3:南の大陸
暑いのねー、南の大陸って。
ハルサを旅立った時は初冬の気候だったのに、マントなんて暑くって着ていられない。早々に脱いじゃった。
プラチノの港は、わたしから見ても異国情緒にあふれていた。男性も女性も生成りの頭衣を着ていて、強い陽射しから身を守っているみたい。やはり港街は喧騒に満ちていて、見たことの無い果物や、衣類・お酒なんかの露店が、あちこちに広がっている。
「アルプラチノ高原って、やっぱり馬車で行くの?」
船旅の間、わたしとキッポは、どうしてルカスが南の大陸に行きたいのか、どうして東方の文化を引き継いでいるのに、南の大陸に詳しいのか訊いてみた。ぽつりぽつりとルカスが話してくれたことによると。
かつてルカスは、アルプラチノ高原で暮らしていたことがあるとのことだった。まだ若かりしころのことで、剣の技もそこの師匠から教授されていたらしい。東方を身一つで旅立って、あてども無く渡り歩いていたころの経験だそうだ。師匠の安否までは、時が流れ過ぎていて分からないけど、頼るのはそこしか無い、とも。ルカスにとって、郷里同然なのだろう。わたしが師匠の元で暮らしていた村のように。
「ああ。途中までだけどな。そこから先は山歩きになる。山の中に、もしかしたらフォクスリングの部落があるかもしれないな。オレがいたころには、気にも留めていなかったんだが」
わたしの問いに、そう答えてくれた。山歩きか。体力勝負になるわね。でも、山の中に部落があるとしたら、キッポの目標も叶えられる。
「じゃあ、気を付けながら進むよ。この大陸、ずっと南の部落って、どんなふうに作られているのか、ボクにもわからないけど」
ハルバードを握り直したキッポが言った。これでフォクスリングの部落が見つかるといいわね。それにしても暑い。バックパックの中からタオルを取り出し、流れる汗を拭った。ルカスは慣れているためか、キッポはフォクスリングの特性がそうさせているのか、2人とも平気な顔をしている。あ、そうだ。
「ルカス。プラチノにギルドって無いの?」
本格的な冒険の旅を始める前に、出来れば魔道書を手に入れておきたい。
「これだけの規模があるからな。揃ってる。寄るか?」
「そうして。いい加減、魔道書から勉強をしないと、アタマが働かなくなっちゃう」
魔道の額冠に頼りっ放しで旅をして来たから、この辺でちゃんと勉強しないと。
「こっちの下町だ。キッポ。行くぞ」
「うん。おなか減った」
「ギルドに寄ったらメシにしよう。食料品も手にしておいた方がいいな」
ルカスの先導で、わたしたちはプラチノの街に入った。うわあ。本当に異国なんだ。建物が、石造りでは暑さに耐えられないためか、家屋や商店が草ぶきで建てられている。ルカスはすいすいと進み、一見して冒険者っぽい人たちの集まってる、下町に着いた。いろんなギルドが密集している。わたしたちは魔道士ギルドに足を踏み入れた。