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8:部落に

 沢の水は、南の大陸でも冷たくって美味しかった。革袋にたっぷりと補充して、あと少しと言う部落を目指す。狗畜生や豚化物が、いつ来てもいいように油断だけはしないで。

「見えて来た」

「本当ね。フォクスリングの部落も、大陸が違うと、作りがまるで異なってるのね」

「やはり草ぶきか」

 思いおもいのつぶやき。

 視界が開いた部落は、キッポの生まれ育った部落とは全然違って、葦色をした草ぶきで建物が作られている。聖堂があるのはどこも同じようで、中央部に立派な、木製の建物があった。畑が代わりに無く、果樹の森が聖堂の隣に広がっているようだ。

「旅をしております、ドルイドです。老師にお会いしたいのですが」

 キッポが大きな声で言った。一番手前の家屋から、窓越しにフォクスリングの顔が見えた。びっくりしている。家を出てくれて、こちらの方まで来てくれた。

「まああ、珍しい。旅をしておるんかい?」

「はい。北の大陸から参りました、ドルイドのキッポと申します」

「ドルイド。じゃあウチの先生たちと一緒だねえ。今案内すうよ。遠くから来てくれたねえ。きっと先生も喜ぶだろうになあ」

 中央部の聖堂に案内された。どこの部落でも、聖堂は中心地に建てられるらしい。

「先生。旅をしてんる、若いドルイドさんだよお」

「どうぞ。入って頂いて」

 しわがれた、老いた者特有の声。

「さ。入ってくださいなあ」

 少しある訛りが、異国の部落だと言うことを感じさせる。キッポを先頭に、玉のれんをくぐった。やはりここも、香がたかれている。しわの深いフォクスリングが、目を細めて微笑んでくれた。しわに埋まって、ほとんど目が見えなくなる。

「ようこそ。宝珠の波動を感じます。『薫り高き宝珠』ですね。手にするまで、大変な困難を乗り越えたことでしょう」

 さすが。波動でキッポが持っている宝珠を当てて見せた。

「おっしゃる通りです。北の大陸から参りました、キッポと申します。こちらのルカス、リムノに、ドルイドの旅を手伝ってもらえました」

 わたしとルカスはアタマを下げる。

「人間様。ありがとうございます。北の大陸からお越しなんですね。他の部落からドルイドや人間様が見えること、何年ぶりでしょうか……。キッポさん? そちらの大陸では、どのような出来事がありましたか?」

 キッポは、色の黒いフォクスリングが暗躍していたこと、代表格のチップルと戦い、宝珠を手にしたこと、今は問題も無く落ち着いていることを、端的に伝えた。こんな時のキッポは、とても大人びて見える。わたしたちの前では、まだまだ幼さも抜け切れていないキッポなのに。

「そんなことがありましたか。情報、ありがとう。では、この部落のお話しをしましょうか。最近とみに、狗畜生と豚化物が出没しています。森の木々は落ち着いていますが、こんな頻回に現れることは、ここ数年来、有り得なかったことです」

 一旦ことばを切る。

 まただ。

 またルカスが、どこか遠くを見るような表情になり、下唇をきつく噛んでいる。

「ドルイドの資格を持つ者を、調査に向かわせていますが、有力な情報は得られていないのです。様子を探るためと被害が広範囲に渡っていないか、高原まで派遣させるべきかを考えていたところでした」

「老師」

 びっくりした。ルカスがいきなり切り込んで来るんだもの。

「はい。何でしょうか?」

「その調査、私たちにもさせて頂けないでしょうか。私は昔、高原で暮らしておりました経験があります。多少なりとも、この地の利は理解しているつもりでおりますが……」

 さらに目を細めた老師は、

「お申し出、ありがたく頂きましょう。高原へ行ってくださいますか?」

「リムノ、キッポ。いいか?」

 ルカスの問いかけに、

「わたしは平気。キッポはどうなの?」

「ボクもいいよ。今回はボクの部落探しもあったけど、叶ったしね。ルカスの旅に付き合うよ」

 キッポも快諾した。でも。

 ――ルカス、何か他に知っていることがあるのかしら? 少し様子が違うけど。

「高原で師匠の元、剣技を学びました。安否は分かりませんが、そこを目指したいと思います。時は流れましたが、師匠とも再会したいですし」

「承知致しました。ドルイドの1人として。宜しくお願い致します」

「行く? ルカス?」

 キッポがルカスを見上げる。

「ああ。リムノ、巻き込んで済まないな」

「わたしは大丈夫だって。ルカスの旅をしてよ。そのためにプラチノへ来たんだから」

 本当のこと。わたしだって、帰郷に付き合ってもらったんだもん。仲間の旅をすることは、計らずともわたしの旅につながる。

「では、老師。さっそく行って参ります」

「キッポさん、人間様。宜しくお願い致します」

『はい』

 揃って答えた。さあ、いよいよアルプラチノ高原だ。狗畜生と豚化物には気を付けなきゃいけないけど、わたしはさっき使った魔道で、多少なりとも自信を持てた。

大丈夫。

わたしの魔道は実戦レベルだ。――実戦は、出来ることなら避けられるに越したことは無いんだけど。


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