ジョショウ~クチサケオンナノキョウフ~
視界に入ってきた光景に、俺は目を剥いた。
口裂け女は、その手に持った鎌を死体に振り下ろしているのだ。
何度も。何度も。
綺麗だったはずの顔は、すでに原型がないくらいにグチャグチャになっていた。
人間の頭部だけであんなに血が出るのかというぐらい大量の赤黒い血溜まりの中に見えるのは、ピンク色の細長い脳みそのような物や白い欠片――頭蓋骨の欠片だろう――、あとは何なのか分からない赤い肉の塊が落ちている。脇に転がった眼球がぎょろり、とこちらを見ているようで不気味だ。もう1つの眼球は見当たらなかったが、月明かりで光った瞬間、血塗れの鎌の先端に突き刺さっているのが見えた。
口裂け女が鎌を振り下ろしたときに眼球はバシャッと潰れ、液体や薄い膜が飛び散った。
肉は抉れ、血が弾け、骨が砕けていく。それでも、手を止めない。
「も……もう、やめろよッ!! やめてくれ……ッ!」
遺体の顔が形――土台すらも失うと、口裂け女は体にも鎌を突き立てる。
血の染みた服が破れ、白い肌に突き刺さる。深々と刺さった鎌を抜くと、皮膚が大きく裂け、内臓が引きずり出される。
そうやって10分も立たないうちに、原型も残さないただの肉と骨と血と臓器が入り混じった塊になった。
人どころか、生き物にすらも見えないその塊をグチャリと踏みつけ、口裂け女はこちらに歩いてくる……。
あれから2ヶ月経った秋。
またしても、都市伝説が俺達を襲う。