5:馬車にて
今回は、ゆっくり静かに走る馬車。馬車運にツイていないわたしたちだったけど、今度は当たりね。車中でも魔道書を開くことが出来るもの。構造式と特性。逆魔道。アタマに叩き込んで行く。あとは実戦になった時、どれだけ落ち着いて発動させられるかだ。そんなことは避けたいけどね。でも、備えは万全にしておかなきゃ。
「リムノ。お勉強難しい?」
「うーん。しばらくの間、魔道書からは遠ざかってたからね。ちょっと苦戦中」
キッポに答える。事実だった。魔道の額冠は、
『脳裏で探る』
ことで魔道を発動出来たけど、今回は、
『脳に覚えさせる』
ことだからね。集中力が低下しているのは否めない。ふと外を見た。いつの間にか、だいぶオヒサマが傾いている。今夜も車中泊ね。窮屈だけど、贅沢は言えないし。ルカスが、
「この辺は安全なはずだが。一応準備だけはしといてくれ」
「危険もあるの?」
裏を返せばそう言う意味だろう。わたしは訊いた。
「オレがいた時は。山賊とか追いはぎじゃなく、狗鬼畜がよく出た。数で勝負されるからな。念のためだ」
うあー。また危険フラグですか? 何でわたしたちって、こうも巻き込まれちゃうんだろう? そんなことを考えていたら、少し丘陵地帯になっている草原で、馬車がゆっくりと止まった。
「こちらで本日は泊ります。お客さま方、宜しくお願い致します」
御者さんが言った。乗客はわたしたち3人だけだったんだけどね。
「狗鬼畜。ボクたちの天敵だよ。何でも奪い取って行くんだ。許せない」
キッポが立腹。そうね。狗鬼畜は草原や森で暮らし、略奪と殺戮を繰り返している、大まかにくくればそんな異形生物だ。幸いなことだけど、わたしは実物には出会っていない。書物での知識のみだ。
「出ないことを祈りましょ。とりあえず、わたしの勉強はおしまい」
魔道書を閉じ、バックパックにしまった。無意識のうちに、額冠へと手が伸びる。これがリミッターカットされないといいんだけどな。そんな事態は避けたい。
でも。
きっといつか、使うことになっちゃうんだ。わたしたちの旅って、タイミングばっちりで何かに巻き込まれて、苦戦するの。だいたい分かって来た。そんな『運の星』の元に生まれ付いてるんだわ。あーあ。
おっと。ルカスが携行食品を出している。今日もウサギ肉の燻製か。焦げくさくって、あんまり美味しく無い。贅沢は言えないけど。キッポがさっそくがっつき始めた。おなかがすけば、ガの幼虫だって食べちゃうキッポだ。どんな食べ物でもご馳走に違いない。わたしも食べよう。