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都市伝説は、本物だった。  作者: 日向神 命
第2章 クチサケオンナノキョウフ
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カンビョウ

 怒りのままに口裂け女を殺してしまい、精神が崩壊しかけていた俺は、涼太先輩によって家まで運ばれた。そして疲労状態のまま何時間も雨の中にいたせいか、風邪を引いてしまった。38.9℃の熱が出てしまい、動くこともままならないほどきつかった。まあ2日間休めばほとんど回復し、おそらく明日からは学校に復帰できるだろう。

 昔からそうなのだが、俺はなぜか傷や病気の治りが少し早い。早いと言っても、普通なら治るまでに4日かかる傷が3日で治るとか、普通なら1週間で完治する病気が5日で治るとか、その程度である。

 なので特に気にしたこともないし、誰かに話したことも無い。

「優くーん。おかゆ持ってきたよー」

 部屋のドアが開き、丸いおぼんを持った真名美が入ってきた。ボウルのような形の器には、彼女の言ったとおり湯気が出るおかゆが入っている。

「ありがとう真名美。でも、もうほとんど回復してるから大丈夫だよ。俺の面倒見てないで、自分のことしろって」

 そう。真名美は、俺が熱を出したからって学校を休んでずっと看病してくれている。定期的に額の上にのせたタオルを換えてくれるし、消化のいいご飯を作ってくれる。ほんと、真名美はいいお嫁さんになるよ。

「はい、あーん」

 スプーンでおかゆをすくい、俺の前に持ってくる真名美。

「あーん……って、出来るか! このおかゆアツアツじゃねーか! 火傷するよ、俺!」

 それに恥ずかしい。誰も見てる人がいなくたって、そんなことできない。

「じゃあ、ふぅふぅしてあげよっか?」

「いやいやいや自分で食べるから! 食べれるから!」

 そんなことされたら恥ずかしすぎて死にそうだ!

「そう……」

 真名美は少し悲しそうな顔で器にスプーンを戻した。

 僅かな沈黙。

 そして俺は、重たい口を開く。

「あ、えっと、明日から学校行けると思うから。2日間、ありがとな」

 居心地が悪いので、話を変えようと思ったのだ。

「え、でも……」

 俺から目を逸らし、真名美は少し言い淀んで、続ける。

「私、まだ……」

 途中ではっと何かに気付いたように止まり、ギュッと拳に力を込めてこちらに向き直った。

 そして――――

「……ごめん……。優くん……」

 突然の謝罪に戸惑う。なぜ真名美は俺に謝るのだろう。

「私、優くんの看病を学校に行かない言い訳にしてた。ずるいよね……。先輩たちが殺された場所に行きたくないからって、優くんを言い訳に使ってたの……」

 そうか……。それで学校に行きながらでも看病は出来るのに、休んでたんだ。

 そういえば、慧が殺されてから何か月かはあの道を通ろうとしなかったな……。それも同じ理由だろう。

 でも、別にいいんじゃないのか?

 そこにどんな理由が隠れていても、俺からすれば看病してもらったという事実に変わりはないのだから。

「俺は看病されただけだ。理由とか言い訳とか関係ない。……とにかく、ありがとう」

 そう言って、俺は優しく微笑んだ。

 真名美の濡れた瞳が俺を見つめる。そして、ゆっくりと桜色の唇が動いた。

「優くん……」

 涙目で上目遣いの真名美を見て、照れ隠しなのか頬をかきながら俺は言う。

「あ……その……。明日……学校サボらない?」


  ■  ■  ■  ■


 翌日。

「優くんとここに来るのって、久しぶりだね……」

「そうだな、2年ぶり……ぐらいか? 確か、最後に来たのが中学校を卒業したときだったよな?」

 俺と真名美は、遊園地に来ていた。どこに行きたいか訊いたら、真名美が遊園地と答えたからだ。

 真名美の元気を取り戻すため、という名目で学校をサボって遊ぶことを提案したが、実は俺が遊びたかっただけらしい。少しテンションが上がっているようだ。

 最初はあまり元気のなかった真名美も、色々なアトラクションに乗るうちに笑顔が戻っていった。

 ジェットコースターで俺が酔ったり、コーヒーカップで真名美がぐるぐる回しまくったり、お化け屋敷で怖がる真名美に抱き付かれたり。そんなことをするうちに、夕方になった。

「最後に、観覧車に乗ろうよ」 

 そう真名美に誘われ、観覧車に乗った。

 観覧車がゆっくりと上がっていく。今日は平日なので元から人は少なかったのだが、それより人が減って、何も乗せずにアトラクションだけが動いている様は、どこか寂しく感じた。

 まるで、俺たち以外の人間がいなくなったかのように錯覚するほど、まわりは静かだった。

「見て見て、すごく高いよ~」

 夕日のせいか、真名美の頬はうっすらと紅潮しているように見える。

 外の景色を眺め、子供のようにはしゃぐ真名美を見て、俺はほぼ無意識に呟いた。

「慧や、他のみんなとも一緒に来れたら良かったのにな……」

 言ってすぐに、無神経なことを言ったと後悔した。今は死んだ仲間のことを口に出すべきではなかった――――と。

 てっきり真名美は無理に笑って「そうだね」と返してくるだろうと思っていたのだが、次の瞬間、真名美の口から出た言葉は、予想だにしなかったものだった。



「慧……? それって、誰かの名前だよね? 誰?」



 閉園が近づいているというアナウンスが聞こえた。

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