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22:ルカスの本気

 瞬時、ルカスとティアリアさんがぶつかった。ものすごい勢いで攻撃が繰り出されている。『アルプラチノ』の下で、巨大な力同士が混ぜ合わされていた。何て言う皮肉。『守のもの』が見守る中で、戦いが起こっているなんて!

 そう考えるより速く、ルカスとティアリアさんは元の位置に戻った。ルカスが肩で息をしている。ルカスの本気を初めて見た。海賊と戦った時や、シワタネの古びた塔でのことが思い返される。確かにこれなら、どんな敵がいたって楽勝だろう。

「――ルカス。手を抜かないでよ。あたし、魔道も魔法も使っていないんだから」

 これで手抜き!?

「オレは……。お前を倒したくない。諦めてくれ」

「叶わぬ願いよ。――もう、後戻りは出来ない」

「まだ間に合う」

「ウソ。あたしだって、ルカスと剣を交えたくない」

「オレは愛してる」

「あたしだって!」

 再び剣が交わった。ピッと、ルカスの口元に紅い筋が走った。ティアリアさんの皮鎧、止め紐が切れて、地面に落ちる。皮鎧の下の衣服が、少しずつボロボロになって行く。

「師匠。――止められませんか?」

 わたしはルカスの師匠に訊いた。

「残念じゃが。これは2人同士の戦い。わしが出たら、逆に恨まれるだろうよ」

 そんな……。やはり、どちらかが倒れるまで、戦いは続くの?

 また、一瞬でルカスが戻った。息が速い。額も切られたようだ。血の流れが目に入る。ルカスは構えながら、それを拭いた。わたしには、どうにも出来なかった。キッポも同じだろう。――どうして、愛し合っている者同士が、戦わなきゃいけないの? それも、どちらかが致命的な傷を負って、倒れるまでなんて。

「ルカス。もう……、止めてよお」

 涙が出て来た。こんなの。絶対に間違ってる!

「リムノ。ティアリアの考えが変わらない限り、戦い続けるしかないんだ。それが。オレたちの在り方なんだからな」

「娘さん。泣いてくれてありがとう。でもね? ルカスの言う通り、あたしたちはこうなるしかないの!」

 言い終わるが早いか、もう一度剣と剣が交わる。お互いの攻撃が速過ぎて、動きが残像でしか捉えられない。2人の傷が、だんだん増えて行く。それでも、ティアリアさんは魔道も魔法も使わなかった。ルカスと同じ条件で戦っている。――愛し合っているから。だからなのかもしれない。同じでありたい、同じになりたい。だからなのかもしれない。

 わたしには……。ひよっこのわたしには、その『愛の在り方』が理解出来なかったけどね。ただ、これ以上戦って欲しく無い。どちらも倒れてなんて欲しく無い。ティアリアさんの行いは正し難いけど、血はもう見たく無かった。

「ドルイド魔法で、止めさせられない? キッポ」

「そんな魔法は無いんだ。ボクがチップルと戦ったように、手の出しようが無いんだもん。事情は違っても」

「師匠……?」

 わたしは見上げた。

「キッポ殿の言う通り。誰も手出し出来ん。わしも手は貸せんのじゃよ」

 ――バギイイィィン!

 激しい音とともに、ティアリアさんの剣が折れた! もう終わりにして!

「強いわね、ルカス」

 ルカスがわたしたちの前に戻っていた。大きく息をしている。ルカスの剣もボロボロになっていた。ティアリアさんはそのことばと同時に、虚空から魔道で、新しい剣を取り出して構えた。何て言う力なの!


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