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都市伝説は、本物だった。  作者: 日向神 命
第3章 ドッペルゲンガーノキョウフ
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ショウタイ

 約束はしたものの、真名美がいつまで逃げ切れるかはわからない。可能な限り早く、黒い少女を倒さないとな……。

 俺は決意を固め、黒い少女の元へと走り出す。彼女はどこを見ているのかわからないが、ずっと口角を上げて笑っていた。

 ナイフを持つ右手に力を込める。陰陽師の力の使い方はわからないが、こうすることで気持ち的に力が強くなったような錯覚に陥った。

「おおおおおおおッッ‼︎」

 叫び、少女の胸元にナイフを突き出した。しかし鈍い音が響き、弾かれる。その衝撃で腕が痺れ、ナイフを取り落としそうになる。慌ててナイフを握る手に力を入れた。

「くっ‼︎」

 どうやらこの身体は、簡単には刃を通してくれないようだ。どうすればいいものか。

 だが、悠長に考えている時間などない。俺は再び同じ場所にナイフを突きつけた。

 再度弾かれたが、今度は少し音が違う気がした。もしかして、何度も同じ場所を攻撃すれば通るんじゃないか。

 3度、4度と同じ場所を突くと、ピシリ、と彼女の身体に亀裂が入った。

「やった!」

 そのままナイフを無理やりねじ込んでいく。すると、今まで何の反応も示さなかった黒い少女が、突然吠えながら身体を振り回し始めた。おそらく、俺を引き剥がそうとしているのだ。

「負けてたまるかッ‼︎」

 振り回される力に必死に抵抗し、ナイフを押し込む手に力を入れる。少女の悲痛な叫びが耳をつんざく。不快感に苛まれながらも、なんとか我慢してナイフを押し込み続けた。

「あァぁァア゛ァああァッッッ」

 少女は頭を押さえて悲鳴にも近い絶叫を上げている。ふと、呪文でテケテケを殺した時を思い出した。

 ナイフが彼女の殻を深く刺し抜いたとき、変化が起きた。それまで力を入れて一生懸命刺そうとしていたのが嘘のように、簡単に根元まで彼女の身体に潜り込んだのである。

 同時に、ナイフを刺した部分から大量にどす黒い血が溢れ出してきた。その温かい液体は俺の体を濡らし、赤黒く染めていく。

 ────やったのか⁉︎

 髪を振り乱して苦しむ少女から少し距離を取り、俺は勝利を疑った。少女の胸元からは有り得ないほどの血が噴出し、屋上の床に血溜まりを広げていく。

 突如、その身体から黒い何かが空に吹き出し始めた。まるで彼女の身体を染めていた色素が抜けていくかのように。真っ黒だった身体はみるみるうちに普通の人間のような色を取り戻した。その顔は、どこか見覚えがあるような、しかし思い出せない。そんな雰囲気を醸し出していた。

 俺がその顔を思い出そうとしているとき、すっかりピンク色になった彼女の唇から、悲鳴ではなく人間の言葉が紡がれ始めた。

「お、、に゛ぃ、ぢゃん、?」

 お兄ちゃん、と、そう言っているのか。

「お、、ま、おにぃ、ちゃん」

 瞳から涙を流しながら、胸元から血を流しながら、彼女が紡いだ言葉は、俺に彼女の顔を思い出させてくれた。

「もしかして、奥真先輩の妹さん……なのか?」

 零宮奥真先輩。都市伝説研究部に所属していて、夏にテケテケに殺されてしまった先輩。一度だけ、彼の妹を見たことがあった。そのときの記憶が蘇ると、彼女の正体が分かった。

 俺の前で胸から血を流しているこの少女は、奥真先輩の妹だったのだ。

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