セツメイ
「誠……? なんでここにいるんだよ……?」
俺の疑問に、誠はいつものごとく淡々と答えた。
「ここは僕の実家ですから、僕がいるのは当然のことです。それより、はやく入ってください。都市伝説について知りたいんでしょう?」
彼のその発言に、俺の腸は煮えくり返っていた。
「じゃあお前……今まで起こってきた都市伝説について、全部知ってて隠してたっていうのかよ……ッ! みんなに話していれば、誰も死ななくて済んだかもしれないのにッ‼︎」
だが、感情的になっていた俺とは対照に、誠の対応は冷静だった。
「その件についても話すつもりです。僕が知っていることは、すべてみなさんに話しましょう」
ともかく彼の話を聞く以外どうしようもないので、俺達3人は屋敷に上がった。
玄関から長い廊下を歩き、左に曲がったところに広い座敷があった。誠は入り口付近で、
「どうぞ、適当にその辺りで楽な格好で聞いてください」
と座敷を指差すので、中に入ると俺は胡座をかき、真名美と涼太先輩は正座した。
すると誠は障子を閉めて座り、話し始めた。
「では、まずこの家のことについて話しましょう。この家は陰陽師の末裔です──とは言っても、妖怪を滅したり悪霊を祓ったりするような全盛期の陰陽師のようなことはできません。ただ細々とその力を継承し続けていて、力を受け継いだ者は人には見えないものが見えたり、怪異を呼び寄せてしまったりします」
ちょっと待て。いつもの抑揚のない話し方だから口も挟めなかったが、なんだ、このカミングアウトは。
なんだよ陰陽師の家系って。なんだよ力って。いや、そんなことより誠は重大な事実を突きつけてきたはずだ。
怪異を呼び寄せてしまうってことは、まさか───
「今までの都市伝説は、お前の力のせいで起きたってことかよ……⁉︎」
俺の問いに、誠は答えた。
「いえ……。テケテケも、口裂け女も、そして今回のドッペルゲンガーも───」
次の瞬間、誠は俺にとって最悪な言葉を投げかける。
「───呼び寄せたのは、あなたの力なんですよ。篠崎優先輩」
雷を受けたような衝撃だった。
俺が呼び寄せた……? ということは、みんなが死んだのは俺のせいだっていうことか……?
「優先輩。あなたは僕よりもずっと強大な力を受け継いでいる。あなたの家系も、陰陽師なんですよ」
驚きのあまり、思考が追いついていない。つーか、俺の家系が陰陽師だなんて聞いたこともないぞ。そもそも俺の家族は奇妙な死を遂げて───。
と、そこで気付いた。
「俺の両親も祖父母も、その力によって妖怪を呼び寄せてしまって、不気味な死を遂げた……ってことか……?」
「そういうことです。そして、僕達が襲われた原因ですが、何故だかあなたの力は2ヶ月前、異常なほどに跳ね上がった。結果、テケテケを呼び寄せてしまったんです。これが今年最初の────」
「ちょっと待って」
誠の話を、涼太先輩が遮った。
「さっきから気になってたんだが、『テケテケ』ってなんだ? 僕達は口裂け女とドッペルゲンガーにしか遭ってないはずだけど……」
「あ、それ私も思ってたんだよね……」
真名美も涼太先輩に同意する。
そうだ。これも気になっていた。
誠はテケテケのことも言っていることから、誠にも記憶が残っていることがわかる。つまり、俺と誠だけは記憶の改竄が行われていないのだ。
気になるのは、真名美や、涼太先輩が4人のことを綺麗さっぱり忘れていることだ。
もしかすると、クラスの人達やマスコミが全く騒いでいないことも関係しているかもしれない。
「それはおそらく、何らかの妖怪によって記憶消去が行われているからです」
と、誠は答えた。
「その妖怪の正体は分かりませんが、僕と優先輩だけがテケテケのことを憶えていることから、妖怪が皆の記憶を消しているが、僕達は力によって記憶が護られているのだろうと推測しています」
さすがにこれだけ多くのことを知っている誠も、記憶を消す妖怪のことは知らないようだ。だが、テケテケに殺された4人のことを憶えている人が俺以外にもいて正直嬉しかった。
「なあ、誠──」
俺が口を開いたとき、外の方から物音がした。
最初は玄関の戸が開く音。そして、ギシッ、ギシッという床を踏む音。それは段々近づいてくるようだ。
「誠、今日お前の家族には誰とも会ってないけど、お前って家族は健在?」
おそるおそる誠に尋ねる。もしかすると俺のように誠の家族は亡くなっている可能性があるので少し躊躇いながら、という理由と、もしその場合この足音は誰だろうという恐怖によるものから、俺の声は震えていた。
「あなたと同じく、既にみんな死んでますよ」
こんな状況にも関わらず、誠は冷静に、淡々と質問に答える。
「じゃ、じゃあこの足音は……誰……?」
真名美は恐怖ゆえに目に涙を浮かべながら後ずさっている。
足音は、この部屋の前で止まった。
緊張して口の中に滲み出てきた唾液を、喉を鳴らして飲み込む。
ガラッ──と、襖が開けられた。
そこに立っていたのは────
「僕……⁉︎」「「涼太先輩……⁉︎」」
────涼太先輩だった。