オクジョウヘ
誠が死んだ。
力を持つ誠が刺したナイフが、何故効かなかったのだろうか。それも人間であれば即死してもおかしくない心臓部分に突き刺したというのに、だ。
「なんでだよ……」
俺は力が抜けて、床に膝をついた。
自分達の力は通じるんだ。そう思っていたからここまで来れたのだ。なのに、ここにきて力が効かない相手が出現した。
効かないなら、戦えない。今の無力な俺と真名美の前に俺達のドッペルゲンガーが出現してしまったら、もう太刀打ちできない。そうなる前にここを離れなければ危険だ。
「はやく……逃げないと……」
俺が真名美の手を掴んで立ち上がり、下へ降りる階段の元へ向かおうとしたとき、真名美が【誠】を指差した。
「待って……。あれ、どこかに向かおうとしてるみたい……」
見ると、【誠】は腕をだらりと下げ、ゆっくりと歩いていた。
その向かう先には、屋上に上がる階段がある。
────もしかしたら、上の方にドッペルゲンガーを産み出す何かがあるのかもしれませんね。
そう言っていた、誠の言葉を思い出した。
「屋上に何かあるのかもしれないよ」
真名美は俺の顔を見つめてくる。
その目は、俺にはやく追いかけようとでも言わんばかりの力強いものだった。
「でも……」
力が効かない相手がまだいるかもしれない。それが俺や真名美のドッペルゲンガーだったら、2人はみすみす殺されに行くようなものである。
俺は躊躇ったが、真名美の表情を見るとそんな考えは無意味だと悟った。
そもそも、ドッペルゲンガーは街中にも現れる。ここから逃げたところで危険なのには変わりない。
「……わかった。追いかけよう」
俺達は【誠】の後を追った。
【誠】は階段を上ると、壊れかけたドアを開けて屋上へと出た。続いて俺達も屋上へ出る。
「あれは……」
屋上には、黒く染まった少女が立っていた。【誠】は彼女の元に向かうと、何やら言葉を発しはじめた。何と言っているのかはわからないが、黒い少女と何やらコミュニケーションを取っているようだ。
何が起こるのかと見ていると、【誠】は黒い少女の胸に吸い込まれていった。
「な……⁉︎」
ここでこの少女に吸い込まれていたから、校内に人影が全く無かったのか────。
驚き、後ずさると、ドアにかかとが当たってギィ……と音がした。
「────ッ」
黒い少女はこちらを向く。そして、にたりと嗤うと彼女は分裂した。分裂、というよりも分身というほうが妥当だろうか。だが2人の顔は同じものでは無かった。
片方の顔はさっきまでいた黒い少女のもの。
もう片方は、なんと俺も見知った顔だった。
それも、今となりにいる────。
「私……⁉︎」
────真名美の顔だった。