7:戦闘!
森の中に入って来て。強いオヒサマを葉っぱが隠してくれるから、いくらか歩きやすかった。でも、湿度が高い。生き物たちのむせかえるような臭いと力強さ。今までの森とは、やっぱり違うのね。南の大陸だと言うことを、カラダ全部で知る思いだ。
ルカス、キッポ、わたしの順で、細い道を進んで行く。
「もう少し進むと、沢があるはずだ。そこで休憩しよう」
「うん」
「お願い」
ことば少なく返事をする。斜面が次第にキツくなって来て、わたしは体力のほとんどを使っているようなありさまだ。ルカスもキッポも、平気な顔をしてるのに。魔道士の仕事はアタマを使うこと。そうとでもイイワケしないと、自分が情けなくなって来る。はあ。
「待って! 来るよ!」
キッポが大声を上げた。驚いた小鳥たちが逃げて行く。
「異形生物か!? ――オレにも分かった! ったく。数が多いな」
「え? え!?」
わたしだけ感じられない。でも、危険が迫っているのね!? さあ、しっかりして! 魔道書で覚えた構造式を、今使うの! わたしたちは立ち止って、油断無く周囲に向かって構えた。――わたしにも分かった。鼻が曲がりそうな臭い。シワタネで経験したゾンビーとはまた違う、生きている腐敗臭。狗畜生だ。棍棒を手にして、いつしかわたしたちを取り囲むように迫って来ている! でもでも! やっぱり魔道の額冠はリミッターカットされていないわ! こんな時が危機じゃ無くって、いつが危機だって言うのよ~!
――ガルル!
その唸り声と同時に、狗畜生が襲って来た。ルカスが一気に3匹、なぎ払って倒す。キッポもハルバードを突き出し、わたしの目の前に来た狗畜生を倒してくれた。わたしも負けてはいられない。初めて使う、覚えたての魔道だけど、こんな場面では絶対に使えるだろう。黒魔道の『困惑心情』を発動させた。連続して『小昏睡眠』も。やった! どちらも成功している。狗畜生たちの動きがおかしくなり、互いに争い出したり、ばたばたと眠りに落ちて行くようだ。残った狗畜生は分が悪いとそれでも感じたのか、先を争うように逃げ去って行った。勝った!
「――ふう。リムノ、さっそくお手柄だったな」
鞘に長剣を滑らせ、ルカスが言ってくれた。
「すごいね。狗畜生たちがお互いに戦ってたよ」
キッポも。照れくさいけど嬉しいのも事実。
「初めての魔道だったけど、成功して何より。それにしても狗畜生って、ものすごく汚らしいのね。数が多かったから、どうしようかと思ったわ」
近寄られたら、と思うとぞっとする。
「アイツら、畑の作物なんかを盗んでめちゃくちゃにして行くんだ。許せないよ」
再びキッポが立腹。わたしはそれで思い出した。
「キッポ。部落はありそうなの? 狗畜生がよく出るってことは、襲うべき村や部落があるんじゃない?」
ルカスもうなずいた。
「そうだね。――ちょっと待ってて」
ポケットから宝珠を取り出したキッポは、高くかざした。
「ドルイドとしてお願いします。もし近くに、襲われたことがあった部落があれば、教えてください……。了!」
キランと輝きが。眩しい。木の葉越しの光と混ざり合う。
「――分かった。もうちょっと南寄りに、小さいけど襲われたことが何回もある、そんな部落があるって」
「良かったじゃない!」
「そうだな。とりあえず今のところは大丈夫なら、向かおう」
わたしとルカスは口々に言った。これでキッポの目標も、一歩進むことになるわ。
「おっと。その前にちょっと休憩しよう。リムノが疲れてるだろ」
「そうだね。あれだけの魔道を連続して使ったんだから」
ルカスとキッポの気遣いが嬉しい。疲れていたのは事実だったから。
「ありがとう。のどが渇いたわ。ルカス。沢がある方角って、キッポの言っている部落の方なの? だったらその途中で休ませてもらいたいんだけど?」
「そのはずだ。オレたちは、ほとんど南へ向かって歩いてる」
「じゃあ、その沢まで頑張る。お願いね」
わたしたちは再び歩き始めた。下草の旺盛な生命力で、細い道はほとんど隠れてしまっている。ルカスとキッポがいなかったら、出身者と森の民がいなかったら、道を踏み外してしまうだろうな。
休憩させてもらったら。あと一息頑張りましょう。