25:精一杯の愛
「辛いの美味しいもんね。リムノも食べるでしょ? ボク、食べたい」
「『食べるでしょ?』も何も。もう、オーダーしちゃったじゃない」
「キッポ。一応言っとく。プラチノのこの料理、本当に激辛だぞ?」
あら。ルカスがご忠告。
「幻覚は起きないんでしょ? だったら大丈夫だよ」
完全に論点がズレてる。
「まあ、そうだが。――飲むか」
「そうね」
「うん!」
『かんぱーい!』
ごっきゅごっきゅ……、ぱあ~。
「この瞬間だけはたまらないわね。お酒は強く無いけど。暑い中で飲むと、格別だわ」
「ビールと暑さは『お友達』だよね」
「ドルイドの教えか?」
「教えは勝手に作っちゃいけないんだよ、ルカス」
――早くもズレた会話になってる。わたしは独り、アタマを抱えたくなった。でもいいわよね。これが、
『わたしたち』
なんだもの。
「ティアリアさん。あ。もしイヤだったら言って」
わたしは慌てて言った。
「ああ。もう大丈夫だ」
「じゃあ、言うわね。――そのー。最初から、ルカスに宝石の力を解放してもらいたかったのよね?」
「そうだな……」
「出会って最初のころから。小鳥になりたかったのね」
「シジュウカラだったね。ドルイドにやさしい小鳥だよ。空や雲の様子を教えてくれるんだ」
「『滅びの魔道』に長けてたことは話したよな? この結末は。――滅びでもあったが、再生でもあった」
「そうね。焼け滅んでいた高原が、あっと言う間に蘇ったもの」
「小鳥になることで。いつの間にか絡まっていた、『自分』を脱ぎ捨てたかったんだろう」
「――そっか」
少し、沈黙が訪れた。きっと。みんなが、ティアリアさんのことを考えている。シジュウカラの、真っ白で無垢な鳴き声を。
「それだけ。ルカスのことを、信頼して。愛していたのね」
「ああ」
「ルカスはきっと。それに応えられたと、ボクは思うよ」
「わたしも」
「オレも。――そう思う。精一杯の。オレの愛だ」
重くなりそうな空気を、
「こちら、『激辛』になります! お飲み物はいかがなさいますか?」
料理が破ってくれた。
「そうか、空いてたな。生でいいか?」
「ボクはいいよ」
「わたしも」
『生3つ、喜んでー!』
「じゃあ、食うぜー。――おう。たまらんな」
「あんまり辛く無いね」
ルカスとキッポのことばに油断した。
「辛過ぎるー!」
『口から火を吹く』
とは、まさにこのこと。何でこんなのを普通に食べられるわけ!?
「ちょっと! オーダーの責任取ってよ!」
「リムノ食べないの? ボク食べるよ?」
「とりあえず、ビール! ううん、その前にお冷!」
ごくごくごく。――舌が痛い。ヒリヒリするよお!
「わたしにも食べられるお料理を教えて!」
「ったく。じゃあ、ソース無しの生地でも食えよ」
「それで充分! すいませーん。お願いしまーす」
『ただいまー!』
「じゃあ、ボクが」
キッポが、あっと言う間にカラにした自分のお皿をどけて、わたしのお皿を手にした。
「信じらんない」
「ボクのセリフだよ。こんなに美味しいのに」
どうして。
どうしてわたしたちの旅って、こんなふうに終わるのかしら? これも『運の星』なのかなあ……。




