24:そしてまた
ん~。
はあ。良く寝た。
プラチノのホテル。予算は充分にあったから、またまたランク上のお部屋に泊まっちゃった。魔道で冷気を当てているから、お部屋の中は快適。涼しくっていい気持ち。
「お金はかかるけど、魔道ってすごいねえ。お部屋の中まで涼しくしちゃうんだもん」
先に起きていたキッポが言った。そうね。魔道書や巻物にお金はかかるけど、あらゆる場面で、万能に使えるから。
「ルカスは……。まだお休みね」
「うん。全力で戦ったんだもん。疲れてると思うよ」
「キッポは?」
「ボクは、前も言ったけど、兄弟の中で一番血の気が多いから。平気」
そう言えば、そんなことを言ってたっけ。
「――ん。悪い。オレが起きるの、最後か」
ルカスが目を覚ました。
「ごめんなさい。話し声で起きちゃった?」
「いや。さすがにそろそろ起きないとな。――キッポ。腹減ったか?」
「うん。もうペコペコ」
「いつだってそうじゃない」
「だって、食べないと力が出ないよ?」
「分かってます」
はいはい。まあ、確かに力は出ないんですけど。キッポの場合、ちょっと意味合いが違って来るのよね。食欲とか食い意地とか満腹感とか。
「ルームサービスばかりじゃなくて。食いに出るか」
「うん!」
また、キッポの耳が縦にぴくぴく。いいでしょう。お付き合いしますよ。
「どこへ入るの? この前のお店でもいいわよ?」
「ボクも。美味しかった」
「そうだな……。あそこは酒も飲めるから。今の時間だと、ちょうどディナータイムサービスで割り引きになる」
さすが、勘定係。お金のことはルカスに任せて正解。――お酒が優先されるけどね。
「じゃあ、たくさん食べられるね。リムノ、食べる? ボク、食べたい」
「いりません。普通の量で充分よ」
また、いつものやりとり。
「今度はどうするの? やっぱり『おめでとうパーティ』なの?」
キッポの問いに、
「ん。まあ。そうだな。――ある意味『おめでとう』だ。オレの目的が叶ったんだからな。こんな形でも」
そうね。ルカスには辛い結末だったけど……。ティアリアさんを。愛した人を、見送ったんだものね。
「どうせなら、盛大にやりましょ。わたしの時も、もったいないくらいに祝ってもらったんだもん」
話しながらホテルを出た。うわ。やっぱり暑いわ。夕刻なのに、風は熱気をたっぷりと含んでる。街を行き過ぎるプラチノの人々は、慣れっこなのか平然としてるけど。あ。これはルカスとキッポも一緒か。わたしはたちまち、汗が噴き出て来た。タオルで拭う。このタオルも、お洗濯しなきゃダメね。ホテルでやってもらいましょ。
「おっと。けっこう席が埋まってるな。ちょどいいタイミングだった」
お店に着いた。本当だ。もうちょっとで満席。お店の外にもテーブルが出ていて、ジョッキのビールをぐいぐいやってる、そんなお客さんたちもいた。わたしたちは、ちょうどこの前座ったテーブルが空いていて、そこに案内された。
「さてと。飲んで食うか。キッポ。テキトーでいいぞ。選べ。生3つ!」
『喜んでー!』
キッポは広げられたメニューのイラストに、かぶり付き。どれも美味しそうだけど、辛そうでもあるわね。うーん、わたしはどれがいいかしら?
「これにする。この、ご飯にソースが乗ってるヤツ」
わたしもイラストを見た。うん。美味しそうね。
「珍しく、キッポと意見が一致。わたしもこれにする」
「オレもそうするか。おーい!」
『ただいまー!』
何とも無く、ちょっとイヤな予感が脳裏をよぎった。このパターン。前にもあったような気が……。
「こちら、生3つです! 承ります!」
「これ、3つくれ」
「激辛でね」
キッポがにこにこして付け加えた。
『喜んでー!』
あーあ。やっぱりか。




