ハイブノキケン
私立青龍高校――――100を超える部活と、低得点で入学できる事で有名なこの高校に、俺の所属する都市伝説研究部がある。
都市伝説研究部は、もともと、都市伝説について調べ、2ヶ月に1回新聞を発行して掲示したりしている部活だった。が、現在はただ部室でダベっているだけの部になっている。
しかも、顧問である吉原志信先生が放任主義のため、注意する者はほとんどいなかった。
今日までは。
俺の名前は、篠崎優。2年B組で、都市伝説研究部の部員だ。
今日は7月31日、つまり、夏休み中である。本来、都市伝説研究部は夏休みに部活をする予定などなかったのだが、現在、俺を含む部員全員が都市伝説研究部の部室に集まっていた。
「何で来なきゃいけないのさー?」「めんどい……寝る」「うひょーっこれすげぇー!」「あんたまたエロサイト見てるの?」「うわーまじ引くわー」「つーかなんで呼び出されたんだ?」
ワイワイガヤガヤと表現できるほどに騒がしいこの部室は、人が密集していて暑かった。ここに居るのは10人だけだが、真夏に閉め切った部屋に居れば人数など関係なく暑いものだ。
暑さを回避するために部室を出ようとして、ドアノブに手をかける。
俺がドアノブを引く瞬間、向こうからすごい勢いで押された。もちろん、そこにいた俺はドアに顔面を殴られ、倒れる。
「痛ってええぇっ!!」
部室に居るみんなが一斉にこちらを見た。
「あ、なんかスマン」
廊下から入ってきた人物が、後頭部をかきながら軽く会釈して通っていく。
なんかスマン、じゃねーよ! いきなり開けんな!
と言いたいところだが、そうも言えない。何しろ相手は吉原先生で、しかもいつになく真剣な顔をしているので、言葉がのどを通らない。こんな真剣な顔は初めてかもしれない。
「今日お前らを集めたのには、ちゃんと理由がある」
普段の吉原先生ならば、ここで文句の1つどころか10は出てくるのだが、みんなも吉原先生の顔を見て何事かと思ったのだろう。真剣に話を聞いていた。
「生徒会から『8、9月中もこのままの状態なら廃部にする』と警告されたからだ」
「は…………廃部!?」
部室内がどよめく。
「そうだ。廃部にされないようにこの2ヶ月だけはがんばってくれ。俺も出来る限り手伝ってやる」
先生……そんなに俺達のことを考えて…………
「ここが廃部になったら俺がタバコ吸ったりサボったりする場所が無くなっちまうからな」
そういうことだろうと思ってたよっ! 少しでも先生に感動した俺がバカだった!
言い忘れていたが、今も先生はタバコを吸っている。おかげで煙臭い。あれ? ていうか、普段あんたここに来ないじゃん!
「つーわけで、まあ、がんばれ」
さっき手伝うとか言ってなかった!?
「俺は用事がある」
なんだ、そういうことか。それなら――
「最近睡眠不足でな」
――よくねぇっ!! 寝ることは用事とはいわねぇ!
先生は廊下に出て、ガチャン、と扉を閉めた。
「……よし。じゃあ部活やるか」
部長の明智涼太先輩が言う。
そしてまずは、学校のいたるところに『都市伝説に関する話募集』みたいなことを書いた紙を貼った。
それから2日後。誰も来るはずないと鷹を括っていた俺達のもとに、1人の生徒が訪れた。
その子の名前は多田峰妖香。
その相談を受けた俺達は、後で後悔することになる。