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都市伝説は、本物だった。  作者: 日向神 命
第2章 クチサケオンナノキョウフ
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オトリサクセン

「2階に下りよう……!」

 誰が言ったか分からないが、とにかくあの女から逃げるために階段を下りた。

 階段を下りたら廊下を走って2年4組の教室に入り、廊下側の窓とドアを閉めてからその場にへたり込んだ。

「何なんだあの人は……」

 耀人先輩が呟く。 

「鎌を持っていたからとりあえず逃げたけど……」

「まだ上にいるのかなぁ……」

 続いて涼太先輩、紅葉先輩が言う。

「先輩、こんな所で休んでいるよりも、早く学校から出ましょうよ」

 俺が立ち上がると、涼太先輩は俺の手を掴んだ。

「待って。今はまだじっとしておいたほうがいい」

「なんで――」

 カツン……カツン……。

 ハイヒールの音だ。この階に下りてきたのか……。

「隠れてやり過ごそう」

 小声で囁き、涼太先輩は机の影に隠れた。

 ほかのみんなも同じように隠れる。

 カツン……カツン……。

 音は次第に大きくなっていく。同時に、自分の心音も大きくなっていくのがわかった。

 心臓の音が聞こえたりしないだろうか……。

 だが、俺の心配は杞憂に終わり、そのまま音は小さくなっていった。

「よし、出よう」

 ドアの近くに行って涼太先輩が立ち上がり、手招きをする。

 俺達も立ち上がり、ドアの方へと向かう。

 ガラッとドアを開けると、そこには、いた。

 

 ――――鎌を持った、大きなマスクをしているあの女が。


「「「わあああああああっ!!!?」」」

 驚いて尻餅をついた俺達に向かって、女は言った。

「私、キレイ?」

 と。

 その声音は、ちょっと化粧してみた女の子が言ってくるようなものではなく、背筋が凍るようなものだった。

「私、キレイ?」

 反応しない俺達を見下ろし、女はもう一度繰り返した。

 キレイ……って、まあ一応整った顔立ちではあるが……。

 だが、この問いかけ……もしかして、あの都市伝説の……?

「き……綺麗……ですよ……」

 震えながら真名美が答えた。

「バカ――――」

 それを言ったら……。

 女はゆっくりとマスクをはずし、その耳まで裂けた口で言った。

「これでもぉ……?」

 ニタァ……と嘲笑わらい、女は――


 ――口裂け女は、鎌を振り上げた。


 俺達の中で、一番口裂け女の近くにいるのは涼太先輩だ。

 口裂け女は涼太先輩めがけて鎌を振り下ろす。

「うおっ――と!」

 涼太先輩は横に転がって避ける。

 鎌はドスッと鈍い音を立てて床に突き刺さる。

「っぶねぇー!」

「今のうちに逃げよう!」

 口裂け女の方を見ると、床に刺さった鎌が抜けないのか、鎌を掴んだまま動かない。

 そう、今がチャンスだ。

 俺達は身を起こし、立ち上がる。

 そして教室の後ろのドアに向かって走り出す。

「よし! このまま学校の外に出よう!」

 ドアを開け、廊下に出た――そのとき。

 ガン! と音がした。

「チッ……あいつ、鎌を抜きやがった」

 後ろを確認した耀人先輩が舌打ちと共に声を漏らす。

 たぶんあの音は、抜いたときの勢いでドアか何かにぶつかった音だと思う。

「ちょ……涼太君! 何でそっちに……!?」

 唐突に紅葉先輩の声が聞こえた。足は止めずに後ろを見ると、なんと、涼太先輩が口裂け女の方に向かって走っていた。

「僕が囮になる! みんなはそっちから逃げろ!」

「何言ってんだよ涼太! あれは妖怪だ! 死ぬぞ!」

 耀人先輩が叫ぶ。

「大丈夫だ! 見た感じ、こいつは人並の力しか持っていない! 何とかなるはずだよ!」

 何とかなるったって……。

 涼太先輩は口裂け女の横を通り、そのまままっすぐ走る。

「こっちだ口裂け女!」

 口裂け女は呼ばれた方を向き、走り出した。

「耀人先輩! 助けに行きましょうよ!」

 真名美が立ち止まるが、耀人先輩は首を振った。

「あいつの言うとおりにしよう」

「何で……!?」

 真名美は分からないらしいが、俺には分かった。

 涼太先輩の覚悟を、無駄にしてはいけないから。

 王道少年漫画とかによくある話だが、これは現実の人間でも思うことだとはじめて知った。もしかすると、自分が生き延びるために涼太先輩を見捨てようとする気持ちを正当化するための言い訳かもしれない。

「行こう真名美。涼太先輩を信じるんだ」

 言いながら真名美の手を握ると、ギュッと握り返してきた。

「……うん」

 そして俺達は、階段を下りた。


  ■  ■  ■  ■


「意外と……足速いな……」

 息を切らしながら、明智涼太は校内を走っていた。

 今いる場所は、南校舎の3階。ちなみに、先ほどまでみんなといた場所は北校舎の2階だ。

 何故こんな場所まで来ているのかというと、口裂け女を少しでもみんなから遠くにおびき寄せるためだ。クラスでも自分の足は速いほうだと自信を持っていたので、涼太は自ら囮役を買って出たのだ。

 ――そろそろみんな逃げただろうか?

 涼太はすでに、逃げる算段をつけていた。

 階段を3、4段ジャンプで下り、2階の中庭側の窓を開けてひさしの上に出る。

 この庇からなら中庭に飛びおりても怪我をしないのだ。

 2年のときに自分で試してみたことがあるので確実だと言い切れる。

 そして彼は、飛び下りた。

 綺麗に着地し、怪我一つ無く下りる事に成功した涼太は、2階を見上げる。

 口裂け女が来ると思っていた。

 だが、いつまで経っても口裂け女は追いかけて来なかった。

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