ナリカワリ
こいつ──涼太先輩が死んだから、もう涼太先輩に成り代わってやがる。
それを知ると、自分の身体の奥で何かが熱く滾っているような感覚がした。
「殺す────‼︎」
俺は感情に身を任せ、【涼太先輩】に向かって叫んだ。
「『お、おい、優。殺すなんて、何物騒なこと言ってるんだよ』」
尻餅をついたまま、【涼太先輩】がひどく怯えた表情で後ずさる。
「その顔で、声で、もう何もしゃべんな」
俺は、今自分がどんな顔をしているかわからないが、【涼太先輩】の表情を見る限り、おそらくとても冷酷な表情を浮かべていたのだろう。
「『ま、待て優────』」
静止の声を無視して、俺は【涼太先輩】の膝を思いっ切り上から踏み抜いた。
「『うぐぅッ⁉︎』」
【涼太先輩】の脚が、バキッと枝が折れるような音を立てて膝から反対側に────曲がってはいけない方向に折れ曲がった。
痛がり転がる【涼太先輩】を見下ろし、俺は彼のもう片方の足を使えないようにするために足を上げようとした。──そのとき。
「優くんやめてッ‼︎」
突然真名美が後ろから俺の身体を抱きしめてきた。
「また口裂け女のときみたいに殺すの⁉︎ 優くんだってあのとき後悔してたよね⁉︎ それなのに、また同じことをするの⁉︎」
その言葉で、俺は正気に引き戻された。
そうだ。あのとき俺は────ッ。
『────仲間を殺されたからって、こいつを殴り殺して……。これじゃ俺は……ただの人殺しじゃねえかよ……ッ』
自分の後悔の言葉を思い出す。
真名美の方を向くと、彼女の目に浮かび今にもこぼれ落ちそうな涙が光った。
「……ごめん」
俺は囁くように謝ると、真名美の涙を指で拭う。
「『ああああッッ‼︎ 痛いいッ‼︎ 痛いいいッ‼︎』」
しかし、殺すのは止めてもドッペルゲンガーを憎む気持ちが消えたわけではない。
涼太先輩の声で泣き喚くドッペルゲンガーを一瞥すると、俺は提案した。
「……じゃあこいつ、どこかに縛っておくか。放っておいても何もできそうにないけど、一応」
すると誠も、
「そうですね。それがいいでしょう」
スマホを扱いながら賛成を表明する。
「……ところで先輩。これを見てください」
ふと、誠が自分のスマホの画面を俺に見せてきた。表示されているのは、メール画面だ。
「これが何──」
その文面を見て、俺は戦慄した。
「えっ、何が書いてあるの、優くん?」
真名美も誠のスマホの画面を覗き込むと、口元を手で覆って後ずさった。
誠がメールの文面について、端的に言い表す。
「青龍高校で大量のドッペルゲンガーが出現して、大惨事になってるみたいです」




