20:あの時の宝石
「やめろ。お前とは……。戦いたくない」
振り絞るようにルカスが言った。
「じぃさん? そろそろ魔道と剣技の奥義、教えてもらえない? ルカスの、大切なお仲間の生命を頂いちゃう前に」
「ままならんな。そこまでして力が欲しければ、わしと戦え」
「冗談。じぃさんの力は、あたしもルカスも良く知ってる。だからこうしてるのよ」
そう言ったティアリアさんは、ちょっとだけふらついた。
「ノーモーションで『精神崩落』。変わって無いのね、その力は」
師匠が魔道、『精神崩落』を使ったらしい。でも、ティアリアさんは全く苦にしている様子が無かった。何て言うレベルなのかしら。――だけど、わたしだって魔道士。自力でこの『絡縛綱』を打ち破らなくちゃ。脳裏は逆魔道をキャッチしている。いつでも発動出来るようにして。
「ねえ、ルカス。あたし、嬉しいわ。あの時の宝石を、まだ持ってくれていること。覚えているかしら? 別れの時のことば」
長剣の柄を握ったままのルカスに、ティアリアさんは訊いた。そうだ。どんな魔道が封じられているんだろう……。
「覚えてるさ。
『いつかまた会えたら。この宝石の力をあたしの前で開放して』
だろ? どんな力が封じられているのか、オレには分からん。解放するタイミングもな。こんな形で再会して。――それでもオレに求めるのか?」
「ありがとう。今でもルカスのことを愛しているわ。戦いたくないのはあたしだって一緒。 ヘタをしたら、あたしが殺られるもの。ルカス。少しでもまだ、あたしのことを思っているなら」
「――ああ」
「じぃさんから力をもらうこと。協力してよ」
「オレに……。そんなことを求めているのか。出来るわけが無いと分かっていても」
ティアリアさんは、小さく息を吐いた。
「そんな優柔不断なところ。それをも愛してるけど。事情が変わってるのよ、あの時とはね。娘さんとキツネの坊やが、苦しみながら息絶えるところ。見たくは無いんでしょ? だったら……」
ティアリアさんの意識がルカスに向かってる。チャンスは今しかない! わたしは逆魔道を唱えた。とてつもなく巨きい力だったけど、わたしには魔道の額冠がある。絶対に打ち破れる!
「キッポ!」
ツタがぼろぼろになるのと同時に、キッポの手を握って、ティアリアさんの背後からル
カスの元へ走った。全力で!




