マコト
──やっぱり。
このドッペルゲンガーはどこか他の奴らとは違う。
目が合ったときからそう直感していた。
陰陽師の力を持つ僕のナイフが心臓部に刺さったというのに、こいつは消失しない。どうしてかな。まあどうでもいいや。
僕の人生は、ここで終わりを告げる。
「誠‼︎ 逃げろ‼︎」
後ろの方で、優先輩の声が聞こえる。
「もう無理ですよ。僕はここで脱落です」
何故なら、僕の力が及ばない相手に狙われたのだから。
ここで死ぬのが僕の運命だ。
「なんで諦めてんだ────」
優先輩が最後まで言う前に、僕の両腕はドッペルゲンガーに捥がれた。
僕は、こうやって殺されるのか。
何故か、もう痛みは感じなかった。周りの音も消えていく。僕は力尽きて倒れながら、脳裏を駆け巡る走馬灯を見ていた。
僕は陰陽師の本家に生まれた。このときはまだ、両親も兄弟も健在だった。
僕が6歳の頃──10年前に、悲劇は始まる。
父方の祖父母が家の中で死んでいるのが発見された。外傷は一切なく、しかし、内臓はグチャグチャだった。当時の当主とその妻が不審な死を遂げ、屋敷内は恐怖に見舞われた。
その後、屋敷内で家族が何人も死んでいった。バラバラになった姿で発見された者。かろうじて原型がわかる程度に溶けた状態で発見された者。身体中の血が抜かれて発見された者。
1人、また1人と屋敷を出て行き、屋敷内の死亡者数が2桁を越えた頃にはもう、屋敷の中には誰も残っていなかった。僕の両親も、僕を連れて隣町へと引っ越した。
だがその2年後、僕の両親は事故により原型をとどめず死亡。
もはや、呪われているとしか思えなかった。
1人になってしまった僕は、再び屋敷に戻った。屋敷にある古い書物の中には、この呪いを解く手がかりになるものがあるかもしれないと思ったからだ。
しかしすべての書物を読み漁ったが、手がかりになるものはなかった。そもそも、この呪いがなんなのかわからない以上は何も調べようがなく、また今回のような件は今まで1度も無かったため対処のしようがなかったのだ。
僕は生きる気力を失った。
何が僕を襲ってきてもどうすることもできないのだから、すべての事象はなるようになればいい。
災いを避けることができるなら避けよう。
できないのなら諦めよう。
こうして今の僕は出来上がった。
────つまらない人生だった。
来世は、もっと楽しめるといいな。
こうして僕、石田誠の人生が終わった。