配すら感じさせないのだ。

「慧と真名美がいない。だから、この記憶はお前が植えつけた偽物だ」

 そうだ。そうじゃないとおかしい。辻褄が合わない。俺は妖香から送り込まれた記憶を否定した。

「逆だよ」

 しかし彼女は微笑んだ。

「大谷慧と高瀬真名美がいない記憶が本物で、2人がいる記憶が偽物」

「そんなわけない!」

 反射的に俺は叫んでいた。

「でもそれが事実。君が知りたかった、いくつもの真実のうちの1つだよ。君が真実だと思って疑わなかった記憶の、だいたい4分の3くらいは私が植え付けた記憶だったんだよね」

 それを聞いた瞬間、俺の記憶にある幼い頃の真名美と慧の姿が薄れ始めた。

「待ってくれ! なんで消え始めるんだ! お前、いま俺の記憶を奪っているのか⁉︎」

 彼女は必死になって頭を抱える俺の問いに答える。

「力に目覚めた今の君から記憶を奪うことはできないよ。君の記憶が消え始めたのは、それが私の植え付けた記憶であることを知ったから。妖怪である私の力で植え付けられた記憶を、君の力が消そうとしているの」

 こうしている間にも、幼い真名美と慧は薄れていく。高校生の2人の記憶は鮮明なままである。やはり、消えているのは幼い2人の記憶だけ。信じたくないことだが、彼女の言ったことが真実であるという裏付けになる。気付いたら俺は膝から崩れ落ちていた。

「消えるな! 消えるな! 消えるな! 消えるな!」

 薄れゆく記憶になすすべもなく、頭をかきむしり叫ぶ。数本の髪がはらはらと落ちた。だが、自分の力には抗えなかった。


 そして────中学生以前の2人の記憶は消滅した。



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