21:衝突
「あらあら。娘さん、おもしろい玩具を持ってるのね。額冠に魔道を封じてたなんて」
案外なことに、ティアリアさんはあっさりしていた。わたしとキッポの前に、師匠が立ってくれる。ルカスも守るように、並んで立った。ルカスと師匠が剣を抜き、構える。
「人質は戻った。ティアリア。諦めるんじゃな」
ティアリアさんは笑った。とても無邪気な笑いに見えた。
「いいわよ、そんなこと。それだったら部落に狗畜生と豚化物を差し向けて、部落ごと滅ぼしちゃうだけだから。それとも『豪炎』の魔道で、生きながら焼かれるところを見せた方が効果的かしら?」
笑いながら話すティアリアさんに、改めてぞっとした。――生命なんて、これっぽっちの埃ぐらいしか考えていないみたいなんだもの!
「今度はキツネの坊やも、黙って見ていられないでしょ? 魔道じゃなくて、ドルイド魔法で殺し尽くす方がお好み? 一人ひとり『氷柱花』の魔法で、固めてから砕いてあげてもいいのよ?
『鉱石はある場所に』、
って、ドルイドの教えにあるものね」
「そんな教えは間違ってるよ! もう止めて!」
キッポが叫んだ。それに触発されたのか、ティアリアさんはさらに頬笑みを浮かべた。とても嬉しそうに。
「それは失礼。ふふっ。宝珠の持ち主だけあるわね。あたしが教えられるとは。――どうしても戦いは避けられないの? じぃさん。あたしだって真正面からぶつかりたくない」
師匠は一歩、前に出た。
「破門に付したとは言え。門下の者だ。わしも戦いとう無い。今ならまだ間に合う。諦めて高原を去れ」
「そうも行かないのよ。奥義を手にして、あたしはもっと強大な存在になるんだから!」
一瞬の出来事だった。瞬きするのより速かったかもしれない。『アルプラチノ』の下で、師匠とティアリアさんが、剣を交えている! 拮抗して、間合いを取ったかと思うと、再びぶつかっていた。目にも止まらぬ速さで、剣技が繰り出される。
『ギイイイィィィン!』
と響きが渡った時。師匠とティアリアさんは、元の位置の立っていた。違っているのは、師匠の服が一部、切り裂かれているのと、ティアリアさんの皮鎧に、無数の傷が付いていたこと。どんなレベルなのよ!
「――強くなりおったな」
「魔道も使っているからね。『武器高攻』だけど、少しは役に立ってる、初級の割には。じゃあ。こんなのはどう?」
炎が津波になって襲って来た! 『豪炎』だ! 師匠が横に剣を構え、バリアーを張っているかのように、わたしたちを炎の波から守ってくれている。それでも限界があるのか、髪の毛が少し焼ける臭いがした。何て言う戦いなの!? 今度ばかりは、『アルプラチノ』にも火が付いた。『豪炎』が止むと、ぱちぱちと爆ぜる音が聞こえる。煙を上げながら、『守のもの』が炎に包まれた!
「これ以上、樹をいじめないで! 間違ってるよ! 2人とも好きなんでしょ!? 戦うべきじゃないよ!」
「今、消すから!」
わたしも魔道士。働かなきゃ! 『氷嵐』を『アルプラチノ』に向かって発動させた。魔道の額冠のおかげで、段違いの力だ。くすぶってるけど、炎は完全に消し去った。――ごめんなさいね。『守のもの』なのに、痛い想いをさせちゃって。
「キツネの坊や。愛してるからこそ、なのよ。だからあたしは戦ってる。分からないかもしれないけどね」
「キッポ。――もういい。リムノも。すまなかったな。オレの戦いだ」
ルカスは改めて剣を構えた。
「ティアリア。オレも愛してる。だから……。オレを倒せ」
「いいの? ルカス。全力で立ち向かうわよ?」
「望むところだ。オレはオレ自身のために、お前と戦う。――破ったら。その時、師匠に訊いてみるんだな」
ルカスの重たい決心が、ココロに痛かった。避けられないのね、どうしても。わたしはルカスに、攻撃と守りの魔道を使おうとした。でも。
「リムノもキッポも。オレだけの力でいい。魔道も魔法もいらない」
――あらかじめ予想出来たことだけど。やはりルカスは協力を否んだ。また……、また見ているだけの立場になるの? キッポとチップルの時とは、戦いの意味がまるで違っていたけど、あるべき戦いじゃない。それだけは言える。でも……。




