6:高原への道
「こちらから歩いて頂くことになります。長らくのご乗車、ありがとうございました」
御者さんに、そう見送られた。丘陵地帯と森林地帯が混ざり合ってる場所。街道から細い道が、ゆらゆらとまばらな林の中へ消えている。ここからアルプラチノ高原へ入って行くのね。ルカスをふと見やった。口をぐっと閉じ、何かを考えてるみたい。話しかけられる雰囲気じゃ無かったから、わたしも口をつぐんだ。キッポが嬉しそうに、くんくんと林の匂いを嗅いでいる。これで部落があるか、分かるのかもしれなかったわね。
「どう、キッポ?」
「まだ分かんない。でも、葉っぱがみんな、『嬉しい・楽しい』って言ってる。平和なところなのかもしれないね。あ。でも、『用心して』とも言ってるなあ。何に用心すればいいんだろう? ――ちょっと待ってて」
キッポはポケットから、険しい道のりを経て手にした宝珠を取り出した。一人前のドルイドの証。キランと光が一回転した。
「教えてもらえた。『狗鬼畜と豚化物に気を付けて』、だって。ちょっと困るなあ。出て来たら相手はするけど」
「わたしも魔道を使うわ。ねえ、ルカス。――ルカス?」
「ん? ああ。悪い。ちょっと考え事してた。キッポ、分かったのか?」
「うん。とりあえずどんな異形生物が出て来てもいいように、気を付けて、って教えてもらえた」
「そうか。そうだな」
ルカスの様子がちょっとヘンだった。これは後になって分かることなんだけどね。この時のわたしもキッポも、想像出来なかったこと。
「ルカスに任せるわ。馬車はここで停まったけど、この道でいいのかしら?」
「ああ。間違い無い。この林の中への道が、高原に続いてる」
「物騒かもしれないけど、気持ち良さそうなところだよ。木々が生きいきとしてるもん」
そんなことまで分かるのね。これで部落が見つかれば、キッポの旅も少し進んだことになるもの。どうか見つかって欲しいわ。
「よし、行くか。キッポ。部落の気配がしたら、すぐに教えてくれ」
「うん」
わたしたちは、用心だけは怠らないように道を進み始めた。